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かっこいい人

作者: 弦祥 蓮

 テレビで幼少期を話す有名人。彼は今とても人気で、ファンも沢山いる。私の姉もそうであった。

「また、あの人出てる。」

 私は、羨ましかった。テレビに映る姿は、生き生きとしていてその未来に迷いがなく、なんの為に生きるか、どうやって生きていくかを見据えているように前を向いていた。それに対して、私は自身のなりたいものも定まらず、ただ言われたからやるというぼんやりとした日々を過ごしていた。

「有名なんだから仕方ないよ。」

 私の姉は私を咎めるようにそう吐き捨てた。私はその言葉を流して、思考の海に沈んだ。

 近年は随分と情報のやり取りが活発となった。先進国の日本では技術も発達し、殆どの国民が安定した生活を過ごせるようになった。その反面、最近では精神的な問題も挙げられるようになった。

 何故このようになったのか、私はまだ大人ではなかった柔らかな頭で考えた。それは、国が発達したからではないだろうか。国が発達したから、そうした余計なところにまで頭が回るようになったのでは無いだろうか。

 昔なら、安定した生活をするのに必死で、自分の身を第一に考えていたからお互い、協力こそすれ、態々粗探しをすることもなく、人間関係や他人からの評価に頭を悩ますことはなかったのではないだろうか。

 そう思い立った私は、自分の考えを裏付けするものを探した。この考え方からだと、縄文時代が一番平和だと。

 果たして、幸か不幸か争いは稲作が伝わってきた弥生から起き始めたという話を見つけた。私はこれだと思った。私は姉のもとに入った。いつも考え出したことははじめに姉に見せる様にしていたからだ。姉は私が一通り考えを言い終わるまで静かに聞いていた。

「確かに、人同士の争いだけを争いと見るなら、縄文時代が一番平和だね。でも、平和って何も人為的な物だけじゃないでしょ。」

 ハッと頭が冷えた気がした。私はテレビが精神的な問題ばかり挙げている所為でそちらばかりに目が行っていたがそもそも技術が発達したのは自然からの危険を無くすためなのだ。退化しては本末転倒だ。

「ねえ、平和な世って無いのかな。」

「平和かどうか、幸せかどうかってどう決まるのかな。」

 急に話が変わり、面食らったが、姉の言葉を理解すると何故だろうと私は考え始めた。

 幸せか。様々な本を見てきたが、誰の目から見ても明確な幸せを掴む者も居るし、私から見ればどう見ても不幸な少年が幸せという話もある。また逆に、裕福で幸せそうな家庭に生まれたのに、私には理解できない事で不幸と嘆く話もある。

 幸せは、他人から見た判断は宛にならない。本人の気持ち次第だ。

「その人の、気持ち次第だよ。」

「じゃあ、この世を苦しいと思うのもその人次第だね。」

「それは、別問題じゃないか。」

「どうして?」

「だって、どうやったって逃げられない苦しみがあるから。」

「そうだね。苦しみはあるだろうね。それがなんでこの世を苦しいと思うことに繋がるの?」

 私は言葉に詰まった。何故?苦しみがあるなら苦しい。そんな短略的な考えしか持たなかった私は姉の言葉の意味が分からなかった。

「苦しみより、楽しみが大きければ、その苦しみも愛せることができたなら、きっとこの世は楽しいよ。」

 その時の姉の顔は、何かを惜しむ様な、愛しい何かを思い出すような、安らかなものであった。彼女にとっての“楽しみ”を思い出していたのかもしれない。

「苦しみを、愛せるの?」

「かっこいい人って、どんな人だろう?」

 姉は私の疑問に、また別の疑問で返した。モヤモヤとしながらも与えられた疑問に向き合う。頭の中で、今人の彼が浮かんだ。

 彼は嫌味にならない程度に遠慮して、間違いは素直に謝って、嫌味が過ぎると有名な人にも、きちんと嫌味を受け止めて、自分の糧として行く。彼は、苦しみを成長する為に利用している。

「苦しみを、受け止めている人かな。逃げないで、戦って、自分の欲しいものを手に入れた人。」

「そうだね。苦しみは愛すまでは行かなくとも、受け止めることは出来る。」

 そこで私達は黙ってしまった。沈黙が訪れて、私は自分の部屋に戻ろうと一歩踏み出したとき、背後から姉の声が聞こえた。

「何故、歴史は繰り返すか。私は遥か昔に生まれた新人から一切進化しておらず、今も昔も考えること、感じることが一緒だから苦しみから逃れようとしたときに同じ行動を繰り返すのではないかと思うよ。」

 繰り返す。繰り返して、技術が発達して、それで、そして、どうなるのだろう。この世界は。

「どうして、この世には人間がいるのかな。どうして生まれたのかな。」

「そういうことを考えた人は多くない。それに対する答えも何個もある。だから、その中から納得するものを信じるもよし、新たな答えを作るもよし。私は、そもそも考えるだけ無駄だと思うよ。どうせ誰も知らない。ならきっと理由なんて無い。因みに、金色夜叉ではこう答えた。そう考えると辛くなるから、楽しみを作るのだと。尤も、私は辛さを乗り越えるために楽しみを作るのではなく、その大きな一つの楽しみの為に生きるのだと。…本の内容を踏まえれば、ここは主人公の気持ちを示すための場面であって、この問に対してという所はあまり重要ではないのかもしれないが、それでも私はこれを気に入ったよ。」

 そう言って、微笑んだ姉の顔を見て、理解した。

 姉はもう、生きる理由となる楽しみを見つけているのだろうと。私は急に姉が羨ましくなった。それだけの好きなものを見つけている姉に。

 とてもかっこいい姉に。

お読みいただきありがとうございます。

今作にて出てきた金色夜叉の場面についてですが、主人公の間貫一が宮という女性に対し言った言葉を少し変えています。

また、この言葉の最後に貫一は宮に羨ましいだろう、と呼びかけ、宮ははいと答えます。


貫一の言う楽しみは宮のことです。


2019/08/22

本文の一部を変更いたしました。内容に変更はありません。

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