3 マスターは辛いよ
「サツキ、俺の為に一生そばに居て、ご飯を作ってくれないか」
「お断りするわ、私のご飯が食べたいなら金払って店に来なさい」
サラッと盾の勇者のプロポーズを受け流す。
まったく、朝っぱらからこいつの相手は辛すぎるわ。
「なっ、何がそんなに不満なんだよぉ! サツキぃ!」
「その全て」
親しくもなかったのに下の名前で気安く呼ぶな。
力を持ってイキる奴は嫌いなのよ。
見た目があーだこーだ言わないけどその性格だけはいただけないわ。
「やめないか、シノノメちゃんが困ってるだろ」
彼の肩にポンと手を置いて宥める糸目の少年。
「あっ、星宮君いらっしゃい。今日は聖女と勇者と一緒じゃないのね」
彼は星宮 創、剣の勇者パーティーの忍者だ。
「いやぁ、うちの勇者が、マスターが変な男に絡まれてないか心配でさぁ、あっ、ちなみに僕分身ね、本体は今戦闘中」
へらへらしながら言うことか!?
というか、分身休んでないで戦えよ!
「ぬぁにぃ! 花崎のやつ、俺のサツキにぃ!」
「おい、誰がお前のもんだって?」
「ははは、山田。君のとこのリリアちゃんが泣くよ?」
「知るか! 俺はシノノメ一筋だ!」
·····そうなられても困るんだけど。
というかこいつと生前接点ないんだが。
なんで私に執着してんだ?
「あー! やっぱりここにいた!」
「げっ、リリア!」
おっ噂をすればなんとやら。
「お邪魔した~♡」
プンスコ怒る彼女は盾の勇者を引きずって帰ってった。
「ははは、それじゃ僕も帰るよ」
「·····そうしなよ、能力の無駄使いでしょ。ほらこれ持ってって」
分身の無駄使いをさせてしまったので紙袋に詰めたケーキセットを渡してあげた。
別に、私の事なんて気にしなくていいのに。
「うわぁ! ありがとう! 気にしなくていいのに!」
「早く帰ってあげて、それ食べれば直ぐに回復すると思うから」
分身くんは嬉しそうに紙袋を抱えて私に手を振った。
「まったく、命をかけた戦いの最中に別のことを気にかけるとはなにごとじゃ」
「えぇ、私もそう思·····って、えぇ!? 魔王様!?」
「ちゃおっす〜、遊びに来たぞサツキ!」
「いっ、いつの間に来てたんですか!?」
「あの忍が来た時じゃ、何やら面白そうじゃと思って隠れて見ておった」
ニコニコしながらカウンターに座る魔王アルティア。
あっぶねー、あいつらに見られたらここがラスボスステージになるとこだった。
「·····魔王様、危ないですのでもう昼には来ないでくなさい。今日みたいに勇者とその仲間が来ている可能性があるので·····」
「別に構わん構わん! 心配せんでも勇者に襲われようが妾は負けん! それより、今日の菓子はまだか!?」
そういう問題じゃないんだけど·····はは、まぁいっか。
「はーい少々お待ちくださいね、今日は苺のショートケーキです」
ふんわりとしたクリームにちょこんと乗った苺を見て目を輝かせる魔王様。
「ふぁああ!! 丁度いい甘さで美味しいのじゃ! 妾好みの味~」
幸せそうにほっぺたを抑える姿を見ると、彼女が魔王だってことを忘れそうだ。
「うむ、今日も美味であったぞ!」
「気に入ってくれてありがとうございます魔王様」
「·····むぅ、その魔王様っての堅苦しいのう」
少し不機嫌そうに顔をふくらませるアルティア様。
「でっ、ではアルティア様」
「それも嫌じゃ!」
「·····じゃあ、アルティア?」
「うむ! それでよし! さて、決戦前の腹ごしらえもしたしそろそろ行くかの!」
「·····決戦?」
「うむ、今日は大兄様の大事な戦いなのじゃ! 妾はそのサポートなのじゃ!」
ニコニコしながらアルティアは手を振って、またあの黒い空間に消えてった。
·····なんか、午前中なのにどっと疲れた·····今日はもう店じまいしようかな·····
【魔王アルティアが私の友達になった】