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五話─①

(ここは…どこだ?)

 見覚えの無い景色、どこかの町の広場。少し離れた所には、時計台が見える。人は喧騒としていて、誰も彼もが他人を省みる余裕なんてなさそうにしている。


「ここは、彼の後悔と無念の記憶…」

「!? 誰だ?」

 突然聞こえてきた声に、こちらからも質問を返す。だが、こちらの呼び掛けには応じず、ただ淡々と語りかけてくる。

「あなたがここに来た事にも、きっと意味があるのでしょう。彼の事を、見届けてあげて下さい…」

 そう言うと、声は聞こえなくなってしまった。

(一体、何なんだ…?)

 訳の分からない事を言われ、ここが何処かも分からずに途方に暮れてしまう。


 ふと、一人の青年の姿が目に入る。周りをきょろきょろと見渡して、誰かを待っているようだった。だが、彼の待ち人は現れない。


 暫くその姿を眺めていると、場面は変わり、どこかの家の中に変わる。

 そこでは、一人の女性が出掛けるための身支度を整えているところだった。

「もうこんな時間、急がないと遅れてしまう!」

 バタバタと慌てる彼女は、誰かと待ち合わせしているようだ。俺の姿には、気が付いていないようだった。

 そこへ、ジリリリリ、という音が家中に響く。

「お届け物でーす」

 家の外から、その様な声が聞こえてきた。

「はーい」

 彼女は支度を中断し、玄関へと向かい、扉を開ける。だが、玄関先の光景を見た彼女は、恐ろしいものを見たかのように一瞬で表情を凍らせる。

「あなたは…!」

「へへ…やっと見つけたよ、アクエ」

 その姿を見つけた瞬間、彼女はすぐさま扉を閉めようとする。だが、玄関先の男に扉を掴まれ阻止されてしまう。

 扉は開かれ、男が家の中に侵入してきた。

「その反応は無いだろ……一度は僕の事、愛してくれたじゃないか」

「嫌! あなたとは、もう別れたじゃない!」

「確かに、僕達は一度は別れたよ? でも、またやり直せると思うんだ」

「もうあなたとは関わりたくないの! 早く出ていって!」

「そんなに拒絶すること無いじゃないか…!」

 男は、隠し持っていたナイフを取り出し、彼女に刃先を向ける。

 俺は男を止めようと駆け寄る。だが、いくら手を伸ばしてみてもすり抜けてしまう。そのうち、男は彼女に近寄り、彼女は逃げ場をなくす。

「やめて…お願いやめて!」

「僕の事を愛さない君なんて…もう必要ない!」

 そう言って振りかぶったナイフを、彼女目掛けて振り下ろした。


 ゴーーン… ゴーーン… ゴーーン…

 その瞬間、また場面は変わり先程の広場に戻ってくる。時計台の荘厳な鐘の音が辺りに響き、待ち合わせをしている青年が、鳴り出した時計台を確認する。

「アクエさん…来ないな……」

(…!)


 彼はその後も暫く待っていたが、そのうち、どこかへと向かう。

 彼の向かった先である家の周りには人だかりが出来ていて、胸騒ぎを覚えたであろう彼はそれを掻き分け家の中へと入る。

 そこには、先程の彼女と男が血溜まりの上で手を繋ぎ、息絶えている姿があった。

 彼女は恐怖によって作られた壮絶な顔で死んでおり、一方男は充実し、安息したような顔で死んでいた。

「うあぁ…うああああぁぁぁ!!」

「誰だあんた! 勝手に現場に入って来るんじゃない!」

 彼は腕を掴まれ外へ連れ出されながら、ずっと、ずっと叫び続けていた。


 再び場面は変わり、周りには墓地が広がっている。

 人は一人もいない、静寂な墓地。そこへ、あの青年がやってきた。

 青年はスコップを手にし、何を思ったか、墓の前の土を掘り始めた。

 ザックザックと、慣れないながらも一心不乱に掘り続けるその姿に、思わず息をのむ。


「…あった」

 時間をかけ、掘り進めた先には一つの棺桶があった。青年が棺桶の蓋を開けると、そこには青年の恋人を襲ったあの男の死体があった。

「…」

 暫く黙ってその死体を見つめる。すると…。


 ドゴッ! ドゴッ! ドガァッ!


 なんと、青年が死体を蹴り始めたのである!


 バキッ! ドゴッ! ベキッ!


 既に死体となっているその男を、彼は何度も、何度でも踏みつけ、蹴り飛ばし続ける

 その光景に耐えきれず、思わず目を背けてしまう。

 それでも、彼による暴虐の音は止まない。

「もう…もう止めてくれ! その男は死んでるんだ、もう既にこの世にはいない! その行いは、何の意味も持たないんだ!」

 そう叫んでみたものの、彼には一切聞こえておらず、それどころか、死体を蹴る勢いはどんどんと増していってるかのようだった。


 その時、周辺に霧が立ち込みはじめる。周りの墓の姿も覆い隠す。

 そんなことにも構わず、彼は死体を蹴り続けていた。


 一人の男が、そんな青年の姿を見つめていた。


 突如現れたその男の姿は、まさに今、青年の脚の下にいる筈の、死んだ筈のあの男そのものだった。

 青年も何か気配を感じたのか、後ろを振り返り、そこにいる男の姿に驚愕する。

「お前…!?」

 自分の姿に気付かれたからか、或いはその異様な光景から逃げるためか、男は背中を向け、霧の中へ立ち去ろうとする。

「待て!」

 青年が、男の方へ手を伸ばす。すると、その手の先から、鎖が伸び始めたのである。

「グギャアアォ!」

 鎖は男に巻き付き、捕らえる。鎖に縛られた男は、鎖に電流でも流れているかの様にもがき苦しみだす。

「なんだ…この男は死んだ筈じゃないのか!? なぜ俺の前にいる!?」

 青年はそう言い、動揺を隠せないでいる。

「それに…この鎖はなんだ? 俺の腕から、今までこんなものが出た事は無いぞ…?」

 青年は何が起こっているのか全く掴めずにいるようだったが、俺は段々と状況を理解し始めてきていた。

(この青年は、あの『墓荒らしのコン』で、そしてこれは、彼が初めてその能力に目覚めた瞬間を見ているのか…?)

 一体何故、今そんな状況におかれているのかという理由については一切不明だが、ともかく、訳の分からない現象が自身の身に起きることは確かだった。


 そんななか、霧の中に一つの大きな影が現れる。影は青年に向かって語り始めた。

「憎き相手の死体を踏みつけ、蹂躙するという絶対的な思いと覚悟が、お前の魔力との強烈な反応を起こし、魔法という形となって昇華したのだ」

「誰だ!」

「我の事を知りたいか? 我は魔王、いずれこの世界を統べる王だ」

 霧の中から聞こえてきたのは、恐ろしくも威厳を感じさせる、何とも凄まじい声だった。

(なんだ、この心の底に訴えかけてくるような声は…!?)

「魔王…そんな大物が、俺に何の用だ」

「私の悲願の為、お前の力を借りたい──」

 魔王を名乗るその声が語り始めたその瞬間、辺りが眩い光で輝き始め、あっという間に周りは光で何も見えなくなってしまった。


「彼の事、見届けたんですね」

 最初にここに来たときに聞こえた声が再び聞こえてきた。

「色々聞きたいことはあるが…あんた、一体何者なんだ?」

「私は、彼の中に残された光の残滓」

「要領を得ないな…」

 その後も語りかけてくる声に向かっていくつか質問してみる──どうして俺はこんなところにいるのか、とか、最後に出てきた魔王は何者なのか、など気になることは一通り──が、どれも意味の分からない返答が返ってくるばかりだった。

 分かったことは、ここが『墓荒らしのコン』の記憶から作られた空間だという事くらいだ。

「何故あなたがここに巻き込まれたのかは私にも分かりません。ですが…あなたからは強い意思を感じます」

 語りかけてくる声が、唐突にこんなことを言い出した。

「強い意思?」

「えぇ、あなたは…力を欲しています。それも、強力な力を」

「…!」

「私なら、あなたにその力を与えることが出来ます。しかし、その力には、大きな代償を伴う事でしょう」

「…」

「何故、あなたは力が欲しいのですか?」

「それは…」


 天瀬の姿を、思い浮かべる。

「リオを…天瀬を守りたい、守れるだけの力が必要なんだ! …今更罪滅ぼしにもならないのかもしれないけど…でも、その為に、こんなところでくたばってなんていられないんだ!」

「その気持ちに、偽りはありませんね」

「ああ」

「それでは、あなたの奥底に眠る力を、目覚めさせてあげましょう──」

 そう言うと、辺りの光が更に輝きを増し、目の前がいよいよ見えなくなってしまった。


 目を覚ますと、何処かの森の中、背の高い針葉樹が並んだ森林だった。

(ここは…何処だ…)

 再び知らない場所へと連れてこられたのかと思ったが、どうも、今回は違和感がある。

(違う…ここは、前にも…)

 視線を足元へと向ける。すると、なんと自分の足が人間のものでは無くなっていた。

(どうなってるんだ、これ…)

 それに、目線に対して地面がやたら近い。そのうち、言葉を話そうとしても、それが出来ない事に気付く。

(俺は…人間ではなくなったのか…?)

 周辺を見回してみる。

 すると、自身の後ろに、何匹もの狼が傷だらけの状態で倒れているのを発見する。恐らく、息絶えているのだろうか。

(何だよ、これ…これは、俺が…?)

 思わず一歩、後ろへ下がる。


 視線を感じ、小高い丘の上を見る。そこには、こちらを見下ろす一匹の狼の姿があった。

(やめろ…やめてくれ…! そんな目で、俺を見ないでくれ…!)

 その目に、俺は、身体を蝕まれるような想いに駆られる。

 苦しい。苦しい。そんな目で見ないでくれ。俺じゃない。俺じゃないんだ。苦しい。苦しい。苦しい──。


 そんな目で、俺の事を見ないでくれ!



「これで、あなたの眠っていた力は覚醒し、それはあなたの事を助けてくれるでしょう」


 あぁ、そうか、これは俺の──


「あなたからは、懐かしい気配がします…なんだか、かつての友達に、また会えたようです」


 かつての、友達…?


「お別れの時です。さようなら、あなたと会えて、良かった──」






 *






「クソッ、逃げられたか」

 『墓荒らしのコン』は、姿を眩ました少年を探し回っていた。

(俺の鎖から逃れるほど、魔力の操縦に長けていたようには見えなかったがな…)


 その姿を、樹上から見つめる一つの存在があった。


 ガサッ


「!?」

『墓荒らしのコン』が、木の上に鎖を放つ。だが、手応えがない。

「何かいやがる…!」

 そう思った拍子、全身に強い衝撃を受け、地面に吹き飛ばされる。

「ぐはっ! くっ…」

 自身を攻撃した物の正体を確かめようと、衝撃が襲ってきた方向を見る。

「なんだ…この狼は…?」

 そこには、一匹の白銀の狼の姿があった。


刻ノ旅人(遠征)・ラパンウルフ顕現】


「くそっ!」

 『墓荒らしのコン』は再び鎖を放つ。だが、狼にひらりと躱されてしまう。

 狼はその素早い足さばきで、『墓荒らしのコン』へと向かっていく。

「うおお!?」

 『墓荒らしのコン』は腕に魔力を集中させ防御の態勢に入る。

 そこへ、狼は後ろ足で高く飛翔し、体を回転させながらしなるように体当たりをかます。その威力に、『墓荒らしのコン』は再び吹き飛ばされる。

「ぐああ! くっ…この狼、とてつもない魔力を纏ってやがる…!」

 そう言いながら、複数体の死者を使役し、狼を捕らえさせようとする。

 だが、狼はのらりくらりと避け、『墓荒らしのコン』の頭の上に乗る。

「この…!」

 鎖を頭の上に放つが、頭の上から飛び去り躱される。

「てめぇ…おちょくってんのか!」

 鎖を再び放つ。だが、何度放っても狼には躱され続ける。刺さったかと思えば、木に防がれてしまったり、一向に捕まる気配がない。

 すると、変則的に動いていた狼が、急に動きを変え、『墓荒らしのコン』目掛け直線的に突っ込む。

 その動きに対応できず、狼の体当たりをもろに喰らってしまう。

「がはぁ!」

 その後も狼の動きに翻弄され続け、『墓荒らしのコン』はダメージを蓄積し続ける。


 周りの霧が、徐々に晴れてきた。

 そこへ、チョコレーが姿を現す。

「おい! サズク、どこにいやがる!」

 サズクを探すなか、男と狼が争う姿を目撃する。

「なんだありゃ…ん? あいつは…」


 狼が優勢かに思われた状況だったが、突然狼の動きが止まり、倒れてしまう。

「はぁ…はぁ…何だ…?」

 倒れた狼は、体から光を放つ。すると、その姿を先ほどまで相対していた少年の姿へと変えたのだった。

「おいおい…お前、狼に姿を変えれたのか? それに、あの魔力量、只者じゃねえ」

 だが、少年は倒れたままで、声は聞こえていないようだ。

(体へのダメージもでかい……ここは一旦、引くべきだ……な……)

 『墓荒らしのコン』はその場から離れようとしたが、意識を失い倒れてしまうのだった。






 *






「…ク……ズク! ………サズク!」

 その声で、俺は目を覚ます。

「サズク! …良かった、サズク…!」

 天瀬が、倒れていた俺を呼び掛けていたようだった。

「おぉ、サズク殿……動かないでくだされ」

「こんなにひどい怪我をして……無茶しないでよ……!」

「あぁ……悪いな……」

 そこへ、チョコレーがやってくる。

「こっちは済んだよ。 …ストノフ、これを使いな」

「了解です」

 そう言うと、ストノフは小瓶に入った液体を俺にかける。

「癒しの魔が付与された水さ。応急処置だが、何もないより幾分かましだろう」

「すごい……傷がどんどん治っていく…!」

 天瀬の反応を見るに、俺の傷はあっという間に治療されたらしい。確かに、顔の違和感が無くなっていくのを感じる。


「…ん」

「さて、こっちもお目覚めか」

 そう言うと、チョコレーは『墓荒らしのコン』の元へと近寄る。

「くっ……魔錠か」

「魔力も一切使えないだろ? あたしの魔錠は、下手な魔錠師のものよりも抜け出せないって評判なんだ」

「誰かと思えば噂の『破壊の少女』。まだ現役だったのか」

「ふん……生憎、引退した身だよ」

「…俺をどうする気だ?」

「依頼主は、お前と少し話をしたいと言ってる。その後は、警兵に引き渡す事になっている」

「そうか」


 俺は立ち上がり、()の元へと向かう。

「なぁ、あんた……自身の罪から逃げた罪人の魂を集めてるって、さっき言ってたよな」

「それがどうした」

「それって、どれだけ自分を犠牲にすれば、お前は許されるんだ?」

「何…?」

「罪人の魂を集めて、罰を与えて、それの繰り返しで……あんたは、ずっとそんな生き方をして、まるで、自分にまで罰を与え続けてるかのようだ」

「はっ…別に自分が許される為にやってることじゃねえ、むしろこの世の不条理が許せないからやってることだ」

「アクエさん……の為か?」

「…なっ!?」

「アクエさんだって、あんたが自分を自分で痛めつけるような、そんな生き方をしてほしいなんて、思ってないだろうよ」

「黙れ…黙れ!」

「黙らねぇ! あんたが鎖で縛り付けてるのは、死霊なんかじゃなく、自分自身の心じゃねえか!!」

「うるせえ!! てめぇに何が分かる!!」

 ヒートアップする言い合いに、ストノフが止めに入る。

「サズク殿! 落ち着いて下され!」

 ストノフにそう言われ、冷静さを取り返す。


「その…だからなんだ、今まで墓を荒らした事は許されない事だけどさ、その罪を償ったら、もうちょっと自由に生きてみても、いいんじゃないかな」

「…それが、お前の言いたいことか?」

「ああ」

「そうかい…残念だが、それは叶わねえな」

「え?」

「罪を償う機会なんて、俺には既に無ぇのさ」

「どういう意味──」

 その瞬間、『墓荒らしのコン』を取り囲むように、大勢の死霊が現れる。

「罪を償わなければいけなくなった時、俺は死ぬ──そういう法が課せられてるのさ、俺の魔法は」

「なっ…!」

 死霊達は空へ飛び立ち、鎖で繋がれた彼を運ぶ。


「死霊共よ…てめえらの魂、この俺の命をもって消滅させてやる!! 生まれ変わる事さえ、許さねぇ!! ハーーーハッハッハッハッハ!!」


 ドオン、と、巨大な爆発音が響く。

 空中へ飛んでいった彼らは、大きな爆発とともに、この世から、消滅したのだった。






 *






 先程の出来事から隠しきれないと悟ったのか、チョコレーは魔法についての説明を始めた。

「『魔法』っていうのは、魔放出の領域では収まらない『能力』の事を言う。それを手にした者は、この世の常識では説明できない力を行使することが出来るようになる。だがそれは、大抵は何か強力な『法』で縛られてるものなんだ。奴の様に、何かの条件を破れば死ぬ、なんてのもざらじゃない。魔法ってのは、そういった恐ろしい力なのさ」

 そして、チョコレーは俺の方を向いて言う。 

「これは、あんたにも無関係な話じゃなくなった。サズク、後で話がある」

 凄みのある顔と声で言う彼女に、俺は思わず気圧されそうになる。

「…今は用事があるから、先に帰っててくれ」

 そういうと彼女はどこかへ去っていってしまった。


 俺たち三人もその場を離れ、ギルドへと歩みを進める。

 辺りはすっかり夕日で赤くなっている。何だか、とても長い一日だったような気がする。色々な事が起こりすぎて、どっと疲れが溜まっている。

「…サズク、大丈夫? 事務所まで歩けそう?」

「あぁ…大丈夫」

「無理は禁物ですぞ、某が背負って差し上げましょう」

「大丈夫だって」


 そんな話をしながら、考え込む。

(魔法には『法』が課せられてる…あいつが『法』に触れ、死ぬきっかけを作ったのは俺だ。結局、あいつは俺が殺したようなものだ…俺は、一体どうすればよかったのだろう)

 そういう、自戒の念に駆られる。

「…サズクのせいじゃないよ。そんなに思いつめて、自分を責めないで」

「…あぁ、ありがとう」

 何か察してくれたのか、天瀬は俺にそんな言葉をかけてくれる。天瀬のその言葉に、俺はとても救われたような気になる。


 そんななか、ある事が脳裏をよぎった。

(あいつ、俺達の事を既に知っているようだった。一体、どうして……)


 ふと、ある建物の前で立ち止まる。

 そこは、先日エクシーさんと依頼の相談をした、あのカフェだった。

「…」

「サズク? どうしたの?」

「ああ、ちょっとな。先に行っててくれ」

「? 分かった、待ってるね」

 二人を見送った後、俺はカフェを見る。今日は営業していない事を示す札がかかっている。

(このカフェ、今日は開店日だった筈……)


『こちら、自家製ベリーのパンケーキでございます』


(あいつが見てた、果物がたくさん供えられていた墓。あの大量の果物の中に、そういえばあのベリーも供えられてた…)

 ふと、胸騒ぎがし、カフェの玄関に手をかける。

 カランカラン、と音を鳴らして、その扉は開く。

(開いてる…)

 カフェの中は、相変わらずおしゃれなのに加え、夕焼けに照らされ、不気味な程に綺麗だった。


 ガタン!

 上階の方向から、何かが倒れたような音が聞こえる。俺は、店の奥に見える階段から、一段ずつ登っていった。


 ギシ、ギシ、ギシ。

 階段の途中の窓から西日が差し込み、光の柱を映し出す。


 ギシ、ギシ、ギシ。

 二階に上がり、いくつかの扉が見えたが、目を引いたのは、僅かに開いた扉だった。


 俺は、その扉の前に立ち、ドアノブに手をかけた。

 一瞬、躊躇するが、その先を確かめるために、俺は扉を開ける。


 ギィー……。

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