自分から
「はぁー…」
俺は今、学校の机に突っ伏しながら大きなため息を吐いていた。
「どうしたのー?そんな大きなため息ついて」
そんな俺に声をかけてきた人がいた。声のする方を見るとそこには幼馴染の美鷺 柚木が立っていた。柚木は栗色の髪の毛をボブにしていて身長はそんなに高くない。たぶん155センチくらい。幼馴染の俺から見ても可愛い女の子だと思う。
「いや、ちょっとな…」
俺は家族のことを言うか言わないか迷っていた。こんなこと他人に言わなくてもいいからな。
「…緋月、私たち幼馴染なんだよ?なんでも相談してよ!」
あぁ、柚木はそういうやつだよな。いつも俺のことを考えてくれる。こんないい幼馴染をもって俺は幸せだよ。
「…実は父さんが再婚したんだ」
「え?!いつの間に?でも良かったね。おめでとう」
柚木は小さい時から頻繁に遊んでいたから母さんが事故で亡くなってしまったのは知っていた。その後の父さんの様子も。だからだろうか?この話を聞いてほっとしているように見えた。
「…え?それでなんでため息なんてついてたの?」
そう来るよな。
「父さんの再婚相手の人はめちゃくちゃいい人なんだ」
「うんうん」
「問題なのがその再婚相手の人が連れてきた姉妹なんだよ」
「うんうん…うん?」
さっきまで首を何度も縦に振りながら聞いてるのか聞いてないのか分からなかった柚木が首を傾げた。
「緋月?ちょっと確認なんだけど姉妹って女の子だよね?」
「当たり前だろ?姉妹なんだから」
何を当たり前のことを…柚木の中では姉妹は女じゃないのか?
「それでその姉妹が俺のことを何故だか毛嫌いしてるみたいなんだよ」
「ほっ…」
「え?」
なんだぁ?なんだか今柚木が露骨にほっとしたような表情をしていたように思えた。
「あっ!いや…た、大変だねぇ。で、でも多分新しく増えた家族って言うのがまだ受け入れられてないんだよ!だから緋月から歩み寄ってあげたらいいかもね?」
「俺から…か」
確かに柚木の言う通りだ。今の状況を変えるには俺から話しかけるしかない。
「ありがとうな。柚木。お前に相談して良かったよ」
「ううん。気にしないで。緋月の役に立てて良かった」
そう言って柚木は可愛らしく微笑んだ。ほんと俺はいい幼馴染を持ったな。
柚木からアドバイスを貰った俺は早速試すことにした。
家で掃除機をかけていると長女の雅さんが帰ってきた。家には俺だけだ。父さんと母さんは仕事でまだ帰ってきてない。杏寿菜さんもまだ学校から帰ってきていない。
「お、おかえりなさい!」
できるだけ明るく声を出しぎこちない笑顔を浮かべながら。
「…そんなふうに話しかけてきても私はあんたのこと家族なんて思わないから」
そう言って雅さんは自分の部屋に戻って行った。
「…くそ」
自分でも聞こえるか聞こえないかくらいの声で悪態をつく。いや、これくらいでへこたれてなんて居られない。父さんを心配させない為にも。俺と姉妹の仲が悪いなんて知ったら父さんが気に病んでしまうかもしれない。それは避けたかった。
気持ちを切り替えて今朝食べた朝食の皿洗いをしていると次女の杏寿菜さんが帰ってきた。
「お、おかえりなさい」
「…」
俺がそう言うと杏寿菜さんは俺を一瞥してそのまま部屋に戻って行った。
「…なんなんだよ」
落ち着け。まだあの二人は新しい家族と言うものを受け入れられてないだけなんだ。
気持ちを紛らわすために風呂掃除をしていると父さんと母さんが帰ってきた。どうせどこかで待ち合わせて一緒に歩いてきたんだろう。少し呆れると同時に、やはりどこか嬉しい気持ちがある。
「おかえり、父さん。おかえりなさい、母さん」
「ただいま」
「ただいま〜緋月君」
やっぱり優子さんは、優子さんだけは俺に優しい。
「あれ?緋月君何やってたの?」
所々水滴のついている俺を見て優子さんがそう声をかけてきた。
「あぁ、風呂掃除をちょっと」
「え?ど、どうして?」
どうして?どうしてと言われてももう習慣みたいになってるからな…
「どうしてと言われましても…」
「緋月、いつも悪いな」
父さんが俺にそう言ってきた。
「気にしないでって。父さんは働いてきて疲れてるんだから」
「俺は…俺はこんな出来た息子をもって嬉しい…」
あぁ…また泣いちゃった。俺もこんないい父親で嬉しいよ。
「緋月君。私達も何か手伝えることない?」
「ない?」
俺たちが玄関で話していると今まで自室に篭って出てこなかった姉妹が出てきてそんなことを言ってきた。
…あんたら誰ですか?あの姉妹がそんな殊勝なことを言うわけが無い。
「あ、えっと…もう全部終わったので大丈夫です」
「もう緋月君、敬語じゃなくてもいいって言ってるでしょ?」
言ってねぇよ。よく平気な顔して嘘つけるな。
「あ、あぁ、そうで、そうだったね」
あ、確かお母さんの前では仲良くしてあげるとかなんとか言ってたな…それにしても変わりすぎだろ。優子さんにあの姿を見せてやりたい。
いや、俺は何を考えているんだ。そんなこと考えていいはずないだろ。しっかりしろ。きっと、きっといつか分かり合えるはずだ。
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