31 残念令嬢混乱する。
リリーの冷たくなった手を突然温かいアルフィーの手が包み込んだ。
眼の前で跪く美女が目に映る。
「ごめんよ、リリー。まだまだ俺は子爵のままだ。頑張ったけど陞爵は来年度になる」
「え? 陞爵」
「うん。この国のケーキカフェってほぼ俺の店だから、経済貢献したってことで評価されたんだ」
「ええええぇ?!」
「あれ? 知らなかったっけ?」
確かに女性向けの『ケーキカフェ』と呼ばれる場所はここ何年かで出来た文化だと言える。
その前にあった『カフェ』と呼ばれる場所は飲み物と喫煙所がメインの男性向けの場所で男性の社交の場でもあり、夜はアルコールも提供され女性お断りの場所も多かった。
『ケーキカフェ』は禁煙で性別年齢を問わず入店出来て夕方には閉店する。
その為健全なイメージがあり、女性同士の交流の場として、そして若者の語らう場所として受け入れられるようになった。
ケーキカフェで流行りのスイーツを食べる事や仕事帰りに最新のケーキを買って家族に持ち帰ることが王国民のステータスとなりつつあるのも事実である。
「いつの間に・・・」
「いや、リリーの為に、というか俺の為に? いや、どうなんだろ?」
「?」
「ん~~、つまり、お前が安心して俺の所に来られるようにするのが目的だったんだよ。お前が侯爵夫人になってもケーキカフェなら来られるだろ?」
金髪巻き毛の美女が首を傾げる。
「え?!」
「俺の女装だってそうだよ。お前の行きつけの店が男の店長じゃ不味いと思ってさ。女装する男ならそういう目で見られないだろうし。寧ろ女装だと恋愛対象が男だって思われる事が多いし」
不満気に口を尖らせるアルフィー。
「ええ?!」
「だって、リリー泣き虫だろ? 意地っ張りだから俺以外に泣き言を言わないし。だからお前の逃げ込む場所を作りたかったんだ。いつまでも柳の木の下って訳にもいかんだろ?」
「ええええ?!」
「お前に婚約者が出来た時に、お前の為に俺にしてあげられる事は何かを考えたんだ。そしたらこれしかないだろうなって。お前甘い物に目が無いし。甘味を食べてる時はいつも幸せそうだしさ」
「えーと・・・」
「ん? どうした」
不思議そうに首を傾げるアルフィー。
「ねえ、それって私が侯爵夫人になってもずっと会ってくれる予定だったって事?」
「当たり前だ。お前が俺のプロポーズを忘れてても俺は覚えてる。2回もしたんだ。お前にとっては子供の戯言だったかもしれんが」
ムッとするアルフィー。
「え? 2回って?」
「ほら、やっぱり忘れてるじゃないか」
「・・・え~」
困った顔のリリーに向かい、とても淑女には見えないニカッとした笑顔を向けて
「お前が俺の事を要らないって言うまでは、側にいられるように努力するさ。俺って意外に一途だったみたいで、お前以外好きになれないみたいだから」
なんだか知らない人に告白されてる気分になって、頭がクラクラしてきたリリーである。




