プロローグ①
ザァァーーーーーーーーーー
シト……シト…… シト……シト……
雲が覆い、外は陰鬱な暗がりで、ベランダには水が溜まっているのだろう。
カーテン越しに、外を眺めながら思う。
玄関の方で、カチャカチャと、鍵を取り出す音がする。彼が帰ってきたようだ。
ガチャン
「ただいまー」「急に降るから、まいった、まいった」
彼はそう言い、カチッ、と明かりをつけた後は、どうやら風呂場へむかったらしい。すぐにシャワーの音が聞こえてきた。
その後しばらくすると、トントントン、と聞こえてくる。
そのうちに、香ばしい匂いがここにも漂ってくる。
部屋のドアがそっと開き、廊下の光が差し込む。
「ご飯、できたよ」
「……ん、うん」
私は、そっと起き上がると、さっきより更に、暗くなった部屋から出る。
ダイニングにくると、テーブルの上に置かれている、肉じゃがと鯖の塩焼きが見えた。
私は席に着くと、さっさと食事を済ませようと、黙々と箸を運ぶ。この場から早く離れる為に、彼とは目を合わせないように。
「洗濯物、取り込んでくれてありがとう」
彼が私に話しかけてきた。
「辛い時に無理させてごめん、助かったよ」
やめてよ、あなたが何か言うたびに、なにか会話をしなきゃいけなくなる。
「うん、大丈夫だから……」
「でも、無理はしないでほしい。お前が辛い時は、これまでのように俺に任せて欲しい」
いつも優しいあなたは、今日に限って私の傷を抉る事ばかり言ってくる。
「ごちそうさま」
箸を置く。
「俺、お前のためにもっと頑張るから───」
「もういいから!!!」
「……ごめん」
「ううん、……私も」
そう残すと、それでも私は部屋へ戻っていってしまった。
きっと、今の出来事はまたすぐに私を苦しめるのだろう。この積み重ねの日々は、どこまで続くのだろう。