11 残念令嬢婚約者と遭遇する。
お目当てのケーキを注文し終えて、そこで初めて周りを見回す余裕が出たリリー。
「ねえ・・・」
声を掛けようとするリリーに人差し指を口元に置いて、
『なあ』
と、口パクをして見せるアルフィー。
「あ、ああ。ごめん」
咳払いをすると、
「なあ、フィリア、ここって女性客しかいないんじゃないの・・・か?」
明るい日差しが柔らかく入ってくる工夫のされた店内ホールには、洒落た丸テーブルに赤いギンガムチェックのクロスが掛かっていてテーブルの中央には硝子の一輪挿しが置いてある。
アイアンの椅子にはクロスとお揃いのクッション。
実に女子受けしそうなレースやフリルのカフェカーテンが窓に掛かっていてとてもメルヘンチックな内装だ。
そんな店舗に相応しくお客様はほぼ女性客で、恐らくリリーと同じくらいの10代から白髪交じりの御婦人まで様々だが、皆が各テーブルでお喋りをしながらケーキや飲み物を楽しんでいる。
ガラス張りのショーケースには美味しそうな色とりどりのショートケーキや、ムース、ロールケーキ等が並んでいて持ち帰りも出来るようになっていて入口付近のレジ前でケーキの箱を持ち、支払いをしている女性の姿がチラリと見えた。
「そうねえ、9割は女性客だわね」
先に運ばれてきたコーヒーを優雅に飲むアルフィーは、どこをどう見たって淑女である。
「あと1割は?」
「男性だけど同伴者は確実に女性ね」
女性に人気の店のようだ。そういえばチラホラと社交場で見かけた貴族の女性の姿もあるが、リリーには全く気付かず目の前の友人達とお喋りをしているように見える。
ホールの奥側に少しだけ雰囲気が違う場所が何ヶ所かあり、窓からの日差しが届かないのか、雰囲気のいい色硝子でできたランプが飾ってあって優しい明かりが灯っているのだが、その場所は男女のカップルで埋め尽くされていた。
「ああ、成る程エスコート席はあちらなのか」
「そういうことよ」
ウェイターが二人で注文をしたケーキを運んで来て下がると同時に、ふと何かに気が付いたようにアルフィーの眉間にシワが寄った。
「?」
チーズフロマージュを食べようとケーキスプーンを手に持つリリーが首を傾げ、アルフィーの視線の先を振り返ると、エスコート席の一つに見覚えのある金髪の男性とその横に距離感がおかしいんじゃないかと思えるほどの位置に座るプラチナブロンドの華奢な女性の姿が見える。
「ねえ、ルパート様今度はこちらのケーキがいいですわ」
女性が鈴のなるような声をまるで周りにワザと聞こえるように男性に声を掛ける。
「ああ、いいよ。じゃあ其れを頼もうか」
そう言いながら、彼が手元にあるベルをチリンと鳴らすと黒い制服のギャルソンが上品な立ち振舞いでその席に近寄って行くのが見え、彼の背中で視界が遮られ席の様子は見えなくなった。
「嫌なモノ見ちゃったわ」
「・・・」
金髪の青年はリリーの婚約者であるルパート・セイブリアン侯爵子息であった。