ムカデが俺のパンツの中に潜んでいやがった。
これは風呂上りのこと。俺は、パンツを履いた。白いブリーフである。その中に、ムカデがいたなんで知るよしもなかった。いや、誰がパンツの中にムカデが潜んでいるなんて思う? だれしもが気を抜く場面だろう。パンツを履く瞬間(俺は0.5秒でパンツを履く)はだれしもが無防備だ。わかるか? 俺の悲運が。
話は変わるが、俺の昔の知り合いに、風子という友達がいた。いつも、教室から窓の外をのほほんとノーテンキに眺めているような奴だった。アイツは、集団組織に属して目的を持ってことを進めていくことが苦手なようだった。その場その場で、思いつく限りのことを突拍子もなく始め出すから、周囲の人間達は内心穏やかではいられなかった場面は多かったんじゃないだろうか。
ただ、風子は、人を貶めるような言動は少なかったと思う。そこだけは、俺が認めている長所だった。学校生活の生徒対生徒の均衡は、軽はずみな言動でいとも簡単に崩れてしまうことを俺は知っていたから、それは、危うい短所とも言えた。実際に、彼女は学生として生きることで多くの洗礼を受けてきたから……。
やっぱり、人間は不信感を感じる人を、仲間にいれたがらないところはあるから……。
顔はめちゃくちゃかわいいのに、突発的に行動することで信用を失うことになる。俺は、学生の頃から、風子のことを気にかけていた。これを、恋だとか呼ぶにはあまりにも、長過ぎた思う。どうせ全て脳内麻薬だ。俺に色恋沙汰は諦めている。俺ももう三十路だ。魔法使いになっちまうよ。
彼女は、今、一緒に住んでいる旦那さんがいて。俺は、そういうことではなかった。勘違いおにいさんだったんだ。もう、あっという間に勘違いおじさんになっちまうよ。
ああそうだ。ムカデの話しに戻るが、ムカデは超デカかった。パンツを履いた後、しばらく気がつかなくて、衣服の中で仲良く暮らしてたんだが、あぐらをかいていた時、太ももの上をもぞっと蠢く感触があった。最初は、風呂上りの水滴が流れたのかなって思ったんだが、そうではないことに少しして気づく。
もぞもぞもぞもぞって動きだした感触が明らかにアレだったのだ。俺は慌てて、そういえば、さっきパンツ履いた後、なんか異物が中にある感じしたわ〜。うわ〜。うわ〜。どうしよう。あぐらだから、いきなり動いたら刺される!! ってなって、ゆっくりと立ち上がって、太ももらへんのジャージを摘んで、はたはたと振って下に落とそうとした。だが、ムカデは落ちてこないで、今度は、反対側の太ももの方に移って、そこで急に痛みがはしった。瞬時に『ムカデに刺された!!』って思ったぜ。
股間が刺されなくてよかった。
あの時のことを思い出すと、ぞっとする。まず、なんで俺のパンツの中にムカデは入っていたのか、ということがわからなかった。いくら田舎でもデンジャラスすぎやしないか。そんな危険な場所に俺は住んでいたのか。と、こわかった。
結局、ムカデは子供部屋おじさんの俺の絶叫を聞きつけて、駆けつけてきたパッパとマッマが退治をしてくれた。どっちがムカデを取りバサミで捕まえたのかはわからない。マッマが捕まえたのだとしたら、鯉の餌になったのだろうと思う。ムカデに申し訳ない。
俺は新婚の風子が幸せであってくれていたらそれでいい。