26 残念令嬢胸の痛みを知る
リリーの転倒を防ぐためにアルフィーが慌てて彼女を抱き止めたまでは良かったのだが、そのまま尻もちをついた彼の足の間にリリーが座り込んだ形になったので、彼の着ているワンピースの裾の上にリリーの全体重が乗ってしまい、彼は身動きが取れない訳で。
「いや、あの。ね」
見た目は淑女のアルフィーなのに、思いがけず筋肉質な硬さの胸に驚いて挙動不審になるリリー。
自然に顔も赤くなる。
「ああ。うん。あー大丈夫?」
赤くなったリリーを見て、何かを言おうとして口を開くが気の利いた言葉が出ないアルフィー・・・
「う、うん。大丈夫」
流石は公爵家御用達の馬車の床。
敷き詰められた赤い絨毯はフッカフカで2人共怪我は免れた。
「リリー席に戻って? 服の裾に思いっきり座っちゃってるからさ・・・立ち上がれないんだよ」
照れながら困った顔になる美女仕様のアルフィーに更に頬を染めるリリー。
間違いなく傍から見ると密室状態の馬車の中が、1部の愛好家に受けの良さそうな百合空間。
取り敢えず2人が別々の席に着席することでピンク色の雰囲気は霧散した・・・
×××
2人が椅子に座り直して落ち着いた事を確認してからリリーは続きを話す事にした。
「あのね、昨日夢を見て思いだしたの。フィルバートとの試合に負けて隠れて泣いてたら、アルフィーが追っかけてきて」
「うん」
「私はお姫様で守られる側だから、負けてもいいんだよって言ってくれて。でもお姫様は王子様から貰った指輪をしてるって私が拗ねて言ったらアルフィーが作ってくれたんだよね。庭の花を使って。私を守れるように強くなるから待っててねって言って」
緩く頷くアルフィーを見て、次の言葉を続けるかどうかを迷ったリリーだが、
「その時にアルフィーに言われた事も思い出したの」
濃い青い瞳を1度閉じたあと意を決するように両手を握り拳にして
「大きくなったら、結婚しようっていうプロポーズ・・・」
そこまで言って恥ずかしくなり俯くリリー。
「してくれたでしょ?」
「・・・うん」
彼の声がリリーに届き思わず顔をバッとあげると、顔を両手で隠す美女の姿。
隠しきれて無い彼の耳が真っ赤に染まっているのが目に映った。
×××
甘い空間を馬車は恙無く運んでいく。
但し、空間は甘いのだが距離はお互いに遠いままである。
なんでかって、そりゃあリリーにスケ●マシな婚約者という枷があるからだ。
少しだけうつむき加減だったアルフィーが両手を顔から離す。
向かい側に座るリリーを見る榛色の瞳は真剣で。
「子供の頃だったから許されたかもしれないが、本当に身の程知らずだったと思うよ。お前に求婚するには俺の身分が低すぎる」
アルフィーの放ったその言葉でリリーの心臓の奥深くに突き刺さされたような痛みが走る。
彼女は自分の身体が急激に冷えていく様な気がした。




