表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/37

黒猫ツバキの「酷すぎるニャ~!!!」

 お題は「磁石」「粗大ごみ」「台風」です。

 ボロノナーレ王国に台風の季節がやって来た。

 魔女コンデッサと彼女の使い魔である黒猫ツバキが住む村は、ちょうど台風の通り道にあたる。そのため、コンデッサとツバキは台風襲来への備えに余念(よねん)が無い。


「えっほニャ、えっほニャ」

 ツバキが、普段は外に置いてある大型の魔法道具や(はち)植えを家の中に運び込む。


「ご主人様~! めぼしいモノは、おおかた家の中に入れといたニャン。これで台風が来ても、飛ばされていったりはしないのニャ」

「ああ、ご苦労だったな、ツバキ。おや? 私にとって1番大切なモノが、未だ家の外にあるぞ」

「え! 何かニャン?」


 ツバキはコンデッサの〝1番大切なモノ〟を探して、庭をウロウロする。

 家の外に出てきたコンデッサは、ツバキの首根っこを(つか)まえてヒョイと持ち上げた。


「ニャ!?」

「私にとって〝1番大切なモノ〟。それはお前だよ、ツバキ」

「ご主人様!!!」


 ツバキは感動した。

 コンデッサは凄腕(すごうで)の魔女として知られているが、20代の若さなのだ。従って、これまで彼女が使い魔にした黒猫はツバキだけなのである。そのこともあって、コンデッサはツバキを可愛がっており、ツバキもコンデッサに(なつ)いていた。


 コンデッサとツバキは、仲良し主従なのだ。


「ご主人様、嬉しいニャ~。アタシもご主人様のこと、大好きなのニャ~」

「そうかそうか。だがツバキ、本当に気を付けてくれよ。去年台風が来た折には、何故かお前は外へ飛び出していって、大風に吹き上げられ、隣国のムニャランポまで運ばれていってしまっただろ? あの時は、とても心配したんだぞ」

「申し訳ないニャン」

「しかし、どうして台風が来てる真っ最中に外へ出たりしたんだ?」

「ニャンでだろ? アタシ、大雨とか大風の日には妙にワクワクしちゃうのニャン。〝ウニャ~〟ってなって、風や雨を浴びながら『アタシは、天地を支配しているニャン! 最強にゃ~!!!』とか叫びたくニャっちゃうにょ」

「…………」


 ツバキの感覚は、丸っきり人間の男の子と同じだった。ツバキは猫なのに。メスなのに。

 風や雨をモノともしないそのセンスは、明らかにオカしい。


「台風が来たら、ツバキをどうしよう? 念のために柱に縛り付けておくか? それとも、いっそ床下(ゆかした)収納に閉じ込めて……」

「ご主人様が、何か不穏なことを考えてる気配がするニャ」



 台風への対策で、ツバキが困ってしまったのは、庭の片隅に放置してある沢山の粗大(そだい)ごみだった。ごみの引き取り日はまだまだ先であり、台風が来るのは数日後なのだ。

 粗大ごみの数々が強風で吹き飛ばされたりしたら、ご近所迷惑になってしまう。


「ご主人様、どうするニャ?」

「ふっふっふ。ツバキ、私を誰だと思っている? 王国最高の魔女、コンデッサだぞ。こんなこともあろうかと、最適な魔法を発明しておいたのだ」

「自分で『最高』とか言っちゃうのは、どうかと思うニャ。いずれ、自他(じた)の評価ギャップの大きさに苦しむことになるニャ。ご主人様、可哀そう」

「何か言ったか、ツバキ?」

「な、なんでも無いニャン。それで〝最適な魔法〟とは、どんニャもの?」

「じゃ~ん! ズバリ、《磁石(じしゃく)魔法》だ!」


「《磁石魔法》?」

「ああ。この《磁石魔法》を唱えると、粗大ごみ同士が磁石のように引っ付いて、1つの大きな固まりになってしまうんだ。固まってしまった粗大ごみは当然ながら重くなり、風に飛ばされることも無くなる――という訳さ。台風が過ぎ去ったあとに魔法を解除すれば、粗大ごみはバラバラに離れて元の状態に戻るから、アフターフォローもバッチリだ」

「さすが、ご主人様なのニャ! 凄いのニャ!」

「そうだろ、そうだろ。もっと、褒めろ」


「でも、ご主人様。その《磁石魔法》で、粗大ごみ以外のモノまで引っ付いちゃったりしニャいかな?」

「大丈夫だ。この《磁石魔法》は、私が〝粗大ごみ〟と認識したモノにしか効果を発揮(はっき)しないんだ。つまり、私が〝粗大ごみ〟と思いさえしなければ、近くに物品があったとしても、魔法を唱えたところで影響は何も無いよ」

「ニャるほど~。やっぱり、さすが、ご主人様なのニャ。略して〝さすごしゅ〟なのニャ!」

「その略し方は、微妙にイヤだ……」


 そしてコンデッサは、いよいよ《磁石魔法》を唱えてみることにした。コンデッサの隣で、ツバキもワクワクしつつ魔法発動を見守る。


「いくぞ! 粗大ごみよ、磁石のように引っ付け! 《磁石魔法》発動!!!」


 ビタン! ビタン! ビタン! 音を立てて粗大ごみが引っ付き、大きな1つの固まりになっていく。そして――

 ビッターン! と、ツバキが固まりに引っ付いた……。


「にゃにゃにゃ」

「あれ~? 変だな~、オカしいな~」

「『変だな~、オカしいな~』じゃ、無いニャ! ど~してアタシまで、粗大ごみの固まりに引っ付いてるんニャ!」

「理由がサッパリ分からん。私が〝粗大ごみ〟と認識しているモノにしか、《磁石魔法》は効かないはずだが……」


「ま、まさか、ご主人様」

「何だ、ツバキ?」

「ご主人様はアタシのこと、心の底では〝粗大ごみ〟だと思ってるんじゃ……」

「ば、馬鹿な! そんな訳あるか! 私が可愛いツバキのことを〝粗大ごみ〟だなんて、チョットでも考えるはずが……。確かにツバキは、おっちょこちょいで、トラブルメーカーで、被害甚大(じんだい)で、迷惑千万で、コストパフォーマンスが悪すぎで、時々リサイクルセンターに持って行こうかとかチラリと思っちゃったり……」

「わ~ん! (ひど)すぎるニャ~!!! ご主人様は、内心ではアタシのこと〝粗大ごみ〟だと思ってるのニャ~!!!」

「な、泣くな、ツバキ! 決して、決して私はお前を〝粗大ごみ〟だなんて思っちゃいない!」

「本当ニャ? ご主人様。信じて良いのニャ?」

「ああ。きっと、何かの間違いだ。もう一度、試してみよう」


 コンデッサは《磁石魔法》を解いた。

 1つの固まりとなっていた粗大ごみはバラバラになり、ツバキもようやく解放された。


「よし! もう一回、《磁石魔法》を試すぞ」

「ご主人様! アタシ、ご主人様を信じているのニャ! ご主人様は絶対、絶対アタシのこと〝粗大ごみ〟だなんて思ってたりはしないのニャ」

「当たり前だろ! 私を信じろ! 《磁石魔法》発動!!!」


 ビタン! ビタン! ビタン! ビッタ~ン!


「うゎ~ん! また、引っ付いたニャ。ご主人様はヤッパリ、アタシのこと〝粗大ごみ〟って考えてるのニャ~。酷すぎるニャ~!!!」

「違う! あり得ない! ツバキが〝粗大ごみ〟だなんて、あり得ない!」

「ご主人様……」

「ツバキが〝ごみ〟だとしたら、〝粗大ごみ〟じゃ無くて〝(なま)ごみ〟だ!」

「酷すぎるニャ~!!!」

「何を泣く、ツバキ。〝資源(しげん)ごみ〟のほうが良かったか?」

「酷すぎるニャ~!!!」



 コンデッサは《磁石魔法》を再度、調べ直した。すると使い魔となった黒猫の毛皮に (わず)かに含まれる魔法力が《磁石魔法》に感応(かんのう)し、魔法を掛けた粗大ごみに黒猫が引っ付いてしまうことが分かった。


「つまり、私がツバキのことを〝粗大ごみ〟と思っていた訳じゃ無かったんだ」

「でも、アタシの心は深く傷ついたニャ。心からの謝罪と賠償(ばいしょう)を要求するニャン」

「ゴメン、ゴメン。お詫びに、ツバキの好きなレアチーズケーキを買ってきたよ」

「わ~い」


 そして台風の日。


「ニャンで、アタシが、また粗大ごみに引っ付かされてるんニャ!」

「いや~。せっかくの《磁石魔法》をお(くら)入りさせるのは、勿体(もったい)ないしな。それに、こうすれば大風と大雨に興奮したツバキが、はしゃぎまわった挙げ句、飛ばされていってしまう心配も無いと思って」

「酷すぎるニャ~!!!」


 コンデッサとツバキは、台風の日も仲良しだった。

 このシリーズは、基本的に各回が独立した短編になっています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お題を見て、粗大ごみって! どうなるんだろう、とわくわくしていたら……。 コンデッサの魔法の創作センス、すごく素敵です~! そしてツバキのちょっぴり間抜けで可愛いところとか……♡ ものっ…
[一言] 今回の話も面白かったです! 毎回、確実に笑えるので、期待感がすごく高い……(*'ω'*) 台風の日にどこか行っちゃうツバキは放っておけない子ですね。 粗大ごみ、生ごみ、資源ごみ。 酷い言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ