006 金色のロバート
「金色のロバート、ですか?」
「はい。王都ギルドで竜の巣を壊滅させた実績を認められ、パーティーとしてSランク認定が出されたはずです」
リリアさんの説明によるとそのほかの功績もありそれなりに名の知れた冒険者らしい。
その証拠にギルドにいた冒険者たちからも声が上がる。
「ロバートさんだ!」
「周りの護衛の人たち、強そうだな……」
「いやいやロバートさんの攻撃魔法あってこそだろ?!」
あちらこちらで声が聞こえてくる。芸能人が突然目の前に現れたくらいの感覚なのかもしれない。
「人気があるんですね」
「えぇ、そもそもSランクパーティーというのは華がありますし、滅多に見られるものでもないので」
「でもあまり感じは良く無いですね」
「あはは……まぁそうですね」
あまり興味がないので席に座ろうとしたところで、運悪く声をかけられた。
「おい! いるのならとっとと出迎えないか!」
「着替えずに来たのは失敗でしたか……ちょっといってきます」
タタタッとリリアさんが相手をしに行った。
◇
「おかえり、早かったな」
「この子、欲がないから」
その言葉通り、ほのかの手にあったものはごくごくわずかな最低限の生活物資のみのようだ。
「それにアツシが面白そうなことになる予感がしたから来たの」
「やめてくれ……シャレにならない」
エリスの予感はただの予感では無い。エリスの持つスキルに基づく立派な未来視だ。
「で、必要なものは買えたのか?」
「アツシの家にないものは買ったわ」
「ん?」
「どうしたの?」
「いや、なんでうちに来る前提なんだ?」
ショップの上は居住スペースだが、宿とは違って普通に家だ。
「慣れるまではそば置いておいてもらえるとありがたいですが……あの、どこでも、空いているスペースでも寝られるので……」
「いやいや、さすがにペットみたいな扱いじゃダメだろ……」
エリスに目を向ける。
「良いじゃない。こんな可愛い子と住めるなんて願ったり叶ったりでしょう?」
役に立たなかった。
「いいわけあるか!」
おっさんは女子校生に挨拶をしただけで事案になることすらある世界だ。久しぶりに母国での恐怖を思い出した。
「アツシさんはどこで生活されてるんですか?」
「あの建物の上の階が家になってるけど」
「でしたら、そこに私も置いてもらえないでしょうか?」
「おっさんと2人で住むのは流石に抵抗があるだろ?」
俺の方も抵抗があるとは言わないがどう接していいかわからない。
「え、アツシさん、そんなに歳いってないですよね?」
「まあまだそうだろうけど、ほのかに比べたらなぁ」
「どうしても……ダメですか?」
こんな可愛い子に上目遣いで頼まれて断るのも厳しいな……。
「わかったよ」
幸い部屋も余っている。彼女が現れた時点で、その可能性も0とは言い切れなかったしな。
宿代を工面してやるとなるとうちに余裕はなかったから、そういう意味ではちょうど良かったのかもしれない。
「アツシさんにご迷惑がかからないようにしますので、お願いします!」
「まあいいところが見つかるまではいるといい」
「ありがとうございます……。やっぱり、少し不安なので」
「ああ、そうか……。気がきかなくて悪かった」
随分ぐいぐい来るなと思っていたがそういうことか。
「いや、エリスのとこって手はないのか?」
「私の生活にこの子を合わせさせるのは酷でしょう?」
思い出した。
種族が違えば文化も変わるが、エリスの場合はそういう問題ではなく生活がひどいからな。
「森と住むというのは、そういうことよ」
「いや……あぁ、まあいい」
森と住むということがイコール、毎日ゲテモノキッチンになることだというなら、俺はエルフに転生させられなくて本当に良かったと思う。
◇
「で、すごく見られているけど、放っておいていいの?」
リリアさんの視線を感じてそちらを見ると、助けを求める顔でロバートの隣に座らされていた。
他にもギルドにいた女性職員や冒険者に声をかけており、特に職員は対応に困っている様子だ。
「気づいてはいたんだけどな。俺たちには関係ないから飯にしよう」
リリアさんがすごい形相で睨んでいるがあえて無視する。
それでなくてもエリスの予言があるのだからなるべく関わりたくない。
「むしろ私が言ったことはほとんど当たるのだから、諦めて先に処理しにいけば良いのに」
「どう転んでも面倒なことになるならなるべく受難を先延ばしにしたい」
この5年ですでに先打ちで手を打つことを試みて今に至るんだ。大人しくしていれば嵐はすぎる、こともある。
「ふむ、貴様は見込みがあるな? 喜べ、私のもとに来ることを許そう」
「あら、今回は私も巻き込まれるのね」
だが注文しようとした矢先、ロバートがよりにもよってエリスにちょっかいを出した。
「何をしている? 早く来ないか。私のことはもちろん、知っているだろう?」
「どうしようかしら? ねえ、アツシ」
「おい、ここで巻き込むな」
目立たないようにほのかを陰に入れつつ隠れていたというのに。
「ほう。まさかその程度の男の方が良いとは言うまい」
「んー。あなたがこの男に勝てるとは思えないから」
空気が固まる。
しれっと言い放つがそれでなくても悪目立ちしている一行にこの啖呵を切ったのだ。当然ギルド中の注目を浴びる。
「良いだろう……表に出ろ」
「待て待て、なんで俺が」
「怖いのか? この金色の光が?」
「Sランク認定を受けているんだろう? そりゃそうだろう」
誰だってわざわざ戦いたくはない。
「ふふ……分をわきまえるようだな。ではその女に頭を下げて今の発言を撤回させろ。出来ないなら少し、相手をしてもらわなくてもこの場が収まらんだろう?」
エリスを睨むがなしのつぶてだ。
ほのかは心配そうに見つめてくる。
そうこうしているうちに周りが盛り上がり囃し立て始めた。
「ロバートさんの魔法が見られるのか!?」
「ラッキーだな、魔獣屋には悪いけど」
「実は魔獣屋は戦えるって聞いたこともあるぞ」
「いつも薬草くらいしか持ってこないあいつがか? 仮に戦えたとしても相手が悪すぎるだろ」
「それもそうか。まあでもSランクの魔法は楽しみだ」
周りの気楽な声にため息が出る。もう一度エリスを睨むが、どこ吹く風で微笑んでいた。
「ただ、ロバートさんが声をかけたのって、もしかして、精霊使いじゃないのか……?」
「精霊使い……?」
ギャラリーの言葉に思わず反応してエリスを見る。
「精霊を使う私と奇蟲を使う私、どちらがイメージしやすいかの問題ね」
「なるほど……」
目立つ人間は色々あるんだな。
「いやぁ、本当に精霊使いだっていうなら、あんな男と一緒にいる意味もわからんだろ」
「まあそうだな」
すでに酒を追加してつまみにする気満々の冒険者たち。こうなるともう、俺が頭を下げるか、覚悟を決めなければおさまらないか……。
「もし俺が勝ったら」
「んー?」
余裕綽々でこちらを見下す視線。
「金輪際俺たちに関わらないことを誓うか?」
「お前、まさか万に一つも勝つつもりがあると言うのか?」
「答えろ。俺たち、の中にはここのギルド職員も含むぞ」
「なるほど……それだけの女に囲まれておいてこれが大事か」
そう言いながらリリアさんの肩を抱こうとする。しかしまるで静電気のようにリリアさんに触れようとした腕が弾かれた。
エリスがなにかしたな……。
「ふん……いいだろう。ただし今のような手助けを期待するなよ?」
気に食わなそうに顔を歪ませてこちらを見ながらロバートが言った。
すみません風邪で書く余裕がなかったです。
ここからまたがんばりますのでよろしくおねがいします。
ぜひ感想ください。