018-2_黄金色の少女
その頃、オーネスと同じようにフリートも野盗との戦闘に入っていた。オーネスと同じように不意打ちで一気に決めようとしたが、フリートが狙ったグループはフリートの接近に気付いたらしく盾を持った野盗に不意打ちを防がれてしまった。
――甲冑の人は1対1にできた。ただ、ボクの方は1対2、前に戦斧の人、後ろに剣と盾の人
一人で対処する場合、一番効率が良さそうな方法を考えるフリート。まず、戦斧を持った野盗の斧を受け止めて隙だらけになったところを一気に攻め込み、打倒する。味方が倒れて浮足立っている剣と盾を持つ野盗をその隙に倒す。これが流れとしてはスムーズだろう。しかし。
――剣なら頭で受け止められるだろうけど、多分、斧は無理だよねぇ
もしかすると、止められるかもしれないが、どのくらいの強さで打ち込みまれるか分からない。流石に受け止めにいったら、そのまま頭を割られました、なんて阿呆な死に方は嫌だ。
敵の実力が不明である以上、無理はできないと考え、積極的に野盗の攻撃を止めに行くことができず、手を出しあぐねているフリート。
そんなフリートを二人の野盗は前後ろで囲む。
しかし、どのような攻撃をしてくるか分からない魔物の乱入に野盗の側も攻めあぐねているらしい。様子をうかがいながら。じりじりと間合いを測るに留まっている。にらみ合いをしていると焦れてきたのだろう。戦斧の男が口を開き始める。
「しかし、この青トカゲ、多分、魔物だよな? 見た事ないやつだな」
「こいつ捕まえて調教してやれば色々便利なんじゃないですかね?」
「だな。最悪、こいつだけでも連れ帰れば頭にも話がつくかもな。んじゃ、捕まえる方向でやり合うか。さっき不意打ちかましてきたところみると、そこそこ、考える頭もあるみたいだな。よし、俺が隙をつくるからそこを付け」
「分かりました!」
調教、だとか、そこそこ考える頭がある、だとか、とても不愉快なやりとりをされている気がするフリート。そもそも相手を前に暢気に作戦やらを練られているのが舐められているようで少しむっとしてしまう。
だが、そんなフリートの気持ちなど野盗二人は知る由もない。すぐさま、戦斧の野盗が左下に向けて振る。それを後ろに跳んで躱すフリート。
「はっ、やっぱり畜生はそんなものだろうよ!」
後ろからは剣と盾の野盗が迫る。
フリートは少し高く跳びすぎてしまったらしい。長い滞空時間を晒す事になる。
好機と見た剣と盾の野盗はるフリートに対して剣を振り下ろす。
――当たった
剣と盾の野盗は半ばフリートの撃破を確信していた。
「舐めんな!」
しかし、フリートは空中で身体を捻ると、振り下ろされる剣の側面に尻尾を叩きつけ、その軌道を反らす。
軌道が逸れた剣はそのまま止まることなく、地面に突き刺さる。
魔物の予想外の動きにすぐさま反応できない二人の野盗。
そして、フリートにとっては望むところであるこの状況。なぜなら、二人とも得物を振り下ろし、隙だらけなのだ。
着地すると、すぐさま剣と盾の野盗に視線を向け、脚に力を溜める。
地面を蹴り、爆発的な加速で剣と盾の男に迫るフリート。
しかし、一瞬戸惑ったとはいえ、剣と盾の野盗は思った以上に早く立て直した。迫るフリートに向けて盾を構えている。
――上等! さっきのが全力と思うなよ!
構えられた盾の上から拳が思い切り叩きつけられる。ぶつかり合う拳と盾は辺りに鈍い音を響かせる。しかし、拮抗した時間はわずか。すぐさま振り抜かれる拳。
流石に鉄製の盾を拳で割ることはできなかった。だが、それを持った人間の腕は違う。ぼきっ、という音と共に吹き飛ばされる剣と盾の野盗。
吹き飛ぶ味方を唖然としながら見る戦斧の野盗。
その手の戦斧は未だ、地面に突き刺さったまま。隙をさらしている。そして、それを黙って見ているフリートではない。
すぐさま男の懐に潜り込むと脚を思い切り殴る。先程の剣と盾の野盗と同じような音をさせた戦斧の野盗はたまらず、地面に倒れ伏してしまう。
剣と盾の野盗がなんとか立ち上がった時にはフリートすでに戦斧の野盗が倒れた後であった。何が起きているのか、と少し慌てながら辺りをざっと辺りを見回す。
――さっき割り込んできたガキが二人倒してやがる!?
戦斧の野盗も倒れしており、すでに3名が減っている。かくいう自分も片腕が折れており、まともに戦うのは望めそうもない。そもそも、甲冑とは3対1で拮抗していたのだ。このままでは然程、時間を置かずに数の上での有利も失ってしまうだろう。
そう考えた剣と盾の野盗の行動は一つ。
「アニキ、3人やられました! 俺も片腕、折られてる。これ以上やればやられる。撤退しましょう!」
大声を上げての進言。言っている間に1対1になった甲冑が野盗の仲間達を今にも倒しそうになっている。
一団の頭らしい、アニキと呼ばれた男は進言を受け、今、相対している甲冑から距離をとると、辺りを見回す。
「ちっ。確かにこれ以上はまずそうだな。てめぇら倒れてる奴ら回収して撤退だ!」
舌打ちをしながら、周辺の野盗に指示を飛ばすアニキ。
もともと3対1で何とか押していた程度だったのにそのバランスが崩れてしまえば、すぐに戦況は傾く。忸怩たる想いを感じながらも、撤退を宣言するのであった。
「逃がすか!」
甲冑の男の一人が追撃しようとする。しかし、野盗の引き際は見事なもの。
「スモーク!」
「魔法!?」
掛け声と共に魔法で辺りに煙を充満させると、オーネス達への手出しは一切せず、瞬く間に仲間を回収する。追おうとする甲冑とオーネス達であったが、煙が散った時には野盗の姿はなかった。
「あいつら一体どこに?」
辺りを見回すが開けた場所であるにも関わらず野盗の一団の影も見当たらない。
「転移魔法を使ったんだろうね」
きょろきょろとしているオーネスに対して、甲冑の者が声をかけてきた。甲冑の者は兜を脱ぐ。
「ありがとう。おかげでこちらは死者を出さず、野盗を追い払うことができた」
握手を求めながら、声をかけてきた20歳くらいの金髪の男性は自身の事をクローヴェスと名乗った。クローヴェスが言うには、さる高貴な人物の護衛をしながらファーメイションへ赴く途中に野盗に襲われたのだという。
野盗たちはいきなり現れたかと思えば、あっという間に馬車を包囲してしまったとの事だ。
周りに人影があれば、流石に気付くだろうから、十中八九、離れた場所に瞬時に移動する転移魔法を利用したと考えているとの事。魔法には色々ある、とは聞いていたが、思っていた以上に色々あるようだ。
これはどこかで学ばないとまずいかも、と頭の隅で考えるオーネス。
「それにしても、最後の煙ですけどなんで最初から使わなかったんですかね?」
「……流石にそのものズバリという訳にはいかないが、理由としては持続時間か、他に何か制限があるのか……何にしても、先程の奴らにはこの辺りにいるのであれば気を付けておいた方がいいだろうね。それはそうと――」
野盗の話をしていると、急に音を切るクローヴェス。
「君たちはどうやってここに来たのかね?」
「それは行商人さんの荷台に乗せてもらって……」
そう言い始めるオーネスの脚をちょんちょんとついてくる感触がした。フリートである。どうしたのか、と尋ねると、フリートは道の先を指している。そこには行商人の荷車はなかった。
まさかの事態に狼狽し、ちょっとすみません、と断りを入れ、フリートとともに、先程、荷車を降りた辺りに戻る。
道中周りにも注意しながら、進むが馬も荷車も見当たらない。まさか、という想いのまま、元の場所に戻ると自分たちの道具袋が置かれていた。ちょっと直視したくない現実に苦い顔をしているオーネスにフリートが声をかける。
「巻き込まれるのを嫌がったって事だよね」
「だよなぁ」
「ま、まぁ。皆から貰った道具袋は無事な訳だし」
確かに行商の人には荒事の心得がありそうな感じでもなかった。そのため、巻き込まれるのを嫌ったのは分かる。
――だけどなぁ
やるせない思いを感じながら、鞄の中身を確認すれば、鞄の中に入れていたものは残らず入っていた。離れざるを得なかった行商人のせめてもの気持ちなのだろう。フリートの方の道具袋も無事なようだ。
――これからどうやってファーメイションまで行こう?
この道を進めばいいという事は分かっているのだが、どのくらいの距離があるのかよく分かっていない。
「とりあえず、クローヴェスさんのとこに戻ろうよ。多分、どれくらいの距離があるかも知ってるだろうし」
フリートの言葉に、そうだな、と返し、改めて馬車の辺りまで戻る。
「おや、お帰り。さっきはどうしたんだい? って、なるほど。なんとなく分かった」
先程は持っていなかった大き目の道具袋を持った二人の姿を見て気の毒そうな表情になるクロ―ヴェス。
仕方がないですよ、と強がれば肩を叩かれる。何とか自分も送ってもらえないか交渉しようか、とも思ったが、先程、高貴な人を乗せているといっていた、同乗を願い出るのは無理だろう。ならば仕方がない、意を決して尋ねるオーネス。
「ここからファーメイションまで徒歩ならどのくらいですかね?」
「え? 歩いていく気かい? ここからだと1日ちょっとかなぁ」
1日、最悪2日ならば何とか徒歩で行けるかもしれない。タイミング的に今から出発する途中でクローヴェスさんらとかち合って少し気まずい思いをするかもしれないが、それはもう仕方がない。そう結論付け、お礼を述べようとして――
「あら? 一緒にいけばいいではないですか」
鈴のような綺麗な声がした。
「え?」
声のした方を向けば、件の馬車の扉が開かれ中から少女が現れる。
その者は腰の辺りまで伸びた輝くような金髪を一房の三つ編みにまとめ、透き通るような翡翠の瞳。優しそうな風貌でありながら芯の強さを感じさせる、その目は見る者を惹きつけずにはいられない。そして、修道女の服装というありふれた服装を来てはいたものの、隠しきれない辺りを柔らかく照らすような雰囲気を持った少女であった。
少女はオーネスらの前に来ると、その女性らしい肢体を曲げ、礼を述べる。
「この度は我々の窮地に手助けいただき、ありがうございました」
その綺麗として表現のしようがない所作に目を奪われていると、少し間を空けその名が口から紡がれる。
「プリマヴェーラ=エヴァンズと申します」
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