1 プロローグ とある店の転生店主
私は平凡な女子高生だった。
ごくごく普通のいてもいなくても変わらないクラスのモブ。
クラスの中心のキラキラとした主人公達では無い。
だからなんだろうな、転生しても私だけ普通だったのは。
「すみませーん、店主の気まぐれケーキ1つ!」
「はい、ただいま!」
ここは、カフェミヤコ。
町外れにある丘のてっぺんで私が経営している喫茶店である。
「おっすー、サツキ儲かってるか?」
「シノノメさん、ハーブティーお願いしますぅ~」
「シノノメちゃんいつもの」
「はーい、勇者御一行様いつもの席をお使いくださいね~」
私の名前は東雲皐月。
最近まで日本のJKだった。
なぜ過去形なのかと言うと、修学旅行に行く途中飛行機が墜落してそれに乗ってた学校関係者がお亡くなりになったからである。
若くして死んだ私達を哀れんだ神様は気を利かせて、魔法が使える面白い世界に私達を転生してくれた。
「ははっ、元の世界に生き返っても君達の未来は明るくないぜ? それなら面白いことが出来る世界に転生してあげる」って神様のセリフじゃないと思う。
ちなみにこの勇者御一行は私の前世の知り合いだ。
彼らは前世でクラスの一軍と呼ばれる人達だった。
·····まぁ、だからこっちの世界でも勇者とかになっちゃってるんだけど。
普通、こういうのって地味で目立たない子が勇者になるんだけどなぁ·····
まぁ、どうでもいいけど。
「はいお待ちどうさま」
「ありがとうサツキ」
「わぁ! ケーキもつけてくれたの!? ありがとー! シノノメさん!」
「コーヒーだけでもいいのに」
「いつもこの街を守って貰ってるからねサービスだよサービス、なんせ私は一般市民なんで」
私は彼らみたいにこの世界に選ばれなかった。
転生した私達には特別な力が与えられていた。
神様が「君達が次の人生を楽しめるように、楽できる能力や環境をプレゼントしてあげる」と言っていた。
そのおかげで、勇者の適性があるものや、聖女と呼ばれるもの、伝説級の武器を使えるもの、等のチートキャラを生み出した。
·····だけど、私にはそれが無かった。
「何言ってんのシノノメさん! こんなに美味しいものが作れるのに!」
「そうだよ! 俺らサツキの飯で頑張れてるんだぜ!?」
「ははは、極上のお茶会なんてスキルの使い道なんてこれくらいだからね」
神が私に与えたものは極上のお茶会という日常スキル。
材料があれば、手を叩くだけでどんな料理でも作れるという能力だ。
ちなみに、材料が無くてもスイーツと紅茶なら錬成することが出来る。
作った料理には、回復効果やステータスアップなど色んな効果がある。
·····こんなスキルでどう戦えと?
だから私は、彼らのような転生者お決まりのルートではなく一般人としてのんびりスローライフを送ろうとしたのだ。
「しかし凄いよな、山田も盾の勇者になったし吉沢も槍の勇者になった」
「そして剣の勇者の俺! 花崎誠!」
「この世界の4人の勇者のうち3人が緑黄校出身って凄いよね~花蓮も勇者になりたかった~」
「聖女が何言ってんの」
この世界には魔王と勇者が存在する。
魔族が住む魔界と、人間が暮らす人間界。
二つの種族は対立し、争いを繰り広げてる。
人間界の代表が俗に言う勇者。
勇者は、神が魔王との戦いのために人間達に作った武器を持っている。
神が作ったのは4つ、剣、槍、盾、弓
そのうち3つは転生者に、最後の1つは誰が持っているのか分からない。
「よっすー! 来たよサツキ!」
「げっ·····いらっしゃいませ盾の勇者様」
「げってなんだよー! 俺のプリンセス」
この男、盾の勇者、山田恒星。
前世はクラスカースト下位の少年である。
こいつは、転生物のお約束で幸せになった勝ち組である。
何故か知らないが、この世界で勇者になって調子に乗った彼は私に求婚を迫っている。
「こらぁ! コーセー! またマスターにちょっかいかけて!」
「げっ、リリア」
「ごめんなさいマスターうちのコーセーが。ケーキセット二つお願いできるかしら」
「はい、リリア様いつもありがとうございます」
彼女は元からこの世界にいた、リリアという少女だ。
凄腕の魔法使いで山田に惚れてパーティーメンバーになったらしい。
この勘違い野郎に恋をするとは·····まぁ人様の恋だ何も言うまい。
「サツキ、ご馳走様。またくるよ」
「はい、また来てくださいね、花崎君」
「うぉい! 花崎ぃ!! 俺の女の笑顔に惚れてんじゃねえ!」
「うざっ、山田調子乗んなよこのブス!」
「聖女カレン! いくら何でもうちの勇者を侮辱するのはいただけないわ!」
「あー、ちょっと騒がないでよ、ごめんねシノノメちゃん。」
転生した私の人生は前の世界とほとんど変わらない。
騒がしくて、ため息ついて、それでも楽しくて。
小さな頃からの夢だった、喫茶店も始められたし別に皆みたいに特別な人生じゃなくていい。
だからありがとう神様。
平凡なままの私にしてくれて。