29 幼き奏鳴曲3
出会った日は空が抜けるような青さだった事を覚えてる――
芝生の上でまるで仔犬のようにボールを追いかける姿は男の子なのか女の子なのか分からない位には日焼けをしていた。
侍女が日傘を持って追いかけるが、彼女が走るスピードに追いつける訳もなく日除けの為に被せられている筈のつばの広い白い帽子も風で飛ばされ、あっという間に木の枝に引っかかる。
それを見て大笑いをするのを呆れて見ていると、急に此方を振り返りニコリと笑って幼いながらも綺麗なお辞儀をした。
その笑顔はまるで庭に咲く向日葵のよう――
それが、リリー・アガスティヤとアルフィー・アルモンドとの出会いだった。
そもそもアガスティヤ公爵家は武門の家系で、辺境伯と共に国の攻守を担っている公爵家だ。
ただし武力だけでは領地が立ち行かなくなる恐れもあるため、経済を回す為のブレインとしての役割を果たす為の貴族家がいくつか存在した。
その1つがアルモンド家だ。
アルモンド家は国王派の一角を担う由緒ある伯爵家でもあった。
そのアルモンド家の次男がアルフィーだ。
彼は幼い頃から卒なく何でもこなす器用さと気が利く温和な性格だったため、主家であるアガスティヤ家の嫡男アレクシスの遊び相手として選ばれた。
嫡男は伯爵家を継ぐ立場だが次男である彼は成人後、父の持つ爵位の1つを貰い受ける予定になっており将来的にはアレクシスの補佐という役割も視野に入れられての関係でもあったが、予想以上にアレクシスと気が合い公爵家に足繁く通うことになったのだ。
最初はアレクシスと遊ぶだけの関係だったが、そのうち武術の鍛錬や乗馬や社交術まで公爵家で学ぶようになり、彼とまるで双子の兄弟のような間柄になってしまった。
そしてある日、アレクシスに妹を紹介された。
たったの3歳だったリリーはお転婆で乳母が目を離すと直ぐに何処かに行ってしまうような落ち着きのない子で、広い公爵邸の中で頻繁に行方知れずになっていた。
門番はいつも厳戒態勢で彼女が外に行く事の無いように目を光らせるのが最重要任務となってしまった為、絶対に敷地内からは出ていけない。
なので自邸の中に居るはずなのだが、それはそれは見事に姿を消すのである・・・
大抵見つけるのは兄であるアレクシスなので、親友のアルフィーにも一緒に探す責を負わせる魂胆だったのだろうと今なら分かる。
隠れる天才のリリーが、今日は大人しく? 侍女と一緒にいるからと広い中庭に引っ張っていかれて引き合わされた。
そして彼はリリーにあっという間に兄以上に懐かれたのである――




