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黒猫ツバキと魔女コンデッサ  作者: 東郷しのぶ


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33/37

黒猫ツバキ、お嬢様が大人への階段を上る瞬間を目撃す・後編

 続きの後編です。

 コンデッサの家に突如として現れた、伯爵家のメイド長アルマ。

 彼女はコンデッサより《冷却魔法》の攻撃を受け、頭を氷づけにされてしまう。


 非情なるかな、魔女。冷酷なるかな、王国きっての魔法使い。


 しかし、そこは、さすがのメイド長。クールビューティーの中の、クールビューティー。

 根性と熱意と〝お嬢様への(過度な)愛情〟のパワーを用い、アルマは頭部の氷をアッと言う間に溶かしてしまった。


 そして一同、ちょっと一休み。



 アルマはタオルで顔と髪を綺麗に(ぬぐ)い終わると、美しい所作(しょさ)で一礼する。


「コンデッサ様、ありがとうございます。おかげさまで、アイスコーヒー並に頭が冷えました」

「クールビューティーさん、復活にゃ」

「頭が沸騰(ふっとう)しているようにしか見えなかったが、冷えて良かった」


 クールビューティーとは、いったい……?

 深まる謎は、放置して。


 話は再開。

 メイド長が、魔女を責め立てる。


「けれど、コンデッサ様。アナタ様がお嬢様にイケナイことをなさったのは、間違いのない事実です。なにせ、お嬢様ご自身が仰ったのですから!」

「にょ?」

「……チリーナのヤツ、何て言ったんだ?」


「先日、コンデッサ様のお宅より帰っていらしたお嬢様は、ポ~と上気(じょうき)したお顔をしておられたのです。不審(ふしん)に思った私は、お嬢様へ尋ねました。『お嬢様。コンデッサ様のところで、何かあったのですか?』と。すると、お嬢様は……こう述べられたのです」


 つらい記憶を掘り起こしているのか、アルマが悲しみの涙を流す。


「『(わたくし)、お姉様の手によって、〝大人への階段〟を(のぼ)ったのよ』と」

「な!?」

「にゃ?」


 コンデッサとツバキ、ビックリ仰天。


「お嬢様は、こうも仰いました。『私が「寂しい……」と(つぶや)くと、お姉様が「その寂しさを、私が(まぎ)らわしてやろうと」と口にされて……。お姉様の巧みな手つきに、私は夢中になり……そして、お姉様より注がれる愛情は、私の身も心も満たしてくれたのです。はしたなくも、私は興奮を抑えることが出来ませんでした。額には汗がにじみ、身体中の神経は過敏となり……ああ! いま思い出しても、ドキドキします。あの胸の高鳴りを、私は生涯、忘れることはないでしょう』と。……そんな、そんな、そんな。なんてこと、なんてこと、なんてこと。お嬢様ああああぁぁぁぁ」


 (なげ)きのメイド長。どこぞのヒロインみたい。


「さすがに、道具は使用なさらなかったようですが……」

「ど、道具?」

「にゅ? ど~ぐ?」


 アルマの口より出てくるワードが、危険すぎる。


「〝お嬢様の初めて〟に、もし道具なんて用いていたら……コンデッサ様。私は伯爵家の総力を挙げて、アナタ様を(つぶ)しに掛かっておりました」


 コンデッサは、ボロノナーレ王国指折(ゆびお)りの優秀な魔女である。そして、チリーナの実家は高位の貴族。

 もし魔女(&黒猫)と伯爵家の全面対決ともなれば、王国に血の雨が降るのは確実だ。


 コンデッサの顔面が蒼白(そうはく)になる。


「ア……アルマ殿。チリーナがその話をしたのは、いつの事だ?」

「3日前です」



 3日前。コンデッサの家にて。

 チリーナが、ぼやく。


「コンデッサお姉様。(わたくし)口寂しい(・・・・)です。お腹が()いているような、空いていないような、中途半端な気分ですわ」

「チリーニャさん。煎餅(せんべー)でも、食べるにゃ?」

「せんべー……。い、いえ、何か食べたいという程でも無いのです」

「それなら、チリーナ。コーヒーでも飲むか? 口寂(くちさび)しさが、(まぎ)れるぞ」

「お姉様のお手製ですか? 飲みます、飲みます!」


 喜ぶ、伯爵令嬢。

 魔女が〝良いアイデアを思い付いた!〟と言わんばかりに、1つの提案をする。


折角(せっかく)だから、道具は使わずに、魔法のみでコーヒーを()れてやろう」


 手をクルクルさせつつ、コーヒー豆を《粉砕魔法》によって細挽(ほそび)きにするコンデッサ。更には《抽出(ちゅうしゅつ)魔法》と《加熱魔法》を操り、極上のホットコーヒーをカップへ淹れてみせる。

 コーヒーミルもペーパーフィルターも使用しない。正真正銘の〝手作り〟である。


「お姉様……相変わらず、見事な魔法の手つきですわ。ウットリしてしまいます。しかも一切(いっさい)、器具を用いないなんて……」

「さぁ、コーヒーが出来たぞ」


 コンデッサが差しだしたコーヒーに、チリーナはミルクと砂糖をドボドボ入れた。

 すかさずツッコむ、ツバキ。


「チリーニャさん、子供(じた)にゃん」

「お黙りなさい! ホットコーヒーを飲めない猫舌のアンタに、言われたくはありませんわ!」


 猫へ反発の言葉を返す、伯爵令嬢。

 魔女が質問する。


「チリーナは、ブラックコーヒーを飲めないのか?」

「ブラックコーヒーは苦くて……」

「私は、ライトな味のコーヒーが好みなんだ。豆も新鮮なのを選んでいるし、おそらくチリーナが想像するより、苦くは無いと思うぞ。試しに、ミルク無しで飲んでみろ」

「お姉様が、そう仰るなら……」


 恐る恐るブラックコーヒーを口に含む、チリーナ。


「あら! まろやかで、美味しいですわ」

「そうだろう、そうだろう」


 コンデッサが満足げな表情になる。

 そんな魔女(20代前半)へ向けられる令嬢(10代後半)の眼差しが、妙に熱っぽい。


「なんだか、ドキドキしてきました」

「コーヒーに含まれるカフェインには、興奮を促す効用があるからな」

「なんだか、額に汗が……」

「コーヒーに含まれるカフェインには、発汗(はっかん)を促す効用があるからな」

「なんだか、頭がスッキリして、キビキビ動けそうです」

「コーヒーに含まれるカフェインには、覚醒(かくせい)を促す効用があるからな」


 チリーナが、カップをテーブルの上へ置く。

 そして勝ち誇った顔になり、宣言する。


「ブラックコーヒーが、飲めました! すなわち、私は本日を以て子供を卒業、大人への仲間入りを果たした訳ですね」

「え? チリーナ。それは、ちょっと違うんじゃ……」

「お姉様が注いでくださったコーヒーによって〝大人への階段〟を(のぼ)れるなんて、私、感激です!」

「ああ……うん」


〝面倒くさいので、やりすごそう〟といった視線を使い魔へ向ける、コンデッサ。

〝同意にゃん〟と無言で頷く、ツバキ。


「コーヒーへと込められたお姉様の愛情を、私、しっかりと受け止めましたわ。身も心も、充実した気分です!」

「それは、良かった」

「チリーニャさん、テンション高すぎにゃん」



「……って事が、あったんだ。分かってくれたか? アルマ殿」

「分かりました。早い話が、〝お嬢様の初めて〟をコンデッサ様に奪われてしまったのですね。無念」

「いや、そうでは無く……」

「コンデッサ様は、やりすごす……いえ、やりすぎた(・・・・・)のですね。不埒千万(ふらちせんばん)! 桃色吐息(といき)! 宿願成就(じょうじゅ)! スピード違反のセクシーダイナマイツ!」

「メイド長さん。全然、分かっていないにゃん」



 その日の晩。伯爵家の屋敷。


「お寿司~お寿司~♪ 今晩は、お寿司~♪」

「チリーナお嬢様は、お寿司が大好きですね」

「あら、アルマ。その通りよ。お寿司は、とっても美味しいもん♪」


 食卓には、特上のお寿司。


「では、どうぞ。お嬢様」

「いただきま~す。………………ピィアアアア!!! (から)いですわ! ビリっとしますわ! 鼻にツ~ンときますわ!」

「お嬢様には今まで、ワサビ抜きのお寿司をお出ししていましたが、本日からはワサビ入りとさせていただきます」

「ど~してですの、アルマ!?」


 涙目のチリーナ。


「コンデッサ様に、負けてはいられません! メイド長の誇りにかけて、私もお嬢様の〝初めて〟を貰うのです! お嬢様に〝大人への階段〟を上っていただくのです! さぁ、お嬢様! ワサビ入りのお寿司を食べられるようになれば、お嬢様も立派な大人の仲間入りですよ!」

「ふぇ~ん。舌が(しび)れますわ! 涙が出ますわ」

「お嬢様を、痺れさせて泣かせてしまうとは……私って、罪なメイド」



 後日。


「コンデッサお姉様。私、当分は大人にならないと決意いたしました」

「それで良いんじゃないか? チリーナ。大人になるときは、イヤでもなってしまうものなんだし」

「ご主人様は、今日も朝寝坊したのにゃ。早く、大人になって欲しいにゃん」


 まだまだ子供の、2人と1匹であった。

 メイド長のアルマさんはとても有能なんですけど、あり余る才覚を余計な方面で発揮するタイプです。

 そして意外に傾斜がキツい、「大人への階段」……。


ツバキ「♪オトニャの階段の~ぼる~、タマゴの黄身は~」

コンデッサは「キミは?」

ツバキ「……目玉焼きに、なるのニャ」

コンデッサ「大人になるって、哀しいな」


 スミマセン。とある歌詞からの連想です。

 ちなみに、このあと

「朝食は誰かがきっと~、運んできてくれると信じてるね~

 怠惰だったと~、い~つの日か~、思う時がくるのさ~♪」

 と続きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] コーヒーってなぜか飲めるようになったら大人になった気がしますよね笑 子供の頃は大っ嫌いだったんだけどなぁ(;´∀`) 今回も勘違いネタ面白かったです。 チリーナは色々と無理があることをそれ…
[良い点] アルマ編前後編読みました! 被害妄想が激しいアルマさん、ブラックコーヒーは克服したもののわさびはダメなチリーナちゃん、今回もギャグ漫画感に満ち溢れてましたね! ともかく公爵家との全面対決は…
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