黒猫ツバキと悪魔アスタロト
お題は「青」「夏」「犬」です。
『意味が分かると怖い話』というテーマのホラー短編コンテストに同時応募した作品ですので、ギミックありの文章となっており、ちょっと読みにくいかもしれません。
ここは、ボロノナーレ王国の辺境。見捨てられた大地。
魔女コンデッサ(20代。赤毛の美人さん。超絶有能……なはず)は、魔の宮殿の奥深く、王座の間において、今まさに旧世界(注1)生き残りの悪魔と対面していた。
【注1……まぁ、現代の地球と思ってください。物語の世界との関係は《黒猫ツバキと女神大戦》に記述】
「よくぞ参ったな、赤い髪の魔女よ。我こそが、この宮殿の主じゃ」
エラそ~に宣ったのは、金髪碧眼の幼女であった。
黒猫のツバキ(コンデッサの使い魔)が、己が主に注意する。
「ご主人様。見掛けに騙されちゃダメにゃ。きっと、ファッション幼女にゃん」
「分かっているぞ、ツバキ。このファッション幼女からは、強大な魔力の波動を感じる。油断はしない」
「ファッション幼女とか、言うな! 我は、リアル幼女なのじゃ!」
詐称幼女が、喚く。
「え~と。お前が、悪魔アスタロト(注2)か?」
【注2……ユダヤ教・キリスト教における、有名な魔王。40もの悪魔の軍団を率いている、地獄の大公爵】
「如何にも。《明日のロトちゃん》と呼んでくれ」
自称幼女が、胸を張る。幼女なので、胸は無いが。
「……ロトちゃん。お前、旧世界より伝わる秘宝――〝偉大な魔女が使用した杖〟を所有しているよな? それを、見せて欲しいのだが……」
「見せても良いが、無料という訳にはいかん。我が出す、3つの要求に応えるのじゃ。まず1つ目、ブルドッグを連れて来い」
ブルドッグとは何だろう? と首を捻るコンデッサとツバキ。
「2つ目。今は冬じゃ。季節を、冬から夏へ変えてみよ」
「そんにゃ、無茶ニャ!」
「seasonを、チェンジするのじゃ!」
高らかに叫ぶ、アスタロト。
彼女は厚手のセーターを着て、ジーンズを穿いていた。悪魔のくせに、雰囲気台無しである。ファッション幼女の風上にも置けない。
「3つ目。我を怖がらせてみよ。我は、悪魔の大公爵なのでな。恐怖というものを知らんのじゃ」
「了解した。その3つの注文、叶えてみせよう」
「ご主人様。大丈夫ニャ?」
♢
コンデッサたちは、ボロノナーレ王国の王都にやって来た。
「剣聖ムサジ(注3)様は、修行の旅に出ているそうなのニャン」
「残念だが、仕方ない。ここは、王立図書館に勤務しているお菊人形(注4)に相談してみることにしよう。万巻の書を読破したアイツなら、良い案を思い付くかも」
【注3……剣圧によって、季節をも操ることが出来る剣聖。《黒猫ツバキと「雲を呼び雨を降らせる嵐の男」》に登場】
【注4……本を読むのが大好きな人形。和の国出身。《黒猫ツバキと呪いの人形》に登場】
♢
王立図書館。
コンデッサが、お菊人形へ《お喋り魔法》を掛ける。
『おお、どうしたのじゃ? コンデッサ殿と使い魔殿』
「実は、お菊人形に相談があってな……」
かくかくしかじか。
『難題じゃな。ブルドッグは旧世界に居た犬種じゃが、現在は絶滅してしまっておるぞ(注5)。探しても、見付かる訳がない』
【注5……ブルドッグは骨格的に出産のリスクが高く、自然分娩するのが難しい犬です。大切に飼いましょう】
「幼女に、騙されたのニャ!」
「……何とかしてみよう」
『良いアイデアがあるのか? コンデッサ殿』
「うん。ところで、お菊人形は何を読んでいるのだ?」
『これは「漫画(注6)」と呼ばれる、旧世界の読み物なんじゃ』
【注6……コンデッサとツバキは、既に漫画についての知識を仕入れています。《黒猫ツバキの知らない、お嬢様とメイドのナニ問答》を参照】
魔女と黒猫が、人形の手元にある書物を覗き込む。
「チビッコが主人公してるのにゃ」
『正義の魔法少女が悪人をやっつける、物語なのじゃ。タイトルは《魔法少女・明日のロテ》。大人気で、〝テレビアニメ〟にもなったそうじゃ』
「…………」
「……にゃ~」
どこかで耳にしたような、タイトル名である。
「……それはともかく、お菊人形。悪魔を怖がらせることが出来るような、お話を知らないか? 私は、ホラーにはトンと縁が無くてな」
『任せておけ。取っておきのホラーを教えてやる!』
意気込む、お菊人形。コンデッサは何故か、1歩、後ろへ下がった。
「よし、ツバキ。聞いておいてくれ」
「ご主人様。ひょっとして、ホラーが苦手にゃんじゃ……?」
「そ、そんな訳があるか!」
『やれやれ、いい歳をして……』
「何か言ったか? お皿クラッシャー」
『それは、別の〝お菊(注7)〟じゃ!』
【注7……日本の怪談の定番と言えば、《番町皿屋敷》のお菊さんですよね~。「お皿が1枚~、2枚~、3枚~」…………回転寿司の会計時における緊張感を思い出します】
♢
魔の宮殿。
「ふっふっふ。再び我の前に現れるとは、根性がある魔女と使い魔じゃ」
「待たせたな、悪魔の大公爵」
「独りぼっちで寂しかったみたいニャンね。アスタロトちゃん」
「我の呼び名は、《明日のロト》じゃ! あと、我はボッチじゃないぞ! 時々、分身を作って遊んでおるからな」
心が痛い。夜風が身にしみる。
「筋金入りのボッチ振りに、涙が止まらないにゃ」
「と、とにかく、我が出した3つの課題、解決することが出来たのか?」
「無論だ。まずは、これが、ブルドッグ」
「バウバウ」と吠える、コンデッサが連れてきた犬。
「おい、魔女」
「なんだ?」
「ただの、雑種犬ではないか!? 我は〝ブルドッグを連れて来い〟と申したはずじゃぞ」
「良く、見ろ」
犬の全身の毛は、青く変色していた(注8)。
【注8……コンデッサが、魔法で色を変えました】
「毛が青いの。それが、どうしたんじゃ?」
「青い・犬。blue dog。ブルードッグ。すなわち〝ブルドッグ〟」
「そ、そんなダジャレで、我が誤魔化されるとでも……」
「何か、文句でも?」
「バウバウ」
魔女と犬が揃って目つきを強くすると、アスタロトは怯んでしまった。
幼女敗退。
「わ、分かった。それは、良いじゃろう。ならば、季節の変化はどうじゃ? 冬を夏に変えてみよ!」
「いくぞ、ツバキ」
「にゃ~!」
「わ~! 何をする!?」
ドッタンバッタン。
コンデッサとツバキは、アスタロトのセーターとジーンズを無理矢理に脱がし、代わりに半袖シャツと短パンを着せた。
「何のマネじゃ!」
「お前の着ている冬物を、夏物に変えた。つまり、冬を夏に変えた」
「そのような、言い逃れ! 我はシーズンをチェンジせよ! と……」
「にゃから、ジーンズを短パンにチェンジさせたのニャ(注9)」
【注9……〝シーズン〟と〝ジーンズ〟は、響きが似ていますよね? ね?】
「反論があるのか?」
「無いよね?」
魔女と使い魔が揃って目つきを鋭くすると、アスタロトは臆してしまった。
幼女敗北。
「ふん! で、では、我を怖がらせてみよ! 我は生まれてこのかた、恐怖というものを1度たりとも経験したことはないぞ! 我は、強い子じゃ!」
「ツバキ。話してやれ」
「承知にゃん。これはお菊人形さん直伝の、めちゃくちゃ怖い話なのにゃ」
「ふふふん。わわわ我が怖がるなんてこと、あり得ないのじゃじゃじゃ」
「いや。既にビビりまくってるだろ、お前……」
黒猫が語る、戦慄のホラーストーリー。傾聴せよ!
「旧世界の日本という国に住んでいた、男の話にゃん。職探しをしていた男は、日の出から日の入りまで働けば、10万ポコポ(注10)もらえる仕事を紹介されたのにゃ」
【注10……ボロノナーレ王国のお金の単位。1ポコポ=1円】
「日給が10万ポコポとか、最高じゃの!」
「しかも、食事までついているのニャ。メニューの素材は、新鮮なお肉!」
「ますます、素晴らしい! 天国のような職場じゃ! どこに、ホラー要素があるのじゃ?」
アスタロトが訝しむ。
「斡旋された仕事に、男は電光石火で飛びついたのニャ。1年間は必ず働くという契約だったんにゃけど、迷わず了承したのにゃん」
「じゃろうな。我でも、そうする」
「職場は北極点周辺で、仕事の内容はエスキモーさんの狩りの手伝いだったのニャ」
「それは、どういう意味……?」
何事かにハッと気付いたアスタロトは、ブルブルと震え出す(注11)。
【注11の回答……後述】
「怖いのじゃ~。怖いのじゃ~。ブラック労働は、イヤなのじゃ~」
「同情してくれたシロクマさんが、しょっちゅうシロクマを奢ってくれたそうニャン」
「シロクマ?」
「鹿児島にょ名物、シロクマにゃ」
「酷いのじゃ~! ありがた迷惑なのじゃ~(注12)」
【注12の回答……後述】
涙目になった幼女魔王は、しぶしぶ、秘蔵のお宝を披露した。
「見よ! これこそ、《明日のロテちゃん》愛用の魔法のステッキじゃ!」
「ただの、子供向け玩具にしか見えないが……」
「何を言う!? ココのボタンを押すと、ステッキが伸びるんじゃぞ! スイッチを入れると、先端部分がピカーと光るんじゃ! 凄いじゃろ!」
おもちゃのステッキを振り回しつつ、力説するチビッコ大公爵。
「そうか、そうか」
「凄いニャ、凄いニャ」
「な、なんじゃ? 魔女と使い魔。我の頭を気安く、撫でるでない。我は偉大なる悪魔の大公爵《明日のロトちゃん》なるぞ!」
♢
後日、王立図書館にて。
「そんにゃ訳で、悪魔アスタロト……ロトちゃんは、魔法少女《明日のロテちゃん》に憧れている良い子だったのにゃ」
「まったく幼女とは言え、悪魔が幼児向け漫画……あと、アニメか? にハマっているとはな」
『コンデッサ殿たちは、何か誤解しておらんか? 記録によると、アニメ《明日のロテ》のファン層の殆どは、成人男性だったそうじゃぞ(注13)』
【注13の回答……後述】
「え?」
「……まさしく、ホラーだニャン」
『ホラーじゃな』
ホラーなのである。
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♢回答♢
【注11……北極点と南極点では、半年間は太陽が出っぱなしで、残りの半年間は太陽が沈みっぱなしです。つまり、年収10万円の職場。交渉次第では、太陽が出てない半年は休めるかも? そしてエスキモー(イヌイット)の伝統的な食事は、狩ったアザラシなんかの生のお肉……。新鮮なお肉……】
【注12……鹿児島発祥の「しろくま」は、どでかい氷菓子。甘い練乳とたっぷりのフルーツが魅力。ロトちゃん曰く、「北極でかき氷を食べるとか、身も心も凍るのじゃ~」】
【注13……いわゆる「大きなお友達」ですね。果たして、悪魔アスタロトの正体は……?】
♢
【ツバキによる、注13の余談】……「ロトちゃんにょ正体が〝大きなお友達〟であるかどうかは、実のところ不明にゃん。お菊人形さんの話によると、ロトちゃんの起源については、オリエント神話の女神イシュちゃん……イシュタル様に求める説もあるそうにゃので、女性である可能性も一応、残ってるとのことニャ」
コメディー脳の自分が書けるホラーは、これが限界でした……。
あおば様より、とっても素敵なレビューをいただきました(12月26日)。 ありがとうございます!




