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三話


 ──チョコレーが路地を飛び出して間もない頃、その奥の方から誰かがこちらへ近づいて来た。


「やっほー、元気にしてたかい少年? 可憐なこの女神様がやってきてあげたよ……と、あまり元気じゃなさそうだね」

「……どういう事だ、なぜあんたがここにいる」


 姿を見せたのは、この世界へ連れてきた張本人の(自称)女神だった。

 しかしこいつが顔を見せるのは、俺が死んだ時だけだったはずだ。いや、確かにたった今死にかけた事には間違いは無いが、こうして生きている。


「今日は君に、いい話を持ってきたんだ」

「あんたにとって都合のいいだけの話なら、聞く気はない」

「そんな事言わないでくれよ、ボクだって君達の事が気がかりでずっと見守っていたんだ。だから機嫌を直して、ね?」

「それなら、俺たちがこの世界に来た直後に死にかけたのも見ていたよな?」

「え? あー、あはは」


「なんで助けてくれなかった……いや、そもそも何故俺達をあんな場所に放り出したんだ?」

「あの時は本当に焦ったよ。でもね、残念ながらボク達は現世の事象に直接介入する事は出来なくて、君達を助けたくても助けられないんだ。ごめんよ? それに、どの異世界に行くかは決められても、場所までは指定出来ないんだ」


「……そんなに行き当たりばったりな計画なのかよ」

「まぁね、現に今も君はこうして生きてるじゃない? それに、危険な所だと君だって了承してたじゃないか」


 開き直ってやがる。


 だが、確かに俺にも全く責任が無い訳では無い。リスクは承知し、其の上で願いを聞き入れてもらったのは紛れも無くこの俺だ。それなのに、いつまでもグチグチと言うのは筋違いなのだろう。

 そう思う事にし、これ以上の追及はしないことにした。


「まぁ、そんなに怒らないでよ。今日は君に贈り物があって来たんだ」

「贈り物?」

「ああ。この世界は『魔』が大衆に認知され、人々の生活に根付いてる、って事はもう知ってるよね?」

「……その名称についてはともかく、何となくな」

「この『魔』というのは、実はどんな世界にも存在し溢れている物なんだ。君の世界にもね」

「どういう事だ?」


「君の世界の人々は気付いていないだけで、実際にはどんな世界だろうと()()で溢れている物なのさ。そこら中の空気にも漂っているし、あらゆる生き物の体にも血液の様に流れていて、今の君の体にだってそれはあるんだよ? でも、大概はその存在には気付かないのが普通だ……だけど、この世界の人達はそれを発見・研究し、世の中に役立てているという訳だね」

「……。もう少し、詳しく教えてくれないか」

「それは、彼女に聞いてごらんよ。さっきまで何も分からなかった奴が、急に物知りになったら不自然だろ? ──それで、本題はここからだ」


 そう言うと彼女は、徐に一冊の本を取り出し、こう続けた。


「君にも、『魔』を使えるようにしてあげるのさ」












 ──先程の場所へと戻ってきたチョコレーは、姿勢を変えることなく座っているサズクを発見する。


「逃げなかった事は褒めてやるよ。それとも、さっきのでまだ立てそうも無いのかい?」


 そんな声を聞いてか聞かずか、彼はゆっくりと立ち上がる。

 気のせいか、先程までの彼とは少し雰囲気が変わった、という印象を受けた。


「──この短時間で何があったかは知らないけど……。テストに合格できるかはまた別だよ」


 そう言いながら、二人は目的の場所へ向かうのだった────。






 ────数分前


「その本は……?」

「これは、『君の人生』がそのまま記されている書物だ。……『君の人生そのもの』と言ってもいい」

「人生そのものって、そんな物……。俺の人生は既に本来の道筋から逸脱しているんじゃなかったのか?」


 今現在陥っている状況が丸ごと矛盾するような代物の登場に、俺は当然の疑問を投げかける。


「そうだね。だからこの本は既に役割を放棄しているんだ。ここに書かれている事は、本来の君が歩む筈だった人生の事だけだからね。そして何かの手違いで君の運命は変わり、この本の管理を任されていたボクは責任を負わなければいけなくなり、君も、ボクも、困った状況になった。ここまでのおさらいはいいかい?」

「あぁ」

「そんな訳だから、この本は既に何の役にも立たない、お役御免となるだけの本なのさ」

(……仮にも俺の人生を、そんな風に言われたくは無いな)


「でも、一つだけこの本を使って出来ることがあるんだ。これにこのペンで直接何かを書くと、君は書いた通りの事が出来るようになるんだ」

「……」


「大体察しはついたかい? そう、これに書き込むのさ、「君が『魔』を使えるようになる」とね」

「……そうすると、俺はその『魔』というのを操れる様になるのか?」

「そうさ、練習は必要だろうけどね」

「そんな事が出来るとして、その、大丈夫なのか?」

「元々体にある物に気付くようにするだけさ、体に異変は無い。それに、ここに書いてることはいまやでたらめなんだ、今更一つや二つ書き加えても問題無いだろ?」


 そう言われ、疑心暗鬼になりながらも女神がその本に記載するのを見届ける。


 サラサラと記入するその筆が書くのを終えると、パタン、と本を閉じた。

 意外に呆気なく終わったが、これで何か変化はあったのだろうか? 何だか、拍子抜けしてしまう。


「これで君も、『魔』の存在を認知できるようになったはずだ。どうだい?」


 そう言われて、確かに、何だか体の全体を包むように、流動する何かが存在してる気がして来た……かも、しれない。


「正直、よく分からない」

「無理もないさ、今まで存在すら知らなかった物を、たった今感じるようになったんだからね。自在に扱える様になるまで、時間はかかるだろうね」

「……何で今更、こんな事を?」

「あー……実は仲間に、『魔』が存在する事が常識の世界に何も知らない子を送り込むなんて何考えてるんですかー! って、怒られちゃってね……タハハ」

「……」


「ゴホン……まぁとにかく、女神様の慈愛の心で君のサポートをしてあげようと思い立った次第なのだよ。しっかり感謝してよ?」

「この後、あいつからテストをすると言われてるんだ。もしかしたら、この力を使う内容かもしれない」

「……。じゃあ、逃げちゃったら? 今の君じゃ、そのテストに合格できるとは思えないな」

「いや、受ける」

「そう? なら、頑張らなきゃ」


「……もう一つだけ、教えてくれないか?」

「? 何をだい?」

「この世界における、『魔法』について──」




「逃げなかった事は褒めてやるよ。それとも、さっきのでまだ立てそうも無いのかい?」


 そこへ、チョコレーが戻ってくる。女神の姿は、いつの間にか消えていた。

 俺は立ち上がり、ゆっくりと彼女の方を見た。


(早く、追いつかねぇとな)


 この試練を絶対に乗り越えなければならない。その、信念を持って。





「不合格」

 現実は非道である。

 何も出てくる気配の無い杖を三メートルほど先にある的に向けながら、俺は心の底からそう思った。


 これから、俺は一体どうなってしまうのだろうか……。













「はー、今日は大変だったなー」


「まさか、ボク自らあの少年の元へ出向く事になるとは思わなかったよ……」



「でも、ちょうど良かった。いずれ試したかった事を試せたし」


「さてさて、これから先どうやって未知の世界を渡り歩いて行くのかな……?」





「期待してるよ────」










「──流星の、少年?」








────三話 終

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