【01】
【01】
どこか懐かしい、自然の香りがする。
青年は、木々の隙間から零れる昼間の光日に顔を照らされて目を覚ました。
「……え?」
青年にはここが何処ともわからない。山奥なのかなんなのか、なんにせよ、木々に囲まれ、背の低い草木が生い茂り、やけに空気の澄んだ太陽の光が注ぐ地面で目覚めた。
「なんだ?」
上半身を起こして顔を上げると、そこには見上げても頭が見えないような、巨大な大木が一本そびえていた。その大木を取り囲むように周りに並ぶ木々の太さも高さもなかなかの物なのだが、それでも自分の目前にそびえ立つその大木だけは他の物と比べても圧倒的なスケールだった。
「……すげ」
青年はこんな状況にも関わらず、しばし無心に名もわからない大木を見上げ続けた。
「おかえり」
突如声を掛けられ、そちらの方へ目を向ける。放心していたせいか、今更気付いたが、自分がさっきまで見惚れていた大木のすぐ足元にその声の主はいた。紺色の甚平を着た禿げ上がったおじいさんと、その横に厳格な表情を浮かべた三十代後半から四十代と見える、上下真っ黒の喪服姿の男がこちらを見ている。
「……あ、あの」
「わし、村長」
「え? あ、はぁ、どうも」
状況を読み込めずあたふたしている所に一方的に自己紹介をされ、青年は尚も混乱した。
「ほんでこいつが先生」
そう言うと村長と名乗るおじいさんは、隣で未だに厳格な表情を崩さない男に指を差す。男はその顔のまま軽く会釈した。
「ど、どうも」
「ほんでおまえが……」
村長は今度は青年を指で指して、ハッキリと通る声で言った。
「ユウ」
青年は尚も混乱したままに、差された指を凝視して言葉を漏らす。
「ユウ?」
「そうじゃ」
村長はニコリと笑って頷いた。
「僕は、ユウ……」
青年はごにょごにょと何度かその名を反復した後、その名をすんなりと受け入れた。そう言われたのだからそうなんだろう。と言った具合で。
「僕の名前は、ユウ。あなたが村長で、あなたが先生」
「そうじゃ、ところで一つ聞きたいのじゃが」
村長は今度はさっきまで自分を差していた指をそのまま上空に向ける。
「これより前の事、覚えとる?」
村長は邪気の無い柔和な目でユウに尋ねた。その表情には、幾何かの緊張がある事にユウは気が付いた。
「前?」
ユウが考え込もうとすると、すかさず村長が遮った。
「あぁ、ええよ。前なんて無いわい」
「……はぁ?」
自分で聞いといてなんだ、と思いつつもユウは頷いた。それを見てとると、隣でマネキンの様に動かずにいた喪服の男――先生が口を開いた。
「キミは今日からこの村で過ごす事になった。この村を案内するからついて来なさい」
素っ気ないように言うと、先生は一人でスタスタと踵を返して歩き始めた。どうしたものかとオロオロしていると、村長がチラとユウを見て歩き出した。ユウは立ち上がり、巨大な大木を越えて、渋々先を歩く二人の後に続いた。
ユウが先程までいた所はどうやら山の頂上とまではいかないが、そこに近い辺りだったようで、今はひたすら山道を下っていた。山と言っても大した高さと言う訳では無く、正面から少し見下ろすと小さな村が割りと近くに見渡せた。一本のコンクリートの道路が村を越えて何処までも下へと続いている。そして見上げるまでも無くそのまま正面の視界には、空の青が水平に広がっていた。
「あれが、僕がこれから暮らす村ですか?」
どちらに対して言った訳でも無い言葉に、山道を下りながら村長が振り向いた。
「そうじゃ。この『焔』で、おまえにこれから十四年間の時を過ごしてもらう」
「焔? 十四年間?」
ユウはその年月の長さに驚いた。
「そんなにですか?」
「そうじゃよ、ほんで十四年たったらこの村を卒業じゃ」
村長は前に向き直ったまま淡々と語る。
「卒業……。卒業したらどうなるんですか? それと、どうして僕はここで暮らさないといけないんですか?」
ユウが何気なく尋ねると、村長は苦い顔をして再び振り返った。
「疑問に思うのか?」
「……いや、別にそれ程って訳じゃ無いんですけど」
村長はその言葉を受けて顎に手を当てて思案顔をする。
「……いや、まぁ大丈夫じゃろ」
何やら一人でブツブツと喋り出してしまい、こちらの声はもう聞こえていない様だった。そんな村長の様子を、先生は訝しげな表情で見つめていた。
「ユウくん」
村長と目配せをしてから、先生はユウに話し掛けた。
「キミはこれからの十四年間をこの村で過ごす。見ず知らずの私たちと十四年間を共に過ごし、そして十四年たったらこの村を卒業して別の場所へ行く。卒業したら私たち以外の人と共に暮らす。何か疑問はあるかな?」
まじまじと自分の顔を眺めながら問い掛ける先生を不思議に思いながら、正直に答えた。
「……いえ。あなたたちがそう言うならそうなんだと思いますけど」
「そうか」
先生はその言葉を受けて取ると村長に向かって頷いた。それを見て、少し煮え切らないといった様子ではあったが、村長も首を縦に振った。
しばらくそのまま道なりに下って行くと、足場が平地になって来た。少し離れた所に民家が見える事からも、村長達が言う、焔という名の村に辿り着いたという事なのだろう。
そういえば、さっき上から見えたこの村に通った一本の道路は、何処まで続くのだろう? この村から更に下へ下へと続いていたようだけど……。
ユウは一通り辺りを見回してから、チラと村長を見た。
「……かはぁ……か、ぼへぇあ……はぁはぁ、ちかれた」
村長は目をひん剥きながら膝に手を突き、息も絶え絶えといった様子で膝を突いていた。
「そ、村長。大丈夫ですか?」
しばらく様子を窺うが、村長の息は未だ落ち着きそうに無かった。この様子を見ていると、本当に死んでしまいそうにすら思えてしまう。
「またですか? 調子に乗ってざくざく進むからこんな風になるんです。見栄など張らず、いつものペースで歩いたら良かったものを」
「……はぁ、はぁ。前回、その言葉に甘えたわしを、おぬしは置き去りにしてスイスイと下山したんじゃろうが……はぁ、はぁ」
「余りにも遅過ぎて日が暮れると思いまして」
「な、なんじゃとっ! 覚えとれ……またおぬしのその真っ黒いスーツをハイターに浸してやるわ」
「いえ、真っ白いスーツはあの一着で充分です」
「ちっ。いつまでもいけ好かんのう、おぬしは……おい、ユウ」
先生と村長のやり取りを横から垣間見つつ、未だ村長と先生の関係性が掴めないでいたユウに突然声が掛けられた。
「おぶれ」
そう言うが早いか、村長はゾンビの様に両手を前に突き出してユウに近付いて来た。
「えっ、僕がおぶるんですかっ?」
「そうじゃ、わしはもう歩けん。あの悪趣味スーツ男は加齢臭がするから嫌じゃし。若いお前がおぶれ」
「は、はぁ」
ユウは仕方なくその村長ゾンビを受け入れ、背中に乗せた。
「あ〜。極楽じゃ」ずず〜
背中に乗せた途端、早速聞こえた何かを啜るこの音+振り返ると、村長は湯気の立つ湯呑みをユウの背中ですすっていた。
「えっ、お茶なんて何処に……」
狼狽するユウをよそに、村長は「ほれ、先生について行け、奴は冷血漢じゃからズンズンと置いて行くぞ?」
言ってユウの背中を叩いた。見ると確かに先生はこちらを気にするそぶりも無く、ズンズンと先に進んで行ってしまっている。ユウは、村長の持つお茶がこぼれるのに気を付けつつ、早歩きで先生を追い掛けた。
「先生、待ってくださいよ」
「やっと来たか、まずはあそこが集会所だ。同時に村長と私の住まいでもある」
先生が指を差す方を見ると、何軒か木造の民家が建ち並ぶ中で、一際年季の入った立派な日本屋敷があった。その開かれた正面の門から中を伺うと、母屋のすぐ隣に、屋根がついただけで吹き抜けている舞台があった。
「どうじゃ、豪邸じゃろうに?」
村長はユウの耳元で言いながら、ずずーとお茶をすすった。
「今晩はここで村の者を集めてキミの歓迎会をやるから覚えておきなさい」
「歓迎会?」
ユウが先生に疑問文を放ると、耳元から返答があった。
「新しいもんが来る度に村の者を集めてやっとる。まぁ、ただのパンティーじゃ」
「あぁ、そんな卑猥な……何をするって言うんですか?」
「村長、パンティーではありません。パーティーです。無理してハイカラな言葉を使わないでください」
「なんだ、パーティーですか」
「まぁ、わしはえんぐりっす専攻ではなく、レ フランセが専攻じゃからな」
「えんぐりっす? れ、ふら……?」
「フランス語ですよ。村長はフランスを好んでいらっしゃる」
「フランスはいいぞー。わしはフランスが大好きじゃ、一度行ってみたいのう。ポトフの上でエッフェル塔を食いたいのう」
「村長。そんな事より早く行きましょう」
先生はまた一人で先に歩いて行ってしまう。
「そんな事とはなんじゃ! まぁ良い、行くぞユウ」
「わ、わかりました」
ユウは村長に尻を叩かれ、緩々と先生の後を歩き始めた。この人たちと出会ってまだ一時間もたっていないというのに、何故こんな扱いを受けているのだろう。
「村長。この村には他にも人がいるんですか?」
「当たり前じゃろう。村じゃからの。おぬしとわしと先生を入れて今は三十二人おる」
「みんな僕と同じで、突然あの大木の前に現れた人たちなんですか?」
「鋭いな……。まぁ、そうじゃな。あの御神木の前でみんな目覚めるんじゃわ」
「それでみんなしばらくしたらこの村を卒業するわけですか」
「うむ。そうじゃ、今年も一人卒業する予定になっとる」
「三十一人になってしまうんですか……。ちなみにその卒業ってのはいつなんですか?」
「この村で七日間だけ生ける蛍が現れ、消えるまでに、じゃよ」
「七日間……蛍」
村長の顔は見えないけれど、なんと無くその言葉に寂寥感が含まれている気がした。
「ここがこの村唯一の小川だ、山頂からずっと続いている。流れも緩やかで水底も浅いから、夏場には子どもたちを遊ばせている。キミがこれから住む家の蛇口から出る水もここから引いている」
先生に言われてから覗き込むと、濁りの無い水が緩やかに流れ、藻が張った石の隙間を小さな魚が泳いでいるのが見えた。
「それと、あそこの少し大きな木造の家は見えるかな?」
「……?」
先生が示す先。小川を越えて少し歩いた所に、他の民家よりも少し大きい屋敷があった。
「あそこが図書館だ。自由に利用してくれ」
「図書館、ですか。こんな小さな村に」
すると、背中から声が割って入って来た。
「と言うかわしの蔵書じゃよ。いかんせんこの村には何も無いからの、気付けば大量の本が手元にあったし、置き場に困ってたから、図書館にした訳じゃよ。わしは乱読じゃからな。基本的には何でもあるぞ、図鑑に辞書に絵本に小説とな」
「はぁ。わかりました。じゃあ利用させてもらいます」
「次はこっちだ」
歩き出す先生に、今度は遅れずについて行った。
しばらく歩くと、軒並み並んだ民家が途切れ、少し開けた所に出た。滑り台とブランコと鉄棒と、少々の広さのグラウンドが見えた。そしてそこでは、子どもたちが鬼ごっこをして遊んでいた。
「ここが公園だ。子どもたちが毎日集まって遊んでいる」
確かに何人かの、小さな子どもたちがグラウンドを走り回っている。するとこちらに気付いたか、一人の少年が近付いて来た。
「おう、元気かいの?」背中の村長が近付いて来た少年に挨拶をした。
その子はやはり背が低く、見た目通りにただの幼い子どもでしかなかった。
「村長。このお兄ちゃん誰?」
少年はまじまじとユウを眺めた、その特徴的な翡翠色の瞳がユウの瞳と重なり合う。
「ユウだよ。よろしく。キミの名前は?」
ユウがそう言って歩み寄ると、少年は「イフ」と名乗ってからにっこりと笑った。色白で目鼻立ちのスッキリしたその少年は、幼いながらもどこかしっかりとした印象を受けた。
「イフはあと一年で卒業じゃ。仲良くしてやってくれよ、ユウ?」
「そうなんですか」
こんな年でもう卒業なのか。という事は卒業するまでの期間は人それぞれという事だろうか? と考えていると。
「ねぇ村長、なんでおんぶされてるの?」
その翡翠色の瞳が純粋さを持って村長に尋ねた。
「ん? ユウからは加齢臭がせんからじゃよ」
ふぉっふぉっふぉ、と村長は語尾に嫌味っぽい高笑いを添える。しかし、普段寡黙な先生も黙ってはいない。
「ユウくん。すまないね、背中に染み付いた老人臭はしばらく取れないだろうよ」
「なにぃっ!? 老人臭てなんじゃ! おぬしこそ……っ!」
そして背中と隣のスーツとで口論が始まった。
「かれいしゅ? ろうじんしゅう?」
イフはなんだかわからないと言った風に一人で首を傾げた。
「いやいやイフはどっちも覚えなくていい言葉だよ」
ユウがそう言うと、イフは「わかった!」と元気良く納得してくれた。
「だいたいお前は年上に対して失礼じゃ!」
「いえいえ、年齢など、ここではさしたる問題では無いでしょう」
「わしとお前は立場的にもわしが上じゃろうが!」
「村長、先生。そろそろ落ち着いてくださいよ。イフも見ていますよ?」
ユウがそう言うと、村長と先生は渋々といったように頷いた。
「村長と先生は喧嘩ばっかだねー」
邪気の無い目で言うイフに、村長はわかってくれ、とばかりに訴えかける。
「いや、わしがいつもいじめられとるんじゃよ。この男は老人をいじめて楽しむんじゃ」
「えー。いじめっ子は駄目だよ?」
「イフくん。ここまでのこの流れこそが私に対する悪質ないじめなんだ。狡猾なジジイだ」
「なんじゃとっ!?」
「えー? どっちがいじめっ子なの? もうよくわかんないよ」
イフは困ったように頬を掻いた。
「村長、こんな話をしていても誰かの頭の様ですし、もうやめましょう。……そんな事より、ユウくん」
「はい?」
「誰が不毛じゃとっ!」
先生は食ってかかる村長を無視して続けた。
「もう案内する所はほとんど無い。見ての通り何も無い村でね。そこで、このままこの公園で子どもたちと遊んでいてくれないか? 直に日も暮れるだろう。そうしたらさっきの集会場に子どもたちを連れて来てくれ」
それだけ言うと、先生は返答を待たずにクルリと向きを変えて歩き出してしまった。
「あ、ちょっ」
「……ふぅ。ま、そういう事じゃ。これから村の者とも仲良うせにゃならんし、それがいいじゃろ。そんじゃ頼んだぞユウ」
「そ、そんな。本当にもう案内する所無いんですか?」
「ない」
あっさりと言うと、村長はヒョイと軽快にユウの背中を飛び降りて、先生と同じ方向へと歩き去ってしまった。そういえば、あの湯呑は何処にしまったんだろう?
「はぁ……勝手な人たちだな。僕は今日この村に来て何も勝手がわからないっていうのに」
ユウが俯いて嘆息していると、服の袖を掴む感触に気付いた。
「お兄ちゃん。まずは僕の友達を紹介するよ」
イフはユウの袖を掴んだまま、イフが抜けて二人で遊んでいた子どもたちの方へと走って行った。服の袖を掴まれているので、否応も無くその後に続いて行く。そしてイフの足は一つの小さな頭の前で立ち止まった。
「イリスくん。ユウお兄ちゃんだよ」
「……ユウお兄ちゃん?」
イリスと呼ばれた少年は、怪訝な表情で眉間に皺を寄せて、露骨な警戒心を見せていた。
「はじめまして。イリスくん」
ユウが自己紹介するが、イリスは腕を組んでそっぽを向いてしまった。
「ふん。……遊んでやってもいいけど、リーダーはぼくだからな」
ユウはその言葉を聞いて自然、微笑んだ。
「わかってるよ。君がリーダーだ」
ユウがそう言うと、イリスはにかっと満面の笑みを見せた。笑った時に前歯が一本欠けていたのが特徴的だった。
「イリスくんはいくつなんだい?」
ユウが微笑みながら尋ねると、イリスは「七才!」と元気良く答えた。
「ユウお兄ちゃん。もう一人いるんだ。僕の妹」
そう言って、イフはユウの袖をグイグイと引っ張る。
「妹? イフには兄弟がいるの?」
「ううん。そうだけどそうじゃないよ。僕がこの村に来てからずっと面倒みてるんだ! だから妹!」
「へー。そうなんだ。お兄さんなんだね。……ちなみに、イフがこの村に来たのっていつ頃なの?」
「えー。ええと、いち、にい、さん……今は五才だから。えーと十三年前!」
「十三年前? イフは今五歳なんだったら計算が合わないだろ」
ユウは無邪気な少年に自然に笑った。
「違ってたかな? うーん。計算は苦手だよ。――それよりさ、こっちだよ。人見知りなんだ。おーい、リィス。どこー?」
イフは大きな声で妹の名を呼んだ。それを聞いてユウは、紹介されるよりも先にイフの妹の名はリィスなんだと理解した。
「あれ? イリスくん。リィスは?」
「えー、さっきまで一緒にあそんでたんだけどな。わかんねぇ」
そうしてイリスとイフは辺りを捜索し始めた。しかし二人が捜索している所とは全く見当違いの所、ユウの真正面にある木から、風にそよぐ粟色の髪が見えた。ユウが凝視すると、その木の後ろから、緩々と朱に染まった顔が覗いた。
――視線が合った。その子の姿を視認した。その瞳と僕の瞳とが出逢った。
――心がトクンと脈打った。
少女は木陰からオロオロとユウを見つめ、ユウは呆然と少女を見つめ返した。その時間が、その瞬間が、スローモーションのようにユウには映った。そして同時に、ユウの脳内には一つの謎が転がった。
――僕はこの子を知っている?
理解よりも先に確信があった。見覚えの無い、フランス人形のような、およそ日本人では無いだろう容姿の少女。今この瞬間に出会った少女に心を掻き乱される。その少女も同じように、くりくりとした目を見開いてユウを唖然と見つめていた。
――この感情はなんだ? この感情を何という? ユウの中で何か特別な感情が産まれたのは一瞬で、それは産まれる事も許されなかった様に、元通りにユウの中に溶けて戻っていってしまった。
「あっ、リィスいたぞ」
イリスは走って木の裏へ回った。そしてリィスの手を引いてユウの前に戻って来た。
「……あ、あの」
たじろいでいるリィスを改めて見ても、とても日本人とは思えない容姿をしていた。リィスの小さな体をすっぽりと覆うピンクのワンピースが、いやに似合っていた。
「……あ、あの。……その」
さっきの感情がまだ残るせいか、ユウは言葉に詰まって上手く言葉を発せない。
何も言えないでいるユウを見兼ねてか「ユウお兄ちゃんだよ。新しくこの村に来たんだって」とイフはリィスに紹介した。
しかしリィスは俯いて、ユウの顔を見ようともせず、モジモジと栗色の髪を指に巻き付けている。
「……リィス、ちゃん。これからよろしくね。一緒に遊んでもいいかな?」
ユウはやっとの思いで言葉を紡ぎ出した。その言葉を聞いて、初めは戸惑いを見せたものの、しばらくするとリィスの栗色の髪がコクリと頷いた。
――何故なんだろう、この子を見ていると、何だか……
そんな疑問を胸に秘めたままに、ユウの右手は無意識に自分の頬を掻いていた。