【15】
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イフとリィスの乗った車が見えなくなると、皆散り散りに自分の家に帰っていった。まだ膝を折って泣き続けているユウは、その真っ暗闇に一人となった。
「立派じゃったぞ。おぬしは少なくとも、わしから見れば、理想の母親じゃったよ」
村長の立てた人差し指に光が灯されて、崩れたままのユウを照らす。
「あんたにも母親がいんのかよ?」
村長は肩を揺らして口角を上げてみせた。
「そりゃあおるぞ、わしのお袋も、おぬしに負けず劣らず立派なもんじゃった」
「そうかい、でも私はもう、母親じゃない」
いじけたか、それとも立ち直った様にも思える言い草に、村長は片方の眉を吊り上げた。
「百合と一位が、いつまでも母親じゃって言うとったろうに」
「そうだな……」
ユウはそう言うと、勢いよく立ち上がった。
「私が落ち込んでてどうすんだってんだよ! 私は今からが大変だってのに!」
壮大に星が煌めく夜空を見上げて奮起するユウを見て、村長は何やら思案顔をした。
「ユウ、おぬし何故嘘をついた?」
ユウは可笑しそうに、少しだけ笑って答えた。
「ああでも言わなきゃ、あいつらは黙って卒業しなかったろ。それに、あいつらが無事転生出来なけりゃ、この話しは本末転倒以外の何物でも無いよ」
「しかしのぅ、おぬしの概念は完全に消失するというのに、それを偽ってイフとリィスをいかせるとは……それこそ、おぬしの言う、昔の一位と同じなのではないか?」
ユウは、夜空を見上げる事を辞めて、村長と正面から向かい合った。
「昔の一位とは違うよ。これは私のせいで起きた事件を収集する、私のケジメなんだから。人は生きなきゃ始まらないんだ。私はあいつらが生きる為に消えるんだ。それに私の起こした事件に、あいつらを巻き込むのは、寝覚めが悪過ぎるよ」
「……」
「それにさ、前世での繋がりを大切にしなきゃ、この村をあんたに創って貰った意味が無いだろう? だから私は無茶言って百合と一位を同じ時に転生してもらったんだ。そして私はこの世界を最後に、百合と一位の記憶と共に消滅出来るってわけ。これもまた前世の繋がりを大切にした結果だろ?」
厳格な表情で口をつぐんでいた村長は、噴き出す様にして一度笑った。
「ほっほっほ! やはりそうじゃよな……それをおぬしの口から聞けたと言うのなら、わしも迷う事無くそう出来るわい」
「……?」
「この村が存在する意味、この村に来る者たちの願いが、今確かにわかった気がするわ。今回の、おぬしたちの奇跡のおかげでな」
そう言ってまた笑った。
「村長、じゃあもう一つ教えてやるよ――
これは奇跡じゃねぇ――運命って言うんだよ」
「……ほほ、そうじゃな、すまんかった。八百年以上も生きとるわしじゃが、随分野暮な言い方をしとった様じゃ……全く、おぬしらから教えられる事がこうも多いとはな」
「はは……私の魂だって、何百年も生きて来たんだよ」
ユウの足元から、先程落ちて消えていったはずの、白く発光する蛍が舞い上がった。驚いてそれを注視していると、その光りは高く高く、何処までも先へ飛んでいった。
「さて、そろそろじゃ、立派なお母さんよ……」
「……私は、幸せ者だな、あいつらとの思い出を胸に、逝けるんだからな…………じゃあな、百合、一位。ありがとな、村長」




