32 残念令嬢無条件の愛を知る。
「そのままアレクシスの側近として公爵家に出入りしてればそのうち出世も出来たかもしれんが、こっちが最短で手っ取り早いから経営に踏み切ったんだ」
アレクシスの側近だと当然彼の側に居ることが最優先になる。
それだと結局はリリーの側に居られなくなると気が付いた彼は経営を学び直すため自国の学院(大学)で学んだ後、他国へ短期留学をした。ついでに1人で諸外国を巡り自国にない文化や考え方を学んだ。
そして自国になかった商売を始めるために小さな商会を作り、諸外国で得た伝手を使って様々な食材を手に入れて目新しい甘味を次々と作り出して自分のカフェで提供した。
しかも最初に招いた招待客は国王夫妻とリリーの両親だったらしい。
「え? 知らなかった・・・」
「国王夫妻に関しては箔をつけるために来てもらいたかったから少々強くお願いをしたけど、公爵夫妻は気軽に来てくれたよ」
「・・・」
一体陛下に何をしたんだろうと思わず疑いの目になるリリー。
「こればっかりはアレクシスに感謝してるよ。その後陛下達からの紹介もあって貴族に周知されて結構早いうちに軌道に乗ったからね」
そう言ってウィンクをしたアルフィーは、それ以上詳しいことは教えてくれそうに無かった。
×××
「何でそこまで私の為に・・・」
リリーが婚約をしたのは約3年前。
その短期間に陞爵できる程の経済効果を上げ国に認められたということは彼の能力が高く、その上で並々ならぬ努力があったからだろう。
しかも主家である公爵家嫡男の側近候補を棒に振ってまで新規事業を始めるというのはかなりの冒険だ。
もし彼が王城で文官になったとしても、かなりの出世をしたに違いない。
「え? 何のためって、さっき言ったろ? オマエの側に居られる権利を得る為だよ。偶々アレクシスも宰相補佐に誘われて国政をいじる側をやってみたいっていうからさ、じゃあお互いに丁度良いかって事で2人で違う畑を耕す事にしたんだ」
「畑を耕す・・・」
「アイツは政治、俺は経済ね」
フフフと上品に笑うアルフィー。
「俺だけじゃ無くてアレクシスも、お前が困るようなことや悲しむような事は絶対にさせないって決めたんだ。公爵夫妻だって同じだよ」
「・・・それって」
「ルパートとの婚約はオマエの両親にとっては、政略婚じゃ無かったんだ。集まってた釣り書きの中では金髪の優しい人ってのが、アレだっただけだ。ただ、婚約者と同じように周りの女性にも優しいのはいただけなかったけどな」
「え?」
「俺がアレクシスに確認したから間違いないよ。公爵夫妻にも確認したからね。『金髪で優しい人』がお前の理想だったから選ばれたらしい」
「ええええぇ!?」
今更だが吃驚である。
「リリーは自分の事を政略婚の道具と思ってたみたいだけど、アガスティヤ公爵家もその派閥も元々そんな事する必要は無いくらい力があるんだよ。どうしてリリーがそういう考えになったのかは今調査中だ」
「え?」
「そもそもあの公爵夫人がルパート・セイブリアンを黙って許す訳が無いだろう? お前の元家庭教師達も洗い浚い調べ直してる途中だよ。ああ勿論ルパートの調査も進んでるから安心しろ」
「え」
目の前の。淑女がにこやかに笑った。
「まあ、お前は無条件に愛されてるって事をもうちょっと自覚しないと国が割れるぞ?」
「ええええぇ・・・」
国が割れるというのはどういう事よ!? と真剣に悩むリリーを他所に、馬車は恙無く進むのであった・・・




