15 残念令嬢モテモテになる。
「しかし彼は、相変わらずですねえ。あれでは婚約者がいるとは思えません」
暫くすると店を出て行ったルパートとその連れを思い出し、憂い顔で溜息をつくリリー。
王子様のような姿で美味しいケーキを食べ終わった後の紅茶を優雅に飲むリリーの姿は、まるでその場所だけが切り取られた空間のように見える。
元々彼女は背が高い上に、手足もスラリと長く女性の割には大柄だ。
王家に連なるアガスティヤ公爵家の方針で、子供の頃から剣術や馬術等は人並み以上に教え込まれるため、動きに優雅さだけではなくキレがある。
女性の中にいると少しばかり異彩を放つリリーだがこうやって男装してくつろいでいると、まるで一幅の絵画のようだ。
そりゃあもう必然的に目立つ。
しかも社交界の白薔薇と言われるくらい格好の良い兄であるアレクシスの立ち振舞をコピーしてきたのだ。目立つ為に自ら拍車をかけているのだから仕方ない。
流石に目立ちすぎだろうよ、と若干頭が痛くなるアルフィー。
「リアム」
「うん? なんだいフィリア?」
「目立ち過ぎだわよ」
「え?」
「周りを見て御覧なさいな」
そう言われてそっと周りを見回すと、あちらこちらから身を乗り出すように女性達からガン見をされていることにようやく気が付き、そっとアルフィーに顔を寄せると
「・・・何かおかしかったかな?」
と、囁くと周りから『キャッ』『素敵』『イヤ~ン』とか・・・俗に云う黄色い声があちらこちらから聞こえて来る。
「何ていうか、おかしいんじゃなくて」
「なくて?」
コテンと首を傾げると、『あざとい』とか『尊い』『だめえ』とかいう聞き慣れない言葉が飛び交う。
「・・・アレクシスとはタイプの違う王子様だから仕方ないんじゃない? 鏡の中の自分を思い出してみなさいよ」
呆れ顔で目の前にいる美女が肩を竦める。
「ああ、成る程」
自分で自分の姿を見て好きになりそうだったなと冷静になって思い出し椅子に座りなおすと、グルリと周りを見直した後で極上の笑顔を披露した。
途端に『ガタッ!』『ガタガタ!』という席を立つような音と、
「「「「キャアア~♡」」」」
という黄色い悲鳴がホールに響き渡った・・・
その直後、慌てたアルフィーに背中を押されてケーキカフェを逃げるように出たのはご愛嬌である。
×××
「ああ、楽しかった」
「俺は寿命が縮んだよ」
小声でコソコソ会話しながら、アルフィーに肘を差し出しエスコートも忘れないリリーは完璧な王子様である。
「いや、ホントに脱帽だわ。こんなに短期間にアレクの模倣を完璧にしてくるなんて」
「う~ん、そうかなぁ。小さい頃からかっこいいなぁと思って見てたから」
「アレクシスを?」
「いや、男性全般かなあ。兄上も騎士達も、家令も、かな。勿論父上もだよ」
公園の石畳を進みベンチを見つけて二人で座る。勿論フィリア(アルフィー)の座る場所にハンカチをさっと広げるのも忘れない。
「・・・完璧過ぎる」
ボソリと呟くアルフィーを他所に、リリーは首を傾げながら思い出すように空を見上げた。