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008-1_告白

「あぁ?なんだ、その青トカゲ」


 苛つきながら賊は問う。


「青トカゲじゃない、フリートだ!」


 オーネスのその言葉にさらに苛つく賊。


「どうせ畜生だろうが……まぁいいか」


 呟くなり剣を横に構えながら再び二人に腰を低く構えて飛び込んでくる賊。先程の再現である。


 フリートが少しだけ前に出る。それに対し、オーネスが少し後ろに下がったところで、迫る賊。剣が振られる。


 左薙。先程までのオーネスであれば、次の行動に自信が持てず、慌てていた。しかし、今の彼は一人ではない。


 ガキン


 硬い物同士がぶつかり合ったような音が響く。賊の一閃が振り切られる事はなかった。どころか、ほとんど振り切れず、腰を低くした体勢のままである。


 フリートが頭の外殻を使って正面から受け止めたのだ。攻撃の途中の体勢のままで隙だらけになった賊の左腕を斬りつけるべく走りこむオーネス。


 一方、賊の切り替えも早かった。オーネスが近づくのを見ると接近に合わせて裏拳を放とうと、剣から左手を離し、勢いよく振ろうとする。


 このままであれば、先程、蹴撃を入れた時のようにオーネスは対応できずに裏拳を叩き込まれて距離を離してしまうであろう。そう、先程と同じ状況であれば。


 今はオーネス一人ではない。オーネスとフリートの二人だ。


 左手を離した事でフリートを押し出す力が弱まる。それを察知したフリートはすぐさま腕を伸ばし、賊の右腕を掴む。間を置かず、思い切り左回りに振り回すと、賊を投げ飛ばした。勢いに任せるまま、民家の壁に一直線に飛んでいく賊。


 壁にたたきつけられるのはまずい、と思ったのであろう。とっさに剣を地面に刺し、勢いを削いで壁への直撃を避ける。


 しかし、壁への直撃を避けるために無茶をした事が仇となる。


 投げ飛ばされた時の勢いを完全に殺した直後に、フリートを睨みつけようとした時には、彼の視界の眼前にはオーネスがすでに迫っている。


 賊の体勢は地面に剣を刺すために腕を限界近くまで捻っており、お世辞にも良いとは言えない状況。体勢を立て直そうにも、すぐさま剣を抜き、接近してくるオーネス剣を振る事は叶わない。蹴りや拳を振るおうにも踏み込みを入れられるような状況とはいいがたい。


 チッ、と舌打ちをした賊。


――しゃあねぇ。斬られるのは癪だが、こうなりゃ仕方ない。どうせ斬ってくるのはナイフだ。致命的な事にはならんだろ。斬られた直後ガキを斬り伏せりゃいい


 対応の方針を瞬時に切り替える。


 スパッ


 そんな思惑を知らないオーネスはナイフを振る。その一振りは見事、賊の右ひじを切り裂いた。


――ガキの癖に皮鎧の継ぎ目を狙って右ひじを正確に斬りつけやがった!?


 少し驚く賊。しかし、斬られる事自体は想定の範囲内。で、あれば、このまま対応できない謂れはない。腕に思い切り力も込め、そこまで深く斬りつけられる事を防いでいたのである。そして、その思惑は的中。うまく斬りつけられははしたが、戦闘続行不能なほどの外傷ではない。


 次の行動の選択肢が賊の頭を巡る。耐えられたとはいえ負傷は負傷。剣を振るのには多少の影響はあるが、両手であれば振れない事はない。とはいえ、剣はすぐに抜けそうにはない。ならば。


 ――殴るか?


 考えるが剣から手を離す事になる。一応、動かす事はできるが斬られている以上、徒手空拳に移ればほとんど片手だ。


 ――いや、両手ならともかく、片手の徒手空拳でガキと青トカゲの両方と対応するのは面倒くせぇ


 しかし、今すぐに剣を抜く事はできない。ならば、と蹴りを選択。


 ――だな。蹴りをかました時の重心移動も利用して一気に剣を引き抜いて……。


 一瞬でここまで考え、行動に移ろうとした賊の視界の下端に蒼い影が写る。


 直後。脳天を揺らすような強烈なアッパーカットが叩き込まれる。

 衝撃に跳ね上げられる身体。一瞬、飛んでしまう思考。しかし、攻撃は止まらない。間も置かずに腹部に再び衝撃が叩き込まれる。口から飛び散るよだれ。力が入らず、剣から手が離れ、仰向けに倒れる。


 すかさず、倒れた賊に走り寄るオーネス。右腕を踏みつけ、目の前にナイフを突きつける。


 一瞬の出来事に一瞬、呆けていたが、すぐにハッとする。

 

 ――ガキが! 勝ったつもりか!?

 

 目障りなオーネスをどかそうと左腕で殴りかかろうとする。が、腰の入っていない拳などオーネスにとって恐れるほどのものでもなし。フリートの殴打に比べればそよ風のようなもの。難なく、止められる拳。


 ――は? 全然、動じねぇ。さっきの青トカゲもすぐに来る。ってぇなると……


 賊から力が抜ける。負けを認めたのであろう。動く気配がなくなった。


 それから間を置かずに防衛部隊がやってきた。捕縛のための作業をを始めだすが、賊は暴れても無駄だと悟っているのであろう、おとなしいものであった。


 ふぅ、っと一息つき、隣を見ると横目で見上げるフリート。どちらともなく、口に笑みが浮かぶ。そして、お互い何も言わないが、どちらともなく腕をゆっくりと上げると、二人で拳を合わせるのだった。



 賊と相対していた時は考えられなかったが、一息つくと、他の賊の様子が気になる。戦場から離れた賊は一人であったが、村の中に他の不審な匂いがないかフリートに尋ねる。


 鼻をひくつかせ周囲を探ると、ない、との事だ。とりあえず、後は外に意識を向ければいいのかと思っていると、防衛部隊の一人に声をかけられる。


 「オーネス。これ、お前がやったのか」


 「いえ、フリートと二人で」


 「いや、それでも武器を持った大人に対して大したもんだ。流石フェイスさんの息子さんだな」


 「あ、ありがとう」


 思いもよらず褒められてしまった。では、と攻撃部隊の様子を見に行こうとする。


 「ただ、子供に賊退治なんてさせられたないから、一緒に広場に行くぞ」


 流石にそう言われてしまうと外の様子を見に行く事もできない。オーネスは先程の事があったので、防衛部隊のメンバーに監視をお願いすると、防衛部隊のメンバーと広場へ向かうのであった。



 それからほどなくして賊を捕縛した攻撃部隊が戻ってくる。見ると攻撃部隊の中に欠けているメンバーはいない。怪我をしている者こそいるものの、今回も大きな被害なく、鎮圧できたようだ。


 しかし、大敗を喫して捕縛されているはずの賊はどこか余裕のある表情をしていた。オーネスはその様子を不思議いながら見ていたが、防衛部隊が捕縛した賊を連れてくると、自分たちの負けを悟ったのだろう。目に見えて、気落ちしだす。


 「他に仲間がいないか、聞こうと思ったが、この様子だと必要なさそうだな」


 賊の様子に誰かがそう呟くのであった。


※本日4/12 1時間後くらいにもう1話投稿予定です


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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面白ければ☆5つ、そうでもなければ☆1つでもよいので正直なところをお聞かせください。

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