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吾輩はインコである  作者: まぁちゃん
ジイチャンとレイコ
4/10

吾輩はインコである『天敵の登場編』

 


 ある日、レイコとジイチャンがいつものように発声の稽古に励んでいると、部屋に見知らぬ女の子が入ってきた。ジイチャンはニコニコして立ち上がり、彼女を自分の作業机へ座らせる。

稽古の邪魔をされたレイコは、仕方なくとまり木へ移って二人の会話に聞き耳を立てた。


どうやら女の子は、ジイチャンの孫らしい。高校2年生だと言う。

ジイチャンに孫がいることは知っていた。ジイチャンの部屋の壁に、写真が飾ってあるからだ。パッチリした目の愛らしい幼女が、ジイチャンと手を繋いで笑っている写真である。しかし、レイコの頭の中では、どうしても目の前のずんぐりしたオカメ顔の女と写真の中の少女が同一人物として結びつかない。雛だったレイコと成鳥のレイコを横に並べても、ここまでの違いは現われないと思う。


オカメ顔の孫(インコにもオカメインコという種類がいるが、あちらの方がよほど可愛い)は、レイコを一瞥するなり「新しいの飼ったん」と聞いてきた。


実に無礼な第一声である。


オカメのこの一言で、レイコはジイチャンが過去に他にもインコを飼っていたことを初めて知った。

別にそのことを責めるつもりは無いが、オカメの言い方ではレイコの立場がない。

ペットショップの暮らしの中で、インコには見た目の個体差がほとんど無いことには気づいていた。しかし、ジイチャンとレイコの間では、レイコは確かに唯一無二の鳥だったのだ。なんというデリカシーのない孫だ。



レイコの怒りをよそに、ジイチャンは作業机に趣味でやっている俳句や水彩画を広げて、オカメに熱心に紹介している。

高校生が相手であるから、ジイチャンの言葉はレイコに語りかけてくれるものの何倍も高度で熱量がある。それなのに、オカメはふんふんとかそーなんとしか返事をしない。

レイコは毎日、もっと複雑な返事ができるよう稽古を積んでいるというのに。

この孫に向上心というものはないのか。



オカメが水彩画を眺めてふんふんやっていると、バアチャンが栗まんじゅうと緑茶を持ってやってきた。とたんにオカメの顔が華やぐ。

ジイチャンの特等席を占拠したまま、オカメは好物の栗まんじゅうをもっちゃもっちゃとやり始めた。その様子にムカムカしながらも、レイコはオカメが食べこぼした饅頭の欠片をかすめとることを忘れない。


オカメは無礼で向上心もないくせに、接待だけは1人前に受けているのだった。



孫はどうやらジイチャンの家の合鍵を持っているらしく、稀にジイチャンが不在の時でも遊びにやってきた。

鍵を開けると一目散にレイコの鳥かごの前までやって来る。一応、彼女もレイコに興味を示していることには違いないらしかった。

鳥かごの扉を開け、レイコを手乗りにする。慣れた手つきである。ふと、孫が右手に何かを隠し持っているのが見えた。


畳の上に転がり出たのは、ペットボトルのキャップだった。


側面に溝が入っていて、コロコロと転がる。非常に面白そうな形をしている。

しかしオカメが出してきたものだから信用ならない。


レイコはキャップに駆け寄り、慎重にくわえようとした。

くわえようとすると落ちて、またコロコロする。くわえたい。しかし落ちてコロコロ。

つついてみたらどうか。キャップは勢いよく部屋の隅へ転がって、コツンと音を立ててひっくり返った。


こんな刺激的なおもちゃがあるとは知らなかった!


オカメの顔を伺いみると、得意そうにニヤニヤしている。しまった、してやられた。

しかしもう止まらぬ。キャップを追いかけ、蹴飛ばし、また追いかけ、ふちにくちばしをかけて放り投げる。なんだこれは。無限の遊び方ができるではないか。


気がつくと、興奮のあまり鳴き声をあげていた。ピヨピヨ、ピキュ、キュルル、レイコちゃん、かしこいね、ピヨ、かわいいね、グルル。キャップ遊びをしていると鳴き声を止められない。背後で孫が「しゃべった」と言ったと思うがそれどころではない。

レイコはキャップを追いかけ追い越しすっ転がして飛び掛かり、無限の時を溶かしまくった。



*** レイコにとって無限の時が流れた後 ***



まだまだ、と思っていたら唐突に孫の人差し指が腹の前へでてきた。反射的に飛び乗る。

素早く開けた鳥かごに孫は人差し指を奥まで突っ込んだので、しかたなく止まり木へ移った。

まだあのキャップと遊びたかったのにと思いつつ、止まり木をうろうろしてうっ憤をはらしているうちに、レイコは漸くさっき自分が人間の言葉を話せたことを思い出した。



ジイチャンとバアチャンの前では上手くいかなかったのに、よりによってなぜこのオカメの前で初披露してしまったのだろう。


まあいい、今にもっと複雑な言葉を会得してやる。そして、ジイチャンの俳句と水彩画を鑑賞した暁には、オカメなんかよりもっと上等な賛辞の言葉をかけてやるのだ。


レイコちゃんにとっての天敵は、ジイチャンの寵愛を横取りするオカメ孫でした。

しかし、ペットボトルキャップの誘惑にはどのインコも叶いません。

次回、急展開を迎えます。

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