表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/29

【07】

   【07】


 早くも日が暮れて、図書館を後にした。双子の兄弟は気付かぬうちに、既にいなくなっていたようだった。

「…………」

 リィスは何故だか、あれから喋ろうとしない。リィスが無言でそうするので、ユウとリィスはオケラがジージーと鳴く田舎道を、静かに手を繋いで歩き続けた。時々心地良い風が草木の香りを乗せて吹いて、二人の髪をばさばさと乱す。風に乗って、リィスからシャンプーの香りがした。

「うわっ!」

 すると、突然リィスが身を引いて仰け反る。

 何かと思うと、リィスの少し前を一匹のミツバチが飛んでいた。

 慌てたリィスは、来た道に走って戻ろうと、ユウの手を引いて引き返そうとするが、ユウはそっとその手を引き、リィスの小さな頭を、すっぽりと自らの胸に収めた。

「慌てなくて大丈夫だよ。蜜蜂は動かずに止まっていれば刺したりしないよ」

 しばらくそうしていると、蜜蜂は仄暮れの空の遠く彼方へと消えていった。

「リィス、もう大丈夫だよ」

 そう言って胸の中に収まった小さな頭を見下げると、その頭はゆっくりと、震えながらユウを見上げた。

 ゆっくりとこちらを仰いだその可愛らしい大きな瞳には、瞳いっぱいの涙がこぼれ、瞳は赤くなっていた。

「いっちゃん、いっちゃんだよ…。昔いっちゃんにこうして貰うのが……」

 そう言ってまた泣いた。

「……思い出した、思い出したよ。全部思い出したよ。やっと会えた、やっと…………」

 この短時間で、夕陽は影を潜めて世界は夜に包まれた。百合を抱き締めた一位は、その懐かしい感覚に目頭が熱くなった。

「いっちゃん……僕は、いっちゃん…………」

 まだそれに関してピンとは来ない。だがこの感覚は知っている。百合を抱き締めるこの感覚には憶えがある。

 一位は百合をきつくきつく抱き締める。百合も一位の背を小さな腕で力一杯抱き締めた。


 ――――あっ。


「蛍だ」

 ユウの瞳に微かな光が写る。小川の辺りを小さな光が舞い踊り、やがてこちらに向かって飛んで来て、抱き合う二人の周りを飛び回った。発光する蛍火は徐々に数を増し、辺りを満たす。幻想的な光景。

 それはまるで、過去を思い出した二人を歓迎しているかのようであった。

 けれど、この光は別れの予兆。もう目前に、リィスとの別れが差し迫っている。

 自然の光に辺りを照らされ、二人は手を繋いで夜の闇を歩いた。

 せめて今だけでも離さないように、手を繋いで。

 ユウが頬に手を当てると――それ、いっちゃんの癖だったよねと百合が言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ