009-1_夢への一歩
「冒険者を目指すなら習得しておく、最低でも知っておく技術でもある」
「それは?」
「身体強化魔法だ」
魔法――
大気中の魔素に対して魔力を使うことで使用者がイメージした現象を通常の物理現象を越えて実現する技術である。そして、身体強化魔法とはその名前の通り、身体能力を強化する魔法全般を指す。
種明かしをされたオーネスは調練中の父の立ち合い稽古を思い返す。
訓練の立ち合い稽古は体に有効打を当てる事を重視した訓練である。そのため、戦闘中に相手の隙を見つける動きを学ぶのに適した訓練の一形態である。
確かに父は他の人に暮らべてはるかに強い。
しかし、要所要所で一撃入れられるのではないか、と思った事はある。しかし、当たる、と思った瞬間、普段よりも素早い動きで切り替えし勝ちを得ていた、ような気がする。
「そっか、お父さんは身体強化魔法をを使っているから、調練で敵なしなんだね」
今まで見えていない部分が見えた気分になり得心するオーネス。
「いや、調練では身体強化魔法は使ったことないぞ」
「……」
父は単純に強かっただけのようだ。つまり、調練の時よりもさらに上の強さを持つ父に一撃を加えないといけないという事である。一瞬だけ父に勝つための方法を見つけた気がしたが、実際にはさらに高くなっただけであった。若干、気が遠くなる気がしたオーネス。
そんな息子の姿を見て、ま、修行を積んで頑張るんだな、と声をかけるフェイス。
そんな父を半目で見ながら、あんたのせいで大変になるんだよ、と、恨み節の一つでも言ってやろうとオーネスの頭をよぎった。が、止めた。
要はそのくらいは越えないと冒険者としてやっていけないと言う事だろう。
そう心持ちを切り替える。
余談ではあるが、立ち合いの要所でいい動きをしていたのは体術の一種で通常時は7~8割程度の力で動くことで、いざ、という時に一段階上の動きをできるようにする鷹力という技術だそうだ。
「さて、修行をつける前に大まかな計画の話をしておく」
魔法についての話が終わったところで、話を切り替えるフェイス。彼から告げられた計画としては、魔法の基礎、身体強化魔法、最後に体術などの近接戦闘方法を教え始めるというものであった。
ここで気を付けるべきなのは、あくまでも教えられるのは理論けである、という事だ。一度、理論に関して学んだ後はすぐに実践に入り、その中では細かい指導はせず、立ち合い稽古だとか、感想戦に留めるということだ。
つまり、理屈は教える、試す場所も提供する。アドバイスも送る。
ただし、具体的な事は自分で考えろ、という事である。自分で試行錯誤しない技術は役に立たないという事であろう。
「期限は6年。お前が16歳になるまでやっても俺に一撃与えられないようであれば、冒険者になる才能はない。冒険者になることは諦めて、この村での仕事に就いてもらう。これは俺が母さんと約束した事だ。だが、俺はお前に夢を叶えてもらいたいと思っているし、無理だと思っていない。だから、全力でやれ」
先程は遠い目標だ、と思っていた父その人にそう言われれば、やる気も出るというもの。その言葉に自分でも驚くほどの声量で返事をし、早速、修行に取り掛かる。
「さて、魔法を使うあたって、まず大切なのは魔力を使うことだ」
フェイスは懐から魔晶を取り出して、オーネスに投げ渡す。なぜ魔性を、といぶかし気にしているオーネスに説明を始めるフェイス。
曰く、魔法を使うためにはまず、魔力を使う、という感覚が大切であるという事だ。しかし、いきなり魔法を使え、と言われてもどうすれば良いか分からないのが普通である。そこで魔晶の出番だ。
魔晶は魔力を通す事で様々な恩恵をもたらすものである。しかし、――オーネスの知らないことではあったが――実際には魔晶は魔力の増幅器でしかない。
例えば、火を起こす、という事を例に挙げる。火を起こす魔法を使える人はそのまま火を扱う魔法を発動すればよい。しかし、一般人はそのような術は学んでいないため、どのような魔力の使い方を以て、どの程度の魔力で実現しているか分からないのだ。しかし、魔晶を利用すれば話は変わる。火を起こすイメージして、魔力を使いさえすれば、どれだけ微弱な魔力であっても火を起こすのに必要な魔力まで増幅して火を起こす、という現象を実現できるのである。
もちろん、魔法を使う事と魔晶を使うことは難易度こそ異なるし、微弱な魔力でもよいのは火を起こすなどのごく小規模な生活に根差したものだからである。大規模な魔法などを使おうと思えば、魔晶を使ったとしてもそれなりの魔力は必要になる。しかし、魔法を発動するためにはどうするのか、そのために使用者側が行う事自体は本質的には同じなのだ。
魔法という自分にとって初めての技術が、大人が誰でもできる事と大本は同じ、と聞き、自分でもできるかも、と思うオーネス。期待に胸を膨らませながら、すぐさま魔晶をかざす。
――――――――――――――――――何も起きない。
――かざし方が間違っているのかな? それとも、魔晶に問題があった?
不安に思って身の回りを見たり、きょろきょろしたりと慌てだすオーネス。そんな彼の視界の端でフェイスがクスクスと笑っているのが見えた。
「お父さん!」
フェイスはオーネスの抗議に対して、悪い悪い、と言いながら説明の補足を始める。
「魔力の使用は一人ひとりか感覚が違うといわれているが――」
前置きをした上でフェイスは説明をし出す。曰く、最初に魔力を使用するに当たり、よくある手法としては自分の手から空気の弾が出てくる事をイメージをする事である。
周りの被害などを考え、魔力の弾を打ち出す事が多い。魔力の弾を打ち出す場合、本当に魔力弾が飛んでいるか確認するために、何本か木の枝を1メトレ程の比較的近い位置に置いておく。もし、枝が倒れれば魔法が使えた、と判断するとの事だ。
それを聞いたオーネスは早速、そのアドバイスをもとに集中し、魔力弾、そして、それを打ち出すことをイメージしてみる。すると。
パァン!
空気が弾けるような大きな音がしたかと思うと、オーネスの身体が後ろに勢いよく倒れる。
棒を見てみると、倒れるどころか弾き飛んでいた。手元を見ると持っていたはずの魔晶がなくなっている。
あの木の枝を弾き飛ばしたのは自分がやったんだ、と思うと、急に魔法を使えた実感が出てきて、急に胸がドキドキしてくる。
「どうだ、初めて魔法を使った感想は?」
「なんか……すごいね」
つい、口から出てしまったバカみたいな感想。しかし、オーネスにはそれしか考えるかなかった。本当に口から滑り出たというような感想に大笑いするフェイス。
「はっはっは! すごい、か。そうだな、すごいな。ただ、これで魔力を使うって事がどういう事かイメージはできたか?」
「うん」
「よし、なら、本題だ。身体強化魔法についての話だな」
フェイス曰く、身体強化魔法は身体能力を強化する魔法ではあるが、実際に身体の機能を強化するという訳ではないらしい。より正確な表現をするのであれば魔法を使って身体を素早く動かす、あるいは身体の動きに合わせて結果を増幅させるという事だ。
例えば、動きを高速化させる身体強化魔法:加速は魔力の服を自身にまとわせ、自身の体そのものではなく、その服を素早く動かすイメージで発動する魔法である。また、威力を増加させる身体強化魔法:威力増強を使ってで殴りかかるのであれば、拳が当たる瞬間に魔力が爆発するような魔法を発動させる、といった具合である。
要は体の動きに合わせて発動する魔法の事を身体強化魔法、と呼んでいるらしい。
オーネスは言われたようにイメージしてやってみるが、先程のようにあっさり成功、という訳にはいかなかった。イメージに苦慮しながら魔力を使用し続けるオーネス。なかなか発動までこぎつけることができないが、諦めきることができず、試し続けたが、ついぞ、身体強化魔法を発動させる事はできなかった。
その上、特に動いていないにも関わらず、立っていられない程に消耗してしまい膝をついてしまう始末だ。
「流石にいきなり身体強化魔法まではうまくはいかないか。まぁ、何事もいきなり上手くいく訳もない。繰り返しやっていくぞ。今、辛いか?」
「……大丈夫、に、見える?」
全く整う気配のない息でなんとか、という具合に返答する。
「いや、スマン。ホントに辛そうだな。魔力切れって傍から見てるとそんな感じなんだな。まぁ、いいか。それが魔力切れだ」
その名の通り、自分の中の魔力を使い切った時に発生する症状であり、息が上がり激しい倦怠感に襲われる。体力と同じように魔力の回復によって次第に治まってくるくるものではある。
しかし、体力とは異なり、魔力の消費は気付きにくい。息が上がってくる、動悸が激しくなるなどの、分かりやすい体の変調という形で目に見えにくいからだ。一応、習熟してこれば予兆はあるらしい。しかし、現時点のオーネスではその予兆に気づけず、魔力切れに陥ってしまうというだろう、との事だ。
「戦っている最中に起きると致命的な隙を晒すことになるから、自分がどのくらい魔法を使えるかきちんと把握しておけ」
フェイスの忠告が耳に痛い。
「話は変わるが、ちなみにお前はどの程度、冒険者について知ってる?」
「……」
フェイスの質問によって三人の間に沈黙が落ちる。黙り込んでいるオーネスに、冒険者になりたいならどうやってなるのか、とか調べておけよ、といいながら頭を抱える。
「とりあえず、冒険者がそもそも何か、どうやってなるのか、っていうことで説明するぞ」
冒険者――
様々な依頼を受けて、それを達成することで生活していく職業である。依頼に関しては個人から国まで様々であり内容もドブ掃除などのお使いのような内容から魔物の討伐や敵国の情報収集まで幅広い依頼が飛び込んでくる。
これらの依頼は、基本的には冒険者ギルドという組織が管理しており、冒険者になるためには、この組織から冒険者の認定を受ける必要がある。
冒険者ギルドとは依頼の斡旋、管理や冒険者の登録、昇降格の管理などを行っている組織で、冒険者の認定を受けるためには、この組織が実施している冒険者試験に合格する必要がある。
この冒険者試験であるが、合格するは基本的に荒事に対する適性が求められる。
適正として特に重視されるのは大きく三つ、近接戦闘における力を測る武術技能、魔法による力を測る魔法技能、そして魔力量である。
「とりあえず、こんなところだ。本当はもう少し細かい仕組みだとか、技能の格付けだとかがあるが、細かい事は実際に冒険者になってから、冒険者ギルドで職員さん達に聞け。」
ただ、冒険者になる為の項目でフェイスが詳しく教えられるのは試験項目のうち、武術技能のみである。
幸いにしてオーネスは今の時点で大人に混じって調練に参加してもついてこれるだけの力があるため、武術技能に関してはある程度の素質があるということだ。
そのため、フェイスとの修行では、この部分を大きく伸ばすことで試験の合格を目指す方針らしい。
ちなみに魔法に秀でた冒険者になりたい、という話であれば、村にはそんな人材はおらず、フェイスも基礎的な知識だけをしか教えられない。そのため、冒険者になった後で自己鍛錬で、なんとかして欲しい、と補足されてしまった。
一通り話終わった後に空を気にすれば、すでに日は暮れかかっていた。
「じゃあ、今日はこのくらいにするか」
フェイスの言葉を受け、三人は我が家へと帰るのであった。
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