30 幼き奏鳴曲4
リリーはとても素直に手を差し出してきて、大好きになった彼と手を繫いで一緒に遊びたがるような子だった。
彼女が4歳の時に公爵家の教育が始まった。武門の家系のアガスティヤは男女関係なくこの歳から身体を鍛えられるのだ。
リリーが子供用の木剣をその小さな手で握った時にアルフィー達は心配したが、彼女はこれで兄やアルフィーと一緒にいる時間が増えたと喜んでいた。
それが一層愛おしく思えた。
本当に一生懸命に鍛錬に付いていく幼い姿は可愛くてアレクシスはいつも妹を見ては悶えていて、筋金入りのシスコンの親友を見て若干引いたが自分だってあまり変わらないことに気がついて唖然とした。
そしてある日突然、毎日の鍛錬に第3王子のフィルバートがやって来て邪魔をするようになった。
彼は同い年のリリーを目の敵にしたが、多分叔父である公爵によく似た彼女が好きなのだろうとアルフィーは気がついた。
フィルバートは軍の総帥である叔父の公爵に憧れていたからだ。
公爵によく似たリリーを意識しすぎていじわるをする彼を見ていて、イライラする自分を不思議に思ったが妹分を虐められるのが気に入らないだけだろうとその時は考えていた。
ある日剣術の試合に勝ったフィルバートがリリーに『子分になれ』と言い出してアレクシスにぶん殴られる。
当然自分もぶん殴りたかったが、リリーが泣きながら走っていくのを追いかける方を優先してその場はアレクシスに任せ、彼女がいつも隠れる場所まで走ったのだ。
「何でリリーは弱いの? いつも負けるのはどうして?」
柳の木の下で悔しそうにそう言いながら泣きじゃくるリリー。
困ったアルフィーだったが、彼女は自分が女の子だと分かっていないのだとその時初めて気が付きその事を懇切丁寧に説明したのである。
納得したかと思ったがお姫様ではないと拒否をされ、なぜかと聞けば指輪をしていないと言われてしまう。
――ああ、やっぱり小さくても女の子なんだ――
アルフィーはその辺に咲いていた花で指輪を編んで、彼女の指にはめたのだが。何故かそのままの流れでプロポーズをしてしまった・・・
そしてその時気が付いた。
8歳の少年が5歳の幼女に求婚するという何とも小っ恥ずかしい事をしでかしたクセに、自分が何故か満足していることに・・・
リリーは嬉しそうに笑っているが、アルフィーは当然顔は赤くなって頭がクラクラした。
理由は分かっている。これが初恋と言うやつだろう・・・
そして翌日会ったときは綺麗サッパリ昨日の事を忘れているリリー。
仕方ないよな5歳だ、子供だもんなと一人打ちひしがれるアルフィーだったが、忘れてくれて良かったのだと自分を慰めた。
その翌年。
王城での6歳を祝うお茶会にリリーは招待される。
もちろんアガスティヤ家は全員参加だが、アルフィーはアレクシスの側近候補として何故か一緒に連れて行かれた。
着慣れない豪華な衣装はアレクシスとお揃いで若干緊張したが、リリーの可愛いドレス姿を見て頬が緩んだし、リリーはアルフィーの姿を見て『王子様みたい!』と言って喜んだ。
若干アレクシスが拗ねたが・・・
そしてあの運命の事件が起こる。
フィルバートがドレス姿のリリーを指さして
『リリー、その恰好なんだよ? 残念な奴だな』
と叫んだのである・・・
少し離れた場所で待機していたアルフィーはギョッとした。
リリーが完全にショックを受けて立ち竦んでいるのに、慰めるどころか周りの貴族達はその事を笑ったのである。
国王夫妻と公爵夫妻が同時に彼を咎めたが謝らないフィルバートに怒ったアレクシスが決闘をするために手袋を外しかけて大騒ぎになったが、その隙にリリーが駆け出し、またもフィルバートを殴りそこねたと思いながらひたすら追いかける。
王家の中庭の木立の中にやっぱり柳の木があって垂れ下がる枝の下に隠れて泣いているリリーを見つけ、またもやピンクの花で作った指輪を差し出したアルフィー。
つまり、彼は2回も幼い彼女にプロポーズをしたという訳だ。
そしてアルフィーがリリーにプロポーズした事は、今日まで完全に忘れ去られていたのである・・・




