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盟約の魔物使い(モンスターテイマー)   作者: 在吉兼清
2章_冒険者稼業始動編
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022-2_突き付けたい刃

「合格です」

「え?」


聞き間違いだろうか、試験官に負けたはずの自分がなぜ合格なのか、と混乱するオーネス。そんな彼を他所に話を進めようとするサラ。


「では、細かい評定をお話しますね」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「はい?」

「え、僕、負けましたよね、結構ボコボコな感じで。それを見ていて実力に開きがあるから危険と判断して止めたんじゃないんですか?」


そう、先程のやりとりは明らかに負けの状況であった。壁際に追いやられてボコボコにされていた受験者の一体、何を評価したと言うのか、不思議でたまらない。


――自分で考えていて悲しくなるケド……


「実力に開きがあったと思ったのは確かです。ですが、それはオーネスくんの評価を下す、という試験の目的から逸脱した戦闘行為であると判断した為です」


それにしたって、という思いがどうしても先走る。納得の言っていない様子に口を挟んだのはヤーテムだった。


「オーネス君。君、私に攻められている間も何かを狙っていただろう?」

「っ!」

「ばれていないと思ったのかい? あんなに目をギラギラさせていれば、私でなくとも何かあると勘ぐってしまうよ」


今の口ぶりだと何を狙っていたか、まではばれていないようだが目論見自体はばれていたらしい。つまり、例えカウンターをヤーテムに喰らわせたとしてもそれが状況を大きく傾けるには至らなかった可能性が高い、という事であろう。自分の起死回生の一撃もあまり意味がなかったと言われているような気分になり、肩を落とすオーネス。


「あぁ、気落ちする事はないよ。まだ死線をくぐっていないのに、あれだけ攻められ続けて気概を失っていないだけで評価されるべき事だ。そもそも、体術だけで、私にある程度対抗できる程度の力量はあるみたいだしね。合格、と言われた事には納得してもらえたかな?」


フォローを入れるヤーテム。オーネスも、ヤーテムからの言葉に頷き、飾り気のない評価に少し気分を上向ける。


「まぁ――」


そんなオーネスに一度言葉を切ると――。


「何かされても私の勝ちは揺るがなかったけどね」


言って、不敵に笑うのであった。


――父さんと言い、このヤーテムさんと言い……


冒険者はどうやら自分の方が強い、と示さずにはいられない人種の様だ。いや、そもそもオーネス自身、似た感覚を覚えた事があるので人の事は言えないな、と自嘲する。

とはいえ、目論見は不発に終わる可能性が高かったものの、それまでの流れが評価されたのは確かであるようだ。


オーネスが考えてもいない評価ではあったが具体的に評価された部分を提示してもらえるようになれば、実感も湧いてくる。知らず、わなわなと身体が震えだすオーネス。


「よしっ! ありがとうございました!」


口角が上がるのを隠しもせずに、歓喜の声を上げる。若者が夢への一歩を踏み出す瞬間を見ることができたのだ。その様子を見ていたいのはサラとヤーテムも同じではあるが、あいにくと時間にも制限はある。


だからだろう、オーネスの喜びを諫めるようにサラからの咳払いひとつ。


「それで、細かい評定ですが――」


サラから伝えられた試験の最終的な結果は武術技能が4よりの3、魔法技能は1という結果であった。基本事項3つの内、2つが評定1となんとも締まらない結果ではあるものの、合格、と言われた事は事実。大手を振って冒険者と名乗れるようになった訳である。


「ちなみにオーネス君は冒険者の規則とかは知ってますか?」


「冒険者ギルドが斡旋している依頼を受けて報酬を貰う、という事くらいしか知らないです」


「じゃあ、具体的にどういう風にして依頼を受けて、報酬を受け取るのか。依頼に対して推奨段士がある事は知ってる?」


「……すみません、分からないです」


「では、このまま立ち話もなんですし、別室へ移動しましょうか」


その提案に頷き、ヤーテムにお礼を言うと試験会場を後にするのであった。



ところ変わって、サラに案内された別室。


本当に冒険者になった人に仕組み等を個別に説明するための場所なのだろう。真ん中に机と4脚の椅子が置かれているだけのシンプルな部屋だった。サラに促されるまま、椅子に座るオーネス。


「では改めまして、冒険者ギルドの仕組み付いてお教えしますね」


まず、説明されたのは依頼を受ける為の方法。こちらは、そこまで複雑ではなく、依頼内容を記載した依頼書を貼り付けておく掲示板があるため、そこに貼り付けられた用紙を取りカウンターへ持っていく。この時、カウンターで簡単な審査を行いこれで、依頼を受諾した、という扱いになるとの事だ。


「簡単な審査?」


「これを使って行います」


サラが机の上でスッと差し出してきたたのは緑の縁取りを施されたカード。そこには冒険者登録証の文字。それはただのカード。されど、その文字を見るためだけにこれまで努力をしてきたのだ。


その文字に今までの努力が実ったのだ、と感動を覚えるオーネス。その目は年相応に輝いていた。説明を続けたいサラではあったが、その様子に少し口元を緩め、次の句を紡ぐのを止めた。


サラの様子に気が付いたオーネス。顔を赤くするのを何とか隠そうとしながら、進めてください、と次を促す。今まで農村出身の14歳にしては珍しい落ち着いた雰囲気に少し面食らっていたが、ようやく見せた年相応の様子にクスリ、と笑いながらも説明を続ける。


「依頼ではギルドが設定した推奨等級を目安に審査を行います」


「推奨等級?」


耳慣れない言葉に、つい質問の声を上げるオーネス。


サラが冒険者カートの上の辺りを指差す。そこには「序段単士」と書かれている。


冒険者には「段士等級」というものが設定されており、ギルドの発行する依頼ではその危険度に応じて推奨等級を設定する事で余計な人材損失を避ける狙いがあるとの事だ。等級が高い冒険者であればあるほど、危険度の高い依頼でも受けられるという事だ。


等級は3つの段と3つの士で分類されている。

段は下から順に序段、破段、急段という形で、士はそれぞれの段で単士、双士、鼎士という形で分類しているようだ。


ちなみに、依頼書を持っていくカウンターは縁取りと同じ色のカウンターに持っていくと他の色の縁取りのカードを持つ冒険者よりも優先的に処理をするため、基本的にはそちらを利用する方が効率的であるらしい。


「あと、等級が上がるカウンターの場所が変わるだけではなくて、色々とメリットがはありますけれども、細かい事は追々、というところでしょうか。序段から等級を上げようと思うならば、定期的に自分の身の丈に合った依頼を成功させて、きっちりと報告する、という事を気を付けるといいですよ。何か質問ありますか?」

「いえ、大丈夫です」


その答えにコホン、と咳払いを一つ。


「では、改めまして、冒険者試験の合格おめでとうございます。序段単士オーネス。あなたの活躍を期待しています」


祝いの言葉と共にオーネスへと渡されるカード。それを頭を俯かせながらしっかりと受け取り、ありがとうございます、と口にする。その手は少し震えていた。


――この位の年で冒険者になりたい、って目指して実現したのだから、それなりの努力をしたんでしょうね


「さて――」


手をたたき、その場の空気を変えるサラ。


「まだ、日も昇り切っていない時間ですし、今からでも受けられる依頼はあると思いますよ。せっかくです。早速、一仕事、どうですか?」


その言葉にはい、と声をあげ、一礼すると、隣のフリートに声をかけ、部屋を飛び出すオーネス。


「あ、ギルド内で緊急時以外は走るの厳禁ですよー。って、聞いてませんね。まったく」


嘆息しながらも、頑張ってくださいね、と呟くサラ。その表情は手のかかる生徒を見守るかの様であった。



サラの言葉が耳に入っていたものの逸る気持ちを抑えられなかったオーネスとフリートは廊下を駆けていた。


「やったね、オーネス」


「うん、やった」


「おめでと!」


「うん」


それだけの短いやりとり。しかし、フリートからかけられた言葉がより実感を深め、オーネスにとっては嬉しくてたまらない。ついつい、その口角は吊り上がってしまう。喜びを隠そうともしないオーネスをからかおうか、とも一瞬考えたが、自分も口角が吊り上がっており、人の事を言えない事に、と気が付くフリート。にやけた二人組はすぐに掲示板を前にする。


そこにあったのはまだ張られていたいくつかの依頼書。自分は序段である。推奨等級に序段、と書かれているものがないかを探すべく目を光らせるオーネス。その横から上がる声。


「あ、オーネス。あれ、どう?」


フリートの指差す先にある依頼書に記載された推奨等級には確かに序段の文字。中身を見てみれば、朝一で試験を受けた事もあり、今からでも十分に間に合いそうだ。内容的にも一人で行うものでもないため、丁度よさそうである。


「うん、いいかもね」


言葉と共に依頼書を剥がす。期待に胸を膨らませながらずんずんと緑のカウンタ―へと歩を進め、カウンターの受付嬢にスッっと依頼書を差し出し。


「よろしくお願いします!」


オーネスの冒険者としての一歩が今、踏み出されたのであった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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