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24 残念令嬢のご家族様

 「何だコレはッ?!」



 アガスティヤ公爵家の執務室でリリーの兄アレクシスが書類の束を捲って叫ぶ。



「坊ちゃま、声が大き過ぎます」



 思わず眼の前で報告書を渡した後お辞儀をしていた執事長が顔を上げて小声で注意する。



「分かってるが、これは酷い。すぐ両親に同じものを渡すように。城には早馬を」



 落ち着くために深呼吸をしてから指示をするアレクシス。


 もう1人彼の目の前に立っていた護衛騎士団長が、後ろに控えていた部下に目配せをして執務室から退出させた。



「リリーを蔑ろにしているのか? それとも唯の馬鹿か? 馬鹿か? 馬鹿なのかッ?」



 だんだん深呼吸の成果が薄れてきたようだ。



「坊ちゃま、3回・・・」


「いや、きっと馬鹿に違いないッ!」


「「・・・4回」」


「こんな馬鹿にリリーを嫁がせる訳にいくかあぁああッ! 早馬を出せッ! いや、俺が侯爵家に今から早馬に乗って出掛けるから、剣を出せッ! 叩き斬ってくれるッ!!」



 ――5回・・・効果切れ。



「坊ちゃま、落ち着いて下さいませッ!」


「そうです、落ち着いて対処してこそ次期公爵家当主ですぅ・・・?」



 と、騎士団長の言葉途中で執務室のドアが、『バーンッ』という音と共に開け放たれ



「アレクシスッ! 今からあのバカ息子をシバキに行くわよッ! オトシマエつけないと気がすまないわッ」



 黒と茶色の革で丁寧に編み込まれた、見事な長鞭(ロングウィップ)を持った公爵夫人が鼻息を荒らげて立っていた。



「奥様ッ! お気を確かにぃぃッ!」



 侍女長であるマーサが公爵夫人の腰に手を回して必死になっているが、ドアを蹴り開けたであろう片足はまだ床に着地しそうにない。


 素晴らしいバランス感覚だ。



「「「・・・」」」


「あんのルパート。ワタクシのかんわいいリリーちゃんをコケにしくさりましたわッ。お仕置きをしなくちゃ気が済まないわッ!」


「奥様ぁ~、お気を確かに!!」


「侯爵夫妻もそうだけど、あの派閥自体を沈めてやるぅぅ」



 上がっていた片足は無事着床したが『ダンッ! ダンッ!』という音がするので、外側からは見えないがドレスの内側でハイヒールを床に打ち付けているようである・・・ 


 ヒールが折れないといいな、と騎士団長の視線が宙を彷徨う。



「エヴァンスッ! 馬を出しなさいッ!! 兵を集めて奇襲をかけるのよッ! 焼き討ちよッ! ええい銅鑼(ドラ)を鳴らすのですわッ 討ち入りですのよッ」


「奥様ぁ! 正気に戻って下さいませッ!! 兵を挙げてはなりません~!!」



 マーサの叫びが執務室に美しい余韻を残して響いた・・・




 ×××



 登城して軍の執務室にいた公爵が早馬の知らせで慌てて帰宅したのはその数刻後。



「マーサ、ご苦労だった。エヴァンスもセバスチャンも待たせたな。アレクシス? どうした? いやに落ち着いてるな」



 何時もなら、(シスコン)まっしぐら! で怒り狂っているはずのアレクシスがソファーに座り落ち着いているのを見て、公爵閣下が首を傾げた。



「いえ、人間自分より上回る圧倒的パワーを感じると、自分はまだまだ青二才(無力)だ、と冷静になれるモノなのですね」



 若干冷めた紅茶を啜りながら、窓の外に広がる庭園に視線を向ける嫡男。



「?」



 息子の視線の先には、美しい庭園が見えるが何故か霞的(弓矢の的)が花壇前に設置されており、公爵夫人がこれでもかという勢いで弓を連射中・・・


 的の真ん中にどうやら何かが貼っているらしいのだが、ピンクッションに刺さったマチ針状になった矢で、全く目視確認ができない有様だ。



「オフィーリアは何をやってるんだ?」



 首を傾げる公爵に



「ルパート・セイブリアンの姿絵を的にして憂さ晴らしさせてます。内戦になると不味いので」



 アレクシスがそう言って遠い目をした。




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