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少女、知識を留める

 私とロベールさん、それから組合のおじいさんの三人で色々決めた。

 まず、ロベールさんが立ち会う取引は基本的に今回のみ。

 私とロベールさんのモンスター売却の時間が合えば立ち会ってくれるらしいけれど基本は別行動。


 そしてそれでは不便も生じるだろうという事で、迷宮に潜る時以外は常に組合から職員を一人派遣する。

 これはさっきの女の人でベンジーという人が私専任の世話係になるらしい。


 それから、これは出来ればでいいらしいけれど。

 誰かとパーティーを組んでレベリング、というのをしないで欲しいらしい。

 私のように異常にレベルの高い人間を止める手段が現状無い、からですって。

 まぁこれに関しては私も思うところがあるけれど、いいんじゃないかしら。

 これで育成してくれって言われても面倒なだけだし。


 後は定期的に現在の最前線になってる九十五層より下の階から素材を供給して欲しいとか。

 なんだか意外だわ。

 一番深く潜ってる人って二百層くらい行ってると思ったのに。


 そのことについてちょっとおじいさんに聞いてみると、普通の人は百レベル付近になると一気に必要経験値が増大するらしい。

 そうなるとレベルの上がり方は頭打ちで、人はそれを限界レベルと呼ぶらしい。

 ただ、そこを越えられれば後は必要経験値も上昇をやめ、能力も一気に伸びるらしい。

 それで攻略できるのが九十五層付近、という事らしい。

 でもそれも少しずつ、迷宮から削り取るようにより強い素材を取る事で前進してはいるらしいけど。

 百レベルを超えると一気に能力が伸びるなんて、私には実感の無い話だ。

 だって多分そんなレベルはデーミックに拾われて数日で越えてしまったから。

 デーミックは私に愉しそうに語ったものだ。

 幼い私にナイフを持たせて四肢を奪った小動物の止めを刺させるのは中々楽しい作業だったと。

 その頃は私は泣き叫んでいたらしいけど、もう覚えていない。

 気づいた時には殺すのが日常になっていたし。


 それにしても。


「ロベールさん」

「ん?なんだお嬢ちゃん」

「九十三レベルって人間としては高いみたいだし、組合の職員にもい信用があるみたいだし。もしかして結構偉い人?」

「探索者に基本偉さなんてないさ。あるとしたら新しくみつけたモンスターを倒して素材を持ち帰ったりとか、そういう事ができた奴が偉い、の範疇に入るくらいだ」

「なるほど。ロベールさんは中々のロマンチストであらせられるようで」

「どーいうこったデーミックさん」

「人は序列を作りたがります、と言いますか序列なくして秩序も無い。それが人間。それが悪いというのではありません。我々悪魔も同じようなものですので」

「そういう人間の中で序列は無いといった俺を理想主義者だっていいたいんだな」

「はい。ですが、貴方は上手くやっているようですし。お嬢様に面倒が掛からないなら放って置きますよ」

「俺もそんな理想がある高尚な人間じゃないがね。利には惹き付けられるし、好き嫌いもある。普通の人間さ。なぁイアン」

「ああ、ロベールは普通の人間だ」


 ……私が話を振ったのにデーミックに取られてしまった。

 意趣返しとして思い切りデーミックの優美に垂れる尻尾の毛並みを逆にしてやる。

 思わずビクリと身体を震わせたが、それ以外は涼しい顔のこの犬の面の皮の厚さは本物だと思う。


「解ったわ。そっちのいう事は大体飲み込んだわ。でもレベリングは私の気分次第でするわよ。良いわよね」

「それは……ううむ。できれば自重してもらいたいのだがね」

「まぁ、私もあまり面倒にならないようにするから安心して欲しいわ。ただ、気が向いたときに迷宮に経験値タンクを連れて行っても良いという言質が欲しいだけよ」

「そ、そうかね……」

「デーミック。後で面倒をかけるかもしれないけどよろしくね」

「承知致しましたお嬢様。如何様にもお使いください」

「と、話の腰を折ってしまたわね。そういうわけだから、モンスターの買取をお願いするわ」

「うむ。では順番に並べて行ってくれるかね」

「デーミック。頼むわよ」

「はい、お嬢様」


 後は私にできる事は待つことだけだった。

 下手に一人で出歩いて査定が終わった後も私が戻らずにロベールさん達が身動き取れなくなっても困るし。

 次々にその特性を検査されて値段を付けられていくモンスター達。

 その光景はなんていうのかしらね、活力に満ちているように思えたわ。

 迷宮のモンスターのような単体での力強さとはまた別の、力を感じる。


 そんな事を考えていると、ロベールさん達から声を掛けられた。


「それにしてもお嬢ちゃん。あのデーミックさんとはどういう知り合いなんだ?あの悪魔は召使いぽく振舞っているけどさぁ……」

「私とデーミックの関係?拾ったものと拾われたものよ」

「お嬢ちゃんが拾われたの?」

「そうよ。必要経験値が1から動かない神からの祝福の病を欠陥だと思った親に捨てられた私をデーミックが拾ったの」

「ふーん……ん?必要経験値が1から動かない神からの祝福の病だって!?」

「それがどうかした?」

「どうしたも何も、それすげぇ重要な事じゃん!誰かに知らせないと……ええと、こういうのって誰におしえりゃ良いんだ!?」

「王様、じゃないのかな」

「それだイアン!ああ、でもまずはお嬢ちゃんとの約束だな。そうか、お嬢ちゃんは必要経験値1なのか。だからあんなレベルなんだな」

「そうだけど、別に誰かに教えてあげる必要なんてないんじゃない?」


 そういうと、ロベールさんは驚いた様子で目を見開いた。

 イアンさんは訳が解らないという風に首をかしげている。


「私の必要経験値がずっと1なのは病気なのよ。病を司る悪魔のデーミックが言うんだから間違いないわ」

「それがどうしたって言うのかな?他の必要経験値1の子供が捨てられないようになるなら……」

「もし、本当に初期の必要経験値が1なだけで、永続的に必要経験値が1じゃない子供がでたら?」

「え?」

「もしそうなったら、祝福された子とそうでない子が別れたとしたら。今まで等しく弱者だった子供達の間にまた一つ階級を作ることになるわね」

「そ、それは……」

「それに、今世界にどれだけ必要経験値1がいるか解らないけど。今まで不必要な扱いをされていたその人達がいきなり今日から君が必要だって祀り上げられて良い気分になるかしら?」

「……」

「なる人間もいるかもしれないわね。でも、きっと世界を逆恨みするのも出るでしょう。だったら等しく弱者のままが良い。違う?」

「うん?良く解らない。世界がロベールが俺を認めてくれたように必要経験値1の子供を認めるようになるならいいんじゃないのか?」


 本当に理解していなさそうなイアンさん、厳つい顔が少しきょとんと緩むのは少し可愛いけど、理解して欲しかったわね。


「イアンさん。私みたいにずっと必要経験値1じゃない子供達はその後、必要経験値が上がっても能力は低いままなのよ。そういう人間を人は見下すわ」

「そう、なのか。ロベール」

「……大多数はそうだろうね」

「それと、私がわざわざ人に言わなくていいって言う理由も別にあるのよ」

「うーん。他にもあるのかい?」

「ええ。そういう人間が居たら、悪魔なり天使なりが保護して育てているでしょうね」

「あー、そういやお嬢ちゃんはあのデーミックさんにその……病か、を見出されて育てられたんだったっけ」

「そうよ。デーミックは比較的私に寛容だから街にも出したけど。養育者によっては街なんかに入れないで、入れたとしてもすぐレベルアップする事を隠して生きさせるでしょうね」

「なるほどなぁ。しかしなんだって天使やら悪魔やらはそういう子供を育てるのかね。イアン、お前は想像つくか?」

「……?小さい子を育てられる大人が育てる。変な所は無いと思う」

「小さい村じゃそれが普通かもしれないけどなぁ。子供育てるってのはそれなりに理由が必要だぜ。子供の面倒は手がかかるからな」

「私にもその理由は解らないわ。でもデーミックでいうなら目的は圧倒的な魔力ね。バカみたいにレベルアップして上がった魔力を啜るのを楽しみにしてるわ。あの駄犬は」


 私の言葉にロベールさん達はじっとデーミックを見つめる。

 その視線に気づいたのか、デーミックは大仰にこちらに礼をしてみせる。


「まぁ、とにかくこの病の事は別に誰かに知らせる必要は無いと、そう思わない?ロベールさん」

「そうだなぁ、妙な火種を増やすのもなんだし。ここだけの話、って奴だねぇ。おいイアン。お前も今の話は誰にも言わないようにな」

「安心してくれ。俺は今の話良く解ってない。でも必要経験値1の人が凄いかもしれない事は秘密っていうのはわかった」

「そう。それでいいんだ。それにしても……だなぁ」

「あら、何かしらロベールさん」


 なんだか急に難しい顔をしたロベールさんに、私は顔を向ける。

 ロベールさんの軽薄そうな顔は悩ましさを浮かべていても、どこか軽い印象を私に与える。


「お嬢ちゃん、街にでてきたばっかりなんだよね」

「ええ、そうよ」

「じゃあ、連絡結晶なんて持ってないよなぁ」

「それはなあに?連絡をする為の道具なのは想像が付くけど」

「魔力を通しやすい特殊な硬質水晶で、通信呪文を刻み込んだ核石を包み込んだ錬金術具だよ。魔力を通した状態でこれを接触させると核に通信呪文のあて先が記録されて、好きな時に連絡が取れるようになるのさ」

「そんな便利な物があるのね。それでそれがどうかしたの?」

「ああ。このモンスターを売ることで金が出来るだろ。そしたらすぐ買いに行った方がいいなって思ってね」

「んー、つまり、連絡先を交換しておきたいってわけ?」

「そーそー、俺らはお嬢ちゃんからの用事があったら応える約束したし。連絡は付くようにしといたほうがいいだろ」

「一理あるわ。じゃあこの取引が終わって、小切手を現金にしたら買いに行きましょ」

「よし、決まりだな。俺が出れないことがあるかもしれないからイアンともいいか?」

「いいわ。デーミックにも持たせておかなきゃね。一応、使い魔なわけだし」

「ああ、一つあたり十個くらいしか連絡先登録できないから、そこだけ注意ね」

「予定通りだと早速四つ埋まってしまうわね。二つくらい買っておこうかしら」

「四つ?デーミックさんと俺とイアンと、後誰だい?」

「ベンジーの分よ。小間使いには必要でしょ」

「なるほどね……ああ、そういえば名前聞いてなかったよね。良かったら教えてくれないかな。通信結晶でも名前と五桁の数字で通信相手を確定するのに使ったりするし」

「私はノーレよ。改めてよろしくねロベールさん、イアンさん」

「ああ、よろしくノーレちゃん」

「よろしく頼む。ノーレ」


 そういえば随分長い時間お嬢ちゃんと呼ばれていたわね。

 まぁいいわ、実際私は若いし、ロベールさんは見た目軽薄でも紳士的だったし、ね。

 イアンさんは何かおかしかった気がするけど。

 女の子とか呼ばれてなかったわ、私。


 そんな事を思った後も細かく街の事……寝心地の良いベッドのある宿屋とか、そういう雑事の話、をしながら待っていたら、日が落ちかける時間になってようやく査定が終わったみたい。

 うん、これはロベールさんの提案を聞いて良かったわ。

 お昼も食べずにこんなに時間を取られるようだと、多分我慢出来なかったから。

 そう思っていると、デーミックがこちらを見ながらにやりと牙を覗かせながら一礼した。

 まったく、あいつは読心能力でもあるんじゃないかしら。

 でもそれはおいて置いて、ロベールさん達やベンジーの為の通信結晶を買いに……ああ、その前に銀行だったわね。

 街って忙しい。

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