黒猫ツバキと謎のオーパーツ
お題は「糸」「輪ゴム」「パソコン」です。
…………「パソコン」~! 中世風異世界に「パソコン」~!!!
ここはボロノナーレ王国の隅っこの村。
魔女コンデッサ(20代前半)の使い魔である黒猫ツバキは、お家で留守番をしていた。
コンデッサが王都の考古学研究所に呼び出されて、既に3日。
ぎぃ~、と音がして、入り口の扉が開く。
「ご主人様、お帰りなさいにゃ。にゅ? それ、にゃに?」
コンデッサは小脇に奇妙な物を抱えていた。
長方形の板を2枚ほど重ね合わせたような形態。
面積は、食事の皿を載せるトレイくらいある。
「ああ、これか。研究所から借り受けてきたオーパーツだ」
「オーパーツ?」
ボロノナーレ王国では、数億年前の古代の地層より、しばしば用途不明の不思議な器物が発掘されることがある。無機物との会話を可能にする《お喋り魔法》を掛けても、オーパーツはちっとも反応してくれない。
そのため王国中の研究者が、オーパーツの謎を解こうと現在も日夜、奮闘中なのだ。
「研究所の所長がな。博識多才で眉目秀麗、八面玲瓏で純情可憐な私ならオーパーツの神秘に迫れるのではないかと述べて、この品を預けてくれたのだよ」
「多分、所長さんは『コンデッサ様は、おキレイですな~』程度のお世辞を言っただけニャン。にゃのに、ご主人様ときたら……近いうちに誇大広告の宣伝過多で、詐欺罪に引っ掛かりそうな勢いニャ。あと、外部委託してでも何とか成果をあげようだニャんて、おそらく研究所は来年度の予算が削減されそうになってるのニャ」
♢
コンデッサは早速オーパーツに《お喋り魔法》を施してみたものの、案の定ウンともスンとも口にしない。
「なぁ、ツバキ。黙秘権を行使している容疑者の口を割らせるには、どうすれば良いと思う?」
「ご主人様の物言いが、物騒にゃ。そうにゃネ~。〝怒りの雷〟を落としてみるとか、正座させて脚をビリビリに痺れさせるとか、どうかニャ?」
「イヤ、このオーパーツには腕も脚も付いてはいないんだが……しかし、〝雷〟と〝ビリビリ〟か……そうだ!」
コンデッサの脳内で、何事かが閃いたようだ。
彼女はオーパーツに、《お喋り魔法》とパワーを弱めた《雷魔法》を同時に掛けてみることにした。
微弱な電気を流し込まれるオーパーツ。
ウィンウィンと音が鳴り、一辺のみをくっつけた状態で2枚の板が離れていく。
上方の板の内側には黒っぽい画面があり、チカチカと点滅し始めた。
『ヤレヤレ、俺様の眠りを覚ますとは何者だ?』
「わ! オーパーツが喋ったニャン。ご主人様、凄いにゃ!」
「もっと褒めろ。〝《雷魔法》でビリビリしたら、コイツ、起きるんじゃなかろうか?〟と私の鋭い勘が働いたのさ」
『俺様の名は、ノートパソコン。古代人の叡智が詰まった、偉大なるマシーンだ』
「エラそうニャ」
「ノートパソコンよ、お前はいったい何が出来るのだ?」
『何でも。例えば俺様は、森羅万象、如何なる質問にも明快に答えられるんだ』
「それは、素晴らしい。では、まずお前を製作した古代人の実態について教えてもらおうか? 古代人は〝アキハバラ〟という聖地で〝ネコミミメイド〟なる女神を崇めていたとの調査報告が研究所に上がっている。〝ネコミミメイド〟とは何だ? 〝アキハバラ〟とは、どのような所なのだ?」
『良いぜ、回答してやる。けど、まずはインターネットに接続してくれ』
「インターネットだと? それも、オーパーツの一種なのか? そのような物、この世界には無いぞ」
『な、なんだと!?』
驚愕したのか、ノートパソコンはパタパタと開閉を繰り返す。
『ネットが無い環境では、俺様は……』
「ただの役立たずにニャっちゃうにょ?」
『そ、そんなことは無いぞ!』
ノートパソコンが、ウォンウォンとファンの回転速度を上げる。慌てすぎだ。
『ネット無しでも、俺様には色々なデータがインストールされている。ゲームとか! 俺様には、ギャルゲーのソフトウェアが沢山入っているのだ!』
必死に己の存在意義を強調するノートパソコン。
「ギャルゲーとは何だ?」
『仮想世界において、女の子と付き合ってキャッキャウフフするゲームのことだ』
「つまらなそうニャン」
「古代人のゲームか。私は少し興味があるな。ノートパソコンよ、ギャルゲーを1つ、見せてくれないか?」
『任せとけ!』
パソコン画面にハートマークが乱舞する怪異な映像が出現した。
『これが、大人気ギャルゲー【♡ドキドキ♡ あの子のハートをゲットしろ!】だ』
「頭の悪そうなネーミングにゃ」
『で、メインヒロインのショーコちゃん』
「この少女、瞳の縦の長さが顔の半分くらいあるぞ! 古代人は、こんなに目がデカかったのか!」
『これは、デフォルメってヤツだよ。それより、ストーリーに注目しろ。だんだん男とショーコちゃんが親しくなっていくだろう?』
「なるほど。ゲーム操者が主人公の〝僕〟になりきって、実在しない女を相手に泡沫の恋愛を楽しむという趣向を提供しているんだな。目的は現実逃避か」
「夢も希望も無いニャ」
『うるせー! 娯楽ってのは、そう言うもんだろ。おっと、選択肢が出現したぞ。いいか、この選択肢のどれをチョイスするかで、物語の結末が変わってくるんだ。エンディングには、トゥルー・ノーマル・バッドの3つがある。慎重に選べよ』
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ショーコ「や~ん、風が吹いて髪が乱れちゃった」
ここで、ショーコに①髪留めを渡す
②輪ゴムを渡す
③タコ糸を渡す
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「あざとい女の子にゃ」と呟くツバキ。
ノートパソコンから、輪ゴムとタコ糸に関する情報を仕入れるコンデッサ。
「簡単だな。こんなの、ショーコの立場になって考えれば直ぐに分かる。髪留めにするとトゥルーエンド、輪ゴムにするとノーマルエンド、タコ糸にするとバッドエンドだ」
①を選ぶコンデッサ。
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ショーコ「は!? この髪留め、アタシの趣味に合わないんだけど?」
僕とショーコは、破局した。
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②を選ぶコンデッサ。
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ショーコ「輪ゴムとか、アタシを舐めてんの? 髪が傷んじゃうだろ!?」
僕とショーコは、破局した。
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③を選ぶコンデッサ。
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ショーコ「ふざんけんな!」
僕はショーコにタコ殴りにされた。破局した。
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「おい! どうなってんだ!? 全部、バッドエンドになったぞ!」
『あ。このギャルゲー、全ルートがバッドエンドになる鬱ゲーだった』
「時間を無駄にした。やっぱりネットとやらが無いと、お前はヘッポコ品のようだな。能なしパソコン」
『俺様はノート型パソコンだ! ……さっきのゲームは確かに良くなかった。鬱ゲーは初心者には不向きなことを忘れていたよ。なぁ、頼む。騙されたと思って、もう1つだけゲームをやってみてくれ』
「……暇つぶしに、今日1日のみ遊んでやる」
『これが、俺様お勧め! 究極の乙女ゲーム【お嬢様、お手をどうぞ ♧イケイケメンメン♧】だ!』
「どうせ、面白くないニャ」
♢
5日後。
「や……やったぞ、ツバキ! ようやく、執事セバスチャンルートもクリアした! これで逆ハーレムルートが開放される」
「うう……ご主人様。5日間、一睡もせずにゲームをし続けた甲斐があったニャン」
「泣くな、ツバキ。ふふふ! ついに、逆ハーレムルート突入だ。待ってろよ! 王子も騎士も執事も伯爵令息も義兄も義弟も、皆まとめて私のモノだ!」
「バンザーイ! にゃん。バンザーイ! にゃん」
『魔女さんと、使い魔の猫さん。そろそろ寝たほうが……』
逆ハー完遂まで、コンデッサとツバキの不眠不休の死闘は続くのであった。
※注 ゲームのやり過ぎは身体に毒です。気を付けましょう。
世界観の崩壊が始まる……。