10 残念令嬢男装でデートする。
「で、デッデッデートォ?!」
「そうよ、何叫んでるのリアム」
「だ、だって婚約者が・・・」
アルフィーの言葉で、まるでブリキ人形の様な動きになるリリーに呆れるような眼差しを送るアルフィー。
「バカねえ、今はリアムなんだから婚約者はいないでしょう?」
「あ。そうか」
違う自分になる為に男装したんだったわ、と急に冷静になるリリー。
――公爵令嬢リリーじゃなくて、唯のリアムなんだから婚約者もいないんだっけ・・・?! いいの? ――
なんだか少しだけ腑に落ちない気もするが、ここにいるのはリリーとは別人なんだよね、と自分に言い聞かす。
「うん、分かったよ。行こう、ってどこ行くの?」
「うーん、そうだねえ、ケーキ屋巡りとかどう? 視察も兼ねてるんだけどね」
何と! 目をキラキラさせて両手を合わせたリリーである。
「ぜひ行きましょう!!」
アルフィーはそれを見て優しく微笑んだ。
×××
日差しは柔らかく、もうすぐ春がやってくる事を知らせるように公園にはアーモンドの花が咲いている。
風に乗ってその白い小さな花弁が歩いている自分達の目の前の石畳に時折ヒラリヒラリと落ちてくる。
リリーがアルフィーをエスコートするというおかしな状況だが、男女が入れ替わっているのに誰も全く気が付かないのに不思議な気持ちになるリリー。
寧ろ行き交う人々の視線が時折こちらを向くと、微笑ましそうに見られていることに気が付くと自然に頬が緩む気がする。
そして偶に男性に睨まれ、女性は笑顔を見せてくる・・・??
「フィリア?」
ん? とアルフィーが此方を向いた。――フィリアというのはアルフィーの女装時の仮の名前だ。
二人の身長はほぼ同じだが、アルフィーが踵のない靴を履き、踵の高い靴をリリーが履いているためアルフィーに若干見上げられる形になる。
「偶にさ、男性に睨まれて女性に微笑まれる。なんでだろ?」
「それはリアムが女性にモテてるんだよ。で、男性にはやっかまれてる」
「へ?」
「こんな美女を連れてるんだから仕方ないだろ? 俺はさっきから女に睨まれてヤローにデレデレされてる」
小声ではあったがウンザリした口調で答える彼がおかしくて、プッと笑いが漏れてしまったリリーである。
「思ってた程はあんまり注目されないね」
「だろ? 実はさ、普段もそうなんだよ」
「え?」
「意外に人って自分を気にしてないって言ったろ? いつもは『公爵令嬢リリー』って役者だから周りが気になって仕方ないだけなんだよ」
「そうなのかなあ・・・」
首を傾げながら歩くリリー。
「あ、あそこだ。あの店ケーキが美味いんだよ。コーヒーはウチが上だけど」
「すっごい自信だね」
「当たり前ですワ~」
笑いながら、可愛い木枠の硝子戸をリリーが開けてアルフィーをエスコートする。
「上出来」
「ふふん」
笑い合いながら、窓際にある丸いテーブル席に二人で座った。