018-1_黄金色の少女
依頼達成のために作業を進めていた二人の前に現れたのは人里近くにいるはずのない威容を持つ魔物。
その魔物の出現に格別の警戒を見せたフリートであったが、あまりの重圧に耐えきれなかったのか、思わずといった様子で突っ込む。
しかし、対する魔物はその姿に違わず、戦闘力においても圧倒的。フリートは事もなさげにあしらわれてしまう。一瞬のやりとりだけでも絶望的な彼我の戦力差を否が応にも叩きつけてくる。
幸いにしてこの魔物の討伐は依頼とは別事項。
ここで無理をして命を落とす事もない。何とかフリートを連れて離脱を――。
「え?」
考えていたオーネスに魔物の大爪が迫る。その光景をオーネスはどこか遠くの出来事のように見つめているのだった。
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村を出て冒険者になるべくギルドが設けられているファーメイションに向かう二人――。
ではあったものの、今は街への道中、やれる事は行商の荷車に揺られる事だけであった。村を出て早二日、途中で行商人と食事をしたり、雑談をしたりしながら時間を潰してはいたものの、流石に日がな一日中、荷台に乗せられていれば、やる事がなくなるというもの。
止まっているのであれば、周囲の散策をする、という手もなくはないが、移動している最中ではそれも難しい。
暇を持て余しているのであれば自己鍛錬に時間を当てたいものでもあるが、乗せてもらっている身分でドタバタするのは流石に気が引けてしまう。
結果、二人はぼうっとしながら、空を見上げているのであった。快晴だ。
オォォォォォォォォォォォォォォォォン
遠くから遠吠えのような声が聞こえる。
夜でなくとも遠吠えなんて聞こえるんだな、などと暢気なことを考える。これが森の中や鳴き声自体が近くから聞こえているのであれば、暢気に構えていることはできないが、幸いにして声の大きさからかなり遠くである。
仮に近くであったとして荷車が進むのは見通しのよい平野。仮に襲われそうになったとしてもどうにで対応ができる。そのため、あまり警戒をする必要はないだろう、というのがオーネスの判断である。
行商人もそのくらいは分かっているのであろう、特に慌てるでもなくゆっくりと道を進んでいる。
こうもゆったりと時間が流れてしまうと眠くなってくるな、と思ったオーネスは行商人にしばらく気になっていた事を聞いてみる事にした。
「村を出てから雨とか降ってないですけどそんなものなんですかね?」
「いや、これだけ雨が振らない運がいいと思うよ。この辺りでもこの時期は天気が変わりやすいからね」
「国全体でそんな感じなんですかね?」
「まぁ、私もそんなにあちこち言ってる訳ではないけど、そんなものだって聞いてるよ」
「じゃあ、雨が降った後だと道がぬかるんでいたりして結構、行商に辛い季節ではあるんですね」
「私の場合はこういう開けた土地を主に行商してるからマシな方かな。山道とかだともっと天気が崩れやすいらしからね。落石だとか土砂崩れとかに結構注意しないといけないみたいだよ」
なるほど、と思う。
「そうすると、この時期、できれば山を迂回して目的地に着くルートを考えた方がいいんですね」
「そうだねぇ。少なくとも山に慣れていない内は迂回することをおすすめするよ」
今後、遠方へ移動する気を付けよう、と考えながら、他愛もない話を続けていると、道の真ん中に人だかりができているのが見えた。今、荷車は進んでいる道はある程度、舗装されてはいる。しかし、ファーネイションまで近いという訳でもなく、人が集まるような場所ではない。
「あれ、何ですかね?」
「さぁ? とりあえず道の途中だし、このまま行こうか」
何の気なしに近づいてみると次第に怒号らしきものが聞こえてる。何かのトラブルだろうか、などと緩んだ頭で考えていたが、次第に金属がぶつかり合う音や怒号が聞こえてくる。
何かおかしい、と思い、フリートに声をかけると身を乗り出して確認する。何名かの皮鎧など軽装の男達が馬車を取り囲み、周りで馬に乗った甲冑姿の者達と戦っているようだ。たかだか、トラブルで武器を振り回すなんて事はありえないだろう。
「行くよ、フリートっ!」
「うん」
馬車は襲われているのだと判断すると、かけていた道具袋を下ろし、ユキザクラを取り出すと、すぐさま荷車から飛び降り、フリートと共に弾かれたように人だかりに向けて駆け出す。
――身体強化魔法発動
あまりゆっくりとしていられない、オーネスは身体強化魔法をかけ、一気に距離を詰める。
「どうしたんですか!?」
一団に近づき、大声で問いかける。
「野盗だ! 助太刀をお願いしたい! 馬車には近づかせないでくれ」
「分かりました」
甲冑姿の人物からの声だろう。少しくぐもった声で告げられる。
ざっと辺りを見れば、野盗の方が人数が多くが、甲冑姿の者たちは槍などの長柄の武器で身体強化魔法:加速、辺りを使いながら上手く立ち回っているようだ。
戦力比はオーネス達を含めてざっと7対15程度。野盗の方は動きを見れば、技量は村で一緒に訓練を受けた者たちよりも少し高い程度か。ややダーティな立ち回りをしているから、彼らよりも手こずりはするだろうが、オーネス達はそれぞれ一人でも問題はなさそうだ。
「フリート、二手に分かれるぞ。1対3になっているところとか甲冑の人がやられそうになってるとこを優先的に助けてくれ」
「了解」
二人で別方向に駆けだす。
もともとが5対15だ。オーネス達以外は全て1対3。とにかく早期に野党側の頭数を減らすために、手近なところから手を出していくしかない。
オーネスの左側にいる甲冑姿が一番近い。その上、オーネスが接近していることに気が付いていないようだ。
――すぐに決める
強化進度を一気に高め、地面を蹴る。野盗の側面から一気に近づくと、得物を鞘に収めたまま皮鎧を気にせず腹部目掛けて振り切る。予想外の一撃に反応する事もできず。成人男性3名分――5メトレ程――吹っ飛ぶ野盗。
メキ、と言う嫌な音が聞こえた気がするが、緊急事態だ気にしてはいられない。
いきなり吹き飛んだ仲間に驚いたのか、残りの二人の内、一人の野盗が甲冑と相対していることも忘れ、オーネスに目を向ける。
甲冑はまだ攻撃態勢に入ってはいない。そして、もう一人の野盗はすでにオーネスの間合いの内。甲冑と攻撃がかち合う事はなさそうだ。
素早く、状況を判断。少しだけ腰を落とすと野盗の顎に向けて振り上げる。
ただでさえ無防備なままオーネスを向いたのだ。一呼吸置く間もなくすぐさま放たれた一撃に反応できるはずもない。オーネスの一振りは吸い込まれるように野盗の顎に向かう。当たる鞘、跳ね上げられる顎。
よほどの衝撃だったのだろう。野盗は後ろに傾くと、ばたり、という音を立て地面に仰向けになる。
顎を跳ね上げた野盗は白目を向いているようだ。すぐに戦線復帰とはいかないだろう。先程吹き飛ばした一人も腹を抱えながら呻き声を上げている。
「後は任せます」
それだけ言うと、次の場所に駆け出すのだった。
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