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23 残念令嬢は指輪の君を思い出す。

 「椅子で寝てる?」



 ええっ?! と驚くリリーに困り顔になるアルフィー。



「そうだよ。椅子で座って寝ると、翌日若干背が低くなるんだ。あとは踵のない靴と姿勢で低く見せてるだけで元々の身長は今日くらいだよ」



 彼は(おど)けるように肩をすくめて、頭の上の方に手を(かざ)す。



「そんなに高さが変わるんだ」


「ああ。アレクシスの依頼とかで夜会に行く日の前日は必ずやるね。最近はリリーと出掛ける日の前日かな? 翌日何処にも行かない日はしないけど」



 そう言いながら、笑うアルフィー。



「ええっ? じゃあ、この所毎日じゃない!?」


「んー、そうだね。昨日は久しぶりにベッドで寝たよ。だから今日は背が高い」



 ふふふ、と楽しそうに微笑む幼馴染。



「何で?」


「そりゃあ、隣に立つアレクシスやリリーをより引き立てる為だよ? アレクシスは背が高いからあまり気にしなくてもいいけど報酬も貰うビジネスだからね」



 なんて事無さそうに、そう言うアルフィー。



「ベッドで寝ないと疲れが取れないんじゃないの?」


「ん~~、馴れたよ。リリーの場合は隣に女装した俺が並んだ時にさ、より男っぽく見せたほうがいいでしょ? 男女間で高低差があると例え男性側が細身でも逞しく見えるんだよ。目の錯覚だけどさ。出来るだけ身バレしないように気をつけないとな」


「そこまでしなくても・・・男装してるのが私だってバレても別に・・・」



 それより仕事もあるのだから身体を休めた方が良いんじゃないかと言いかけたリリーだったが、



「もしアレがお前の男装だってバレた時に、俺がリリーと一緒に出掛けてたせいで、お前の身持ちが悪く言われるのが嫌なだけだから。俺の女装だっていつバレるかも分からないだろ? だから気にしなくてもいい」



 馬車の窓から外を眺めながらアルフィーがポツリとそう言った。



「お前は婚約者がいるから。バレちゃ駄目なんだよ。俺はいないから大丈夫だけどな」



 突然此方を振り返りウィンクをして見せるアルフィーに、リリーはドキリとする。



 ――そうだ、自分はルパートという婚約者がいるけど、彼には・・・



 そこまで考えた時に



 ――ん? アルフィーに婚約者? ・・・何で私ムッとするのかしら?



 眼の前の美女に扮する幼馴染の顔をじっと観る。



 「ん? どうした」



 急に顔をマジマジと見られているのに気が付いた彼が目をパチパチとさせる。


 しっかりとした二重。榛色の瞳――金色の巻き毛が首を傾げるとフワリと揺れた。



「あああぁッ!」


「?! リリー?」


「お茶会の王子様ッ!」


「!!」



 動く馬車の中で思わず座席から立ち上がるリリー。



「うわ? 危なッ!」



 その途端に馬車の車輪が石を踏んだのか『ガタンッ』と大きく揺れてバランスを崩して横向きに倒れそうになるリリーに慌てて手を伸ばし、自分の腕の中に抱き込むアルフィー。



「莫迦! 何やってるんだよッ!?」



 思いがけずアルフィーの胸の中に飛び込んで固まるリリー。



「あ、アルフィー?」


「ん?」


「ピンクの花の指輪をくれた王子様はアルフィーだよね?」


「ッ!!」



 リリーの言葉を聞いた途端、顔が林檎のように赤くなるアルフィー。



「やっと思い出した」



 満面の笑みを浮かべたリリーを困り顔で眺めるアルフィー。



「リリー、思い出したんだ」


 


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