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015-2_旅立ちの前に

 実技に勉学にと冒険者になるための準備を進める日が続けていたオーネスであったが、今まで従事していなかった仕事に参加するなど、急に態度が変われば周りからも気にされるようになるというもの。とある日、参加者が尋ねてくる。


「最近、村の仕事の方にも顔を出してるみたいだけど、冒険者になるのはどうしたんだ?」


「え?」


 話していいものかと、ちら、とフェイスの方を見ると目を見ながら頷かれる。どうやら、話してしまっても良いようだ。


「それなんですけど、この間、やっと父から一本取りまして――」


「本当か!?」


「お前、フェイスさんから一本取ったのか?」


「いつ?」


「なんで言わなかった!?」


「これでオーネスも冒険者かぁ……」


「ちょ、そんなにいっぺんに言われても分かりませんよ」


 周りの参加者にも会話を聞かれていたらしく、フェイスから一本取った、と言うが早いか一瞬で取り囲まれてしまうオーネス。周りも言いたい放題である。


「で、いつ出るんだ?」


「実は出る前に色々やっておかないといけない事がありまして、今はその準備中ですね……」


「まぁ、今の調子であればあと半年ってところですかね?」


 フェイスからの返答。参加者のふとした疑問に思いもよらず、フェイスがどのくらいで刀の扱いと冒険者になるための勉強が修了するのか分かってしまった。


 課題こそ提示されていたものの、実際のところ、どの程度の期間が必要になるかは分かっていなかった。しかし、フェイスからはっきりと言われ、急に村を出る事が現実味を帯びだす。


 ――そうか、半年後には僕はここにいないのか


 そう思えば、冒険者になるための一環としての側面が強かった、この訓練にも愛着、のようなものを感じるから不思議なものだ。感傷に浸っているオーネスを余所に、周りはもう、本人そっちのけで盛り上がっているようである。


 ――なんだかんだ、色々お世話になったなぁ


 フェイスから一本とるための方法論を話し合い、そのための対策を一緒に考えた事もある。考えた対策が実現可能な動きなのか実験台になってくれた事は数知れない。自分一人では実現できなかったのだな、と思い返しているオーネスに声をかける人物が一人。


「お前、半年後には村を出るのか?」


 ノーティスである。その問いに短く、うん、と答える。そうか、とだけ返し、そのまま何か考え込んでいるようである。どうしたのだろうか、と声をかけようとしたが、再び先程のメンバーから呼ばれた。


「向こうに行くけど大丈夫?」


「あぁ」


 短いやりとりをして、再び輪の中に戻るオーネス。その姿をノーティスはぼうっと見ているのであった。



 その日の訓練後、村の仕事に顔を出す為に準備をしていると、プリムから声をかけられる。


「お疲れ様、オーネス」


「うん、今日もありがとう、プリム」


 言いながら、差し出された濡れ布を受け取る。


「この後は仕事に顔出すの?」


「そのつもり」


「そっか、なら途中まで一緒にいいかな?」


 特に断る理由もなかったので、了解の旨を伝え、二人で村に戻る。他愛もない話をしながら戻る道中。


 今日の訓練中の事もあり、こうやって二人で歩くのも後半年か、と思いながら、隣を見た。プリムはそこにいなかった。


 置いてきてしまったか、と思い、振り返れば、俯きながら立ち止まっている。どうしたのか、尋ね、近づくオーネス。


「半年後……」


 いきなり言われ、疑問符を浮かべる。


「半年後に村を出る、って。冒険者になる、って聞いた」


「うん。ようやく父さんから一本とれてね。まぁ、ホントに辛くも、って感じだったんだけど――――」


「もう、村には戻ってこないの?」


 生まれ育った村だ。家族もいるし、世話になった人も大勢いる。そんな人らともう会わないか、と問われれば答えは否。

 

 だから、戻ってこない、という事はないだろう。ただ、どのくらいの頻度になるかは分からない。


「一緒にいっちゃ、ダメ?」


「うーん、難しいんじゃないかな? 聞くと、一人村から出すだけでも結構、大変らしいし。でも、またなんで?」


「好きなの!」


「え?」


「好きなの‼」


 ――僕は告白されたのか?


 最初にオーネスの中で浮かんだ感想はそれであった。


 オーネス自身、彼女の事をかわいいとは感じていた。しかし、それは妹分としてであって、女の子としてであったか、と問われれば――申し訳ない事ではあるが――否、と言わざるを得ない。プリムを見れば、顔を俯かせながら小刻みに震えている。


 例え異性としてではなくても好ましいと感じていた少女だ。


 オーネスなりにかわいがってきたつもりである。そのため、無駄に傷つけるのは本位ではない。しかし、勇気をもって一歩踏み出してきたプリムに対して適当な事を言って、逃げるのはもっと本位ではない。故に彼の答えは――


「ごめん。そんな風に考えたことなかった」


「っ!」


 走り去るプリム。オーネスはそれを申し訳なさそうに、見つめていた。




 その日のオーネスの仕事ぶりは、自分でもどうかと思うほどに酷いものであった。物資を運搬すれば目的地を通り過ぎてしまうし、引き渡しをすれば数が足りないという事で再度、取りに戻る。そんな事が何件もあった。幸いにしてカバーができる範囲でのミスであったので、大事には至らなかったがプリムの件が後を引いているのは明らかである。今日の相方に心配されつつも何とか仕事を終えると、肩を落としながら帰宅するオーネス。


 ――今日は本当にひどかった。いくらもやもやしてるからって仕事にまでひきずっちゃダメだろ


 一度、フリートと組み手をして、頭を空にするかな、などと考えていると声をかけられる。


「よう」


 ノーティスだ。気分が沈んでいた事もあり、適当に受け流してそのまま帰るか、などと考えていると――


「勝負だ」


 正直、またか、と思い、今はそんな気分ではない、とノーティスを見ると今までのにない程に真剣な目をしていた。


「頼む、勝負してくれ」


 言って、頭を下げてくるノーティス。

 

 今まで幾度となく勝負を挑まれたが、頭を下げられた事は一度としてない。初めての態度に目を見開き、考える。


 別に彼と勝負する事には利益も不利益もない。勝負を持ち掛けられた当初、鬱憤をはらしてやろうか、と、思わない事もなかったが、先程の様子をみればそんな気持ちも失せてしまった。


 さて、どうするか、と考えていたが。


「今回で最後にする。だから、頼む」


 ここまで言われてしまっては理由なく断るのも不義理。そう感じたオーネスは、分かった、と返すのであった。


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