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黒猫ツバキと魔女コンデッサ  作者: 東郷しのぶ


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36/37

黒猫ツバキ、クーデターに遭遇する・後編

 続きの後編です。

 ある日、ボロノナーレ王国の人々を驚倒(きょうとう)させる大事件が起こった。なんと、ペンギン・クーデター部隊によって、王都の魔女高等学校が占拠されてしまったのである。


 可憐な魔女高校生(まじょっこ)たちの運命は、今や風前の灯火(ともしび)に……。果たしてコンデッサは、ペンギンどもの魔の手に(とら)われた少女たちを救い出すことが出来るのか!?


「魔にょ手? ……ペンギンさんに、〝手〟は無いニャ」



 ここは反乱一味が、その拠点としている生徒会室。


 コンデッサは事態解決のため、敵の親玉である皇帝ペンギンと話し合うことにした。

 部屋に居るペンギンたちに《お喋り魔法・動物バージョン》を掛ける。


「それで、お前たちは何でクーデター騒ぎを起こしたんだ?」


 コンデッサの質問に、皇帝ペンギンが答える。


(ちん)たちは、(なんじ)ら人間からの不当な抑圧に抗議するため、決起したのだ! 一歩も退かぬ覚悟である!』


 皇帝の威厳に満ちた宣言に、周囲のペンギンたちは

『さすが、皇帝陛下』

『我らが統領(とうりょう)!』

『ご立派ご立派』

『絶対無敵!』

『ばんざ~い、ばんざ~い!』

『キングペンギンやロイヤルペンギンには、「名前が(かぶ)っているぞ~」とイヤがらせしてたけどね』

 などと、ザワザワ騒ぎ立てる。


「〝一歩も退かぬ〟って、そもそもペンギンさんはバックできるのかニャ?」

「ヨロヨロ前進したり、転んだり、(すべ)ったりしているイメージしか無いな」

「そんな! 私たち生徒は、貴方がたペンギンを大切に扱っていました! ちゃんと海水を用いた池を設置して、温度管理にも気を配っています。清掃も、一生懸命やっています。何が不満なのですか?」


 問いかける、チリーナ。 


『不満は、食事の内容である』とエラそ~に返事する、皇帝。


『そのと~り!』

『皇帝陛下に、一生ついていきます!』

『我らは断固、食事内容の変更を要求する!』


 皇帝に追随(ついずい)するペンギンども。どいつもこいつも、ワタワタと(フリッパー)を動かしている。

 飛べもしないのに。


「ペンギンの皆さんの(おっしゃ)りようは、無体(むたい)です! 貴方がたには、朝に3匹、暮れに4匹、大きくて新鮮なお魚を上げているではありませんか?」

『味には満足している。問題は量である。朕は当然、皆も、より多くの魚を欲しているのだ!』


 ゴーマンに(のたま)う、皇帝。


「要するに、ペンギンさんたちは、もっとお魚さんを食べたいって言ってるだけにゃのね」

「食い物の恨みは怖ろしいな。まさか、そんなことで」


 コンデッサの(つぶや)きに、皇帝が反論する。


『〝そんなこと〟では無い!!! 〝食〟こそが、国家の基本である。「衣食()りて礼節を知る」のだ』

「〝国家〟を語るにゃんて、コーテーヘーカは凄いにゃん」


 ツバキは感心するが、コンデッサは胡乱(うろん)な目つきになった。


「『()食足りて』……か。全裸のペンギンが述べても、説得力は皆無だと思うんだが。チリーナ、ペンギンたちへやるエサの量を増やせないのか?」 

「予算の都合上、エサ代をこれ以上アップすることは出来ません。それに栄養の点から考えても、現在のままで充分なはずですわ」

『不服である。もはや、徹底抗戦するしか道は無し!』

「まぁまぁ。落ち着け、皇帝」


 興奮する皇帝ペンギンを、コンデッサが(なだ)めに掛かる。


「私が、良い提案をしてやろう。エサの分量を、朝に魚4匹、暮れに魚3匹にするのはどうかな?」

『なんだと!?』


 皇帝驚愕(きょうがく)

 ざわつく、取り巻きのペンギンたち。


『今まで朝は3匹しか食べられなかったのに、4匹も食べられるようになるなんて、とっても(とく)なんじゃないか?』

『やったぜ。4匹ゲットだぜ!』

『1匹、(もう)けた~』

『皇帝陛下ばんざ~い』

『ぺんぎ~ん。ぺんぎ~ん』


 ペンギン、大歓喜。

 コンデッサはその様子をウォッチングしつつ、あくどい笑みを浮かべる。


「ふふ。これぞ、必殺《朝三暮四(チョーサンボシ)》作戦だ」


朝三暮四(ちょうさんぼし)とは……目先の利益や違いにとらわれて、とどのつまりは同じ結果になる点を理解しないこと。【トチの実を朝に3つ、暮れに4つ与えると述べたら猿たちは怒ったが、朝に4つ、暮れに3つにすると言ったら喜んだ】という中国の故事に由来。


「ご主人様……」「お姉様……」


 ジト目になるツバキとチリーナを、コンデッサは(さと)す。


「〝嘘も方便(ほうべん)〟ってやつだよ。チリーナも、事態が丸く収まるほうが良いだろう?」

「それは、まぁ、そうですけど……でも、なんだかペンギンたちを(だま)しているみたいで……」

「実際、騙してるにゃ」

「それなら、武力鎮圧するか? ぺんぺん草も生えない状態にしてしまっても良いぞ」

「やめてください! 分かりましたわ、お姉様」


 コンデッサの機転(ペテン)により、クーデター騒動は収束に向かうかと思われた。


 と、その時。

 1羽のペンギンが、異議を唱える。賢そうな顔つきのヒゲペンギンだ。


『皇帝陛下。しばし、お待ちを! 良く、お考えになってください。朝に3匹、暮れに4匹()ていた魚が、朝に4匹、暮れに3匹になっても、その合計は変わらないのでは?』


「頭の良いペンギンさんにゃ」

「ち、余計なことを。あのヒゲめ」

「まずいですわ、お姉様!」

「大丈夫だ。心配するな、チリーナ。相手は所詮(しょせん)、エテ公……では無く、ペンギン」


 コンデッサは、魔法を使って黒板を空中に現出させた。手にはチョークを握っている。


「いいか、ペンギンたちよ。よ~く見るのだ」


 黒板に注目するペンギンたち。


「まず今まで、朝に3匹」

【+++】と〝+マーク〟を黒板に3つほど記すコンデッサ。


「暮れに4匹」

【++++】


「つまり、お前たちは1日に、これだけの数の魚を食べていたわけだ」

【+++++++】


「しかし、今後は朝に4匹」

【++++】


「それにプラスして」

【+】


「お姉様。今、さりげな~く〝+マーク〟を1つ余計に……」

「チリーニャさん。静かにするにゃん」


 コンデッサが声を張り上げる。

「暮れに3匹」

【+++】


「こんなにも、たくさんの魚を貰えるのだぞ」

【++++++++】


 今までのエサの量と、今後のエサの量が黒板に〝+マーク〟で表示された。


これまで→【+++++++】

これから→【++++++++】


 以前と以後、貰える魚の数が上下で対比されているので、分かりやすい。


『おお。全然分からないが、これからのほうが〝+〟が1つ多いぞ!』

『うん。ちっとも理解できないけど、これからのほうが〝+〟が1つ多いね!』

『少しも話を消化できないにもかかわらず、これからのほうが〝+〟が1つ多いことだけは認識できた!』


 得意気な表情になる、コンデッサ。


「皇帝陛下は、英邁(エーマイ)にして賢明(ケンメー)。私の申し出が貴方がたにとって如何に有利なモノであるか、瞬時に悟られたはず」

『…………』

「納得していただけましたね!!!」

『…………』

英邁(エーマイ)にして賢明(ケンメー)なる皇帝陛下!!!」

『むむむ……り、了解した』


 魔女のごり押しに、皇帝は屈服した。帝国軍(ペンギンたち)も、皇帝に従う。

 ここに、ボロノナーレ王国を震撼(しんかん)させた《魔女高等学校クーデター部隊占拠事件・通称〝ペンギンの乱〟》は無事終結したのである。


『む~、む~』

 ヒゲペンギンだけは、しきりに頭をコクコクさせながら、黒板をズッと眺めている。〝なにか、変だ。あの魔女の話はインチキくさい〟と感じつつも、論破(ろんぱ)は出来ないようだった。


 どれほど利口であろうと、ペンギンはペンギン……。


「さすがは、お姉様ですわ! そんな腹黒なお姉様が、私は大好きですわ」

「さすがは、ご主人様にゃん! そんにゃ悪知恵に()けたご主人様を、アタシは尊敬するニャ!」

「お前たち。それ全然、褒めていないぞ」



 しばらく経って。


「お姉様、助けてくださいませ!」

「チリーニャさん。また来たのにゃ」

「今度は何があったんだ? チリーナ」


「キングペンギンとロイヤルペンギンが、皇帝ペンギンの支配に逆らって謀反を起こしたのですわ!」

「にゃ~」

「ほぉ~」


「もう少し、関心を持ってください!」

「ペンギンさんも、いろいろ忙しいみたいニャね」

「心底、ど~でもいい」


「ペンギンたちは3つの勢力に分かれて、争いはじめたのです」

「ミミッカは、どうしている?」

「生徒会長は……ペンギンたちのせめぎ合いを《ペンギン三国志》と名付けて、面白がっておられます……」

「やっぱり大物だな。ミミッカ王女は」

「皇帝さんもキングさんもロイヤルさんも、王女様には勝てないのにゃ」



 後日、騒ぎを起こした皇帝・キング・ロイヤルの3ペンギンは、お仕置きとしてミミッカにお尻ペンペンされたそうである。

 エンペラーとかキングとかロイヤルとか……ペンギンの種類の名前は、なんであんなにエラそ~なんでしょう?



 ミミッカ王女にお尻ペンペンされたあとの皇帝ペンギンは――

「宜しいですか? これからは私の言うことに、なんでも『ハイ』と頷くのですよ」

『ハイ。了解しました、プリンセス』

「ではキングとロイヤル、どちらのペンギンとも仲直りをしてきてください」

『ハイ。了解しました、プリンセス』


 こうして、皇帝ペンギンは〝肯定ペンギン〟になりました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ペンペン歩いてペンペン動くペンギンさんを想像しては、かわいいなぁ~♡とムフムフしました。 しかし肯定ペンギン!!! ミミッカ王女さまの独裁政権に……! [一言] ラスト1話になってしまいま…
[一言] ペンギンたちがひたすらカワイイ(*´Д`) サブタイトルとラスト手前一話ということもあり、もしかしたらシリアスかも!?と思ったら全然そんなことはなかった笑 旨い感じに丸めこまれたペンギンた…
[良い点] 最新の前後編も読んでみました!むずかしいところもありましたが、 コンデッサさんの起点により、ペンギン達は大人しくなり、 チリーナちゃんの学校も救われて良かったです! 後、チリーナちゃんもツ…
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