【07】
【07】
早くも日が暮れて、図書館を後にした。双子の兄弟は気付かぬうちに、既にいなくなっていたようだった。
「…………」
リィスは何故だか、あれから喋ろうとしない。リィスが無言でそうするので、ユウとリィスはオケラがジージーと鳴く田舎道を、静かに手を繋いで歩き続けた。時々心地良い風が草木の香りを乗せて吹いて、二人の髪をばさばさと乱す。風に乗って、リィスからシャンプーの香りがした。
「うわっ!」
すると、突然リィスが身を引いて仰け反る。
何かと思うと、リィスの少し前を一匹のミツバチが飛んでいた。
慌てたリィスは、来た道に走って戻ろうと、ユウの手を引いて引き返そうとするが、ユウはそっとその手を引き、リィスの小さな頭を、すっぽりと自らの胸に収めた。
「慌てなくて大丈夫だよ。蜜蜂は動かずに止まっていれば刺したりしないよ」
しばらくそうしていると、蜜蜂は仄暮れの空の遠く彼方へと消えていった。
「リィス、もう大丈夫だよ」
そう言って胸の中に収まった小さな頭を見下げると、その頭はゆっくりと、震えながらユウを見上げた。
ゆっくりとこちらを仰いだその可愛らしい大きな瞳には、瞳いっぱいの涙がこぼれ、瞳は赤くなっていた。
「いっちゃん、いっちゃんだよ…。昔いっちゃんにこうして貰うのが……」
そう言ってまた泣いた。
「……思い出した、思い出したよ。全部思い出したよ。やっと会えた、やっと…………」
この短時間で、夕陽は影を潜めて世界は夜に包まれた。百合を抱き締めた一位は、その懐かしい感覚に目頭が熱くなった。
「いっちゃん……僕は、いっちゃん…………」
まだそれに関してピンとは来ない。だがこの感覚は知っている。百合を抱き締めるこの感覚には憶えがある。
一位は百合をきつくきつく抱き締める。百合も一位の背を小さな腕で力一杯抱き締めた。
――――あっ。
「蛍だ」
ユウの瞳に微かな光が写る。小川の辺りを小さな光が舞い踊り、やがてこちらに向かって飛んで来て、抱き合う二人の周りを飛び回った。発光する蛍火は徐々に数を増し、辺りを満たす。幻想的な光景。
それはまるで、過去を思い出した二人を歓迎しているかのようであった。
けれど、この光は別れの予兆。もう目前に、リィスとの別れが差し迫っている。
自然の光に辺りを照らされ、二人は手を繋いで夜の闇を歩いた。
せめて今だけでも離さないように、手を繋いで。
ユウが頬に手を当てると――それ、いっちゃんの癖だったよねと百合が言った。




