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008-2_告白

 一連の騒動が終わった。今日は色々あったな、と思いながら今日の事を思い返すオーネス。


 賊に勝ったもののフリートと協力した結果だ。今更、悔しいとか、そういう話ではない。自分が冒険者になるためには力不足だ、という話である。このまま村の訓練に参加し続けていれば冒険者になれるのだろうか。考える。


 答えは否。訓練だけで冒険者になれるのであれば、村の全員が冒険者に相当する力を持っているはずだ。しかし、そうではないだろう。では、訓練に加えてフリートとの戦闘訓練を積んであればなれるのか。一瞬、可能性を考えるが、こちらも残念ながら否。


 自分なりに意識して取り組んではいるが、訓練中の父の動きを見ていると、自己流であれを超えるのは難しいと思っている。


 ならば、どうするのか。誰かから教わるしかない。


 では、誰に? 現役の冒険者やそれに準ずる力を持っている人に、である。


 しかし、オーネスに冒険者や確実にそれに相当する人物を知らない。


 すると、村で一番強い者から教わるのが候補になる。

 

 そこまで考えるて、思い返してみれば、父フェイスは二年前に冒険者が来た時も一緒に行動していた。訓練だって教えているのは父だ。そもそも、父が一対一であれば負けたのを見た事がないし、今回のように荒事に対して先陣を切るのは父だ。


 つまり、村においては一番強いと言えるであろう。ならば、父に頼もう、と考える。

 

 ただ、今日からすぐに、とはいかないだろう。おそらく以前のように賊を引き渡すための仕事がある。それが終わるのを待つしかない。歯がゆい思いを感じながらも決意を固めていくのであった。


 それなりに時間がかかるか、とも思っていたが、賊の引き渡しは思ったより早く終わった。どうやら村の警備隊が捕縛した賊は冒険者も捕縛の依頼を受けていたらしく、調査のために、と、翌日に冒険者が村にやってきたのだ。


 ただし、村としてはその依頼に貢献したからと言って、報酬を分配してもらう事はできない。


 領主から村などの個人の範囲に収まらないコミュニティが冒険者に対しての依頼を受け、報酬をもらう事は禁止されている。


 そのため、報酬を折半したい、いう冒険者の提案を丁重に断らせてもらった。もったいない話ではあるものの禁止されている以上は仕方がない。


 しかし、ほとんど掠めとるような形で報酬を得る事になる冒険者達は納得できないらしい。ならば、と、今度この村に何かあれば一度だけ無料で請け負う、と自分たちの集団――冒険者の集まりの事をパーティというらしい――の名前を告げて賊どもを連れていくのだった。


 そして、賊を引き渡したその夜、家族全員で食事が終わったタイミングを見計らってオーネスは切り出した。


 「お父さん、お母さん。大事な話があるんだ」


 息子のいきなりの発言に真剣な顔つきになり耳を傾ける二人。


 「お父さん、僕を鍛えてほしいんだ。戦い方を教えて欲しい」


 「そんな事か。別にいいぞ。しかし、なんでまたそんな事を改まって頼んできたんだ? もしかして、今日の俺の雄姿に憧れて……」


 「僕、冒険者になりたいんだ」


 ガタッ


 聞くなり、すぐさま、立ち上がる音がした。全員がその方向を見る。シンシアである。


 「冒険者なんてやめなさい!」


 「え……?」


 普段は優しい母が見た事がない剣幕をしていた。母のいきなりの豹変にレクティはおろおろしている。いつもであればそれに気が付いてすぐに落ち着くのに、今日は娘の様子に気が付かずにまくしたてる。


 「冒険者って危険なのよ。危険な場所に行く事もあるし、人を傷つけてしまう可能性だってある。最悪、死んでしまうかもしれないの。お母さんはあなたにそんな事して欲しくないの。そんな事しないで、もっと普通の……」


 「シンシア!」


 フェイスがシンシアを制する。まだ、何か言いたそうではあったものの、言葉を飲み込んで再び、席に着く。


 「それで、どうしてオーネスはなんで冒険者になりたいんだ?」


 「2年前に冒険者に助けてもらった時に憧れたんだ」


 「憧れた?」


 「うん。お父さんは今も村を守ってくれてるよね? それはすごい事だと思うし、僕も村の皆も感謝してる。だけど、2年前のあの日、僕を助けてくれたのは冒険者だったんだ。」


 「オーネス、それは……」


 「シンシア! オーネス、大丈夫だ。続けて」


 「うん。別にそれを根に持ってるとかそういう事じゃないんだ。ただ、思ったんだ。村の外でもきっとあの時の僕みたいに助けきれない誰かがいると思うんだ。僕はその人たちの助けになりたい。だから、僕は冒険者になりたいんだ」


 「……」


 しばらく流れる沈黙。どれほどの時間が経っただろうか? 1分? 5分? いや、彼らにとっては1時間にも感じたかもしれない。そんな短いような長い時間。この時間が永遠に続くのではないか、と思った頃、不意に、ふぅ、という大きなため息が漏れる。


 「血は争えないって事か? ……分かった」


 「あなた!」


 「シンシア、お前の気持ちは分かる。だけど、俺は息子の気持ちを優先したい」


 「……」


 「オーネス。お母さんには俺から話をしておく。後、冒険者を目指すならいくつか教えておく事があるから、明日、話をしよう」


 そう言って、まだ何か言いたそうにしているシンシアを連れていくフェイス。


 それを見送ると、オーネスは悪い事を言ってしまっただろうか、と少し心配になる。しかし、彼が伝えた事には嘘はない。嘘偽りのない気持である。ならば、先程の言葉を大切にしようと思う。


 そんな事を考えれば少し落ち着いてきた。傍らを見るとどうしたらよいか、分からず妹が今も戸惑っていた。


 「ごめんな、レクティ、びっくりしただろ?」


 「お兄ちゃん、どこかいっちゃうの?」


 「うん……いつか村を出るかもしれないな。でも、すぐにじゃないさ。だから、また遊ぼうな」


 言いながら妹の頭を撫でてやる。オーネスの落ち着いた様子に幾分落ち着いてきたらしい。先程までの慌てた様子はなくなってきたようだ。


――そういえば


 ふと、気になってくる事がある。オーネスは冒険者になりたい、と考えていたがフリートはどうしたいのだろうか。


 「オーネスが村を出るなら、ボクも一緒に行くよ」


 オーネスの質問に何の事はないとばかりに答える。何を当然の事を、と言わんばかりの態度に礼を言う。


 「なんにしても明日か。何言われるんだろう……」


 フェイスの最後の言葉が気にはなったものの、それ以上彼に何ができる訳でもない。オーネスそのまま三人で寝るための準備に入るのであった。



 翌朝。


 フェイスに叩き起こされたオーネスはフリートと共に訓練場に連れ出されていた


 「お前が冒険者になる事は、母さんにある程度、納得してもらった。ただ、父さんとしても、今のまま冒険者になるために送り出すのは反対だ。そこで、条件を出させてもらう」


 「条件?」


 「お前が一人で俺に一撃入れる事だ」


 自分が父に一撃入れる?


 訓練に参加させてもらうようになってから訓練中に父の立ち合いを見る機会があった。しかし、父が負けたのを見た事はおろか、何人でぶつかっっても攻撃を受けるのをほとんど見た事がない。一対一であれば皆無と断言してもいいだろう。


 それほど、村の中ではフェイスと他の面々との実力には差があったのだ。オーネスは一言で終わってしまうような簡単な課題の難易度に少し気が遠くなりそうになる。


 実は父は冒険者になる事を認めていないから、諦めさせるために無理難題を提示したのではないか、という考えがよぎる。


「とはいえ、今のままでは一生かかっても一撃いれる事はできないだろう。なんでかといえば、父さんは皆が知らない技術を使えるからだ。そして、それは冒険者を目指すなら習得しておく、最低でも知っておく技術でもある」


「それは?」


「身体強化魔法だ」


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