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ペットショップを異世界にて~最強店長の辺境スローライフ?!〜  作者: すかいふぁーむ


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021 新店員の初接客

「ぎゃああああああああああ」

「なんだ?!」

 

 店内からの叫び声で慌てて動き出す。

 アランさんの声だ。

 

「どうしたんだ!?」

「おいおい、魔物がいるじゃねえか」

「そりゃ、この店はそういうところだしな」

「いやいや、あれはちげぇだろ?!」

 

 腰を抜かしたアランさんの指が指し示していたのは

 

 カタカタカタカタ。

 

 必死に首を横に振るバアルだった。

 

「なるほど……」


 案内を任されたほのかもおろおろ説明しようとするが、武器を手にしたアランさんに逆にビビってしまっていた。

 アランさんもAランクの冒険者、本気を出せばボーンソルジャーくらいなんの苦もなく倒せるんだが、この手の魔物はいないはずのところにいきなり出て来られたらいろんな意味で怖いからな……。俺も叫ぶとは思う。


「ほのか」

「はい!」

「バアルが安全だってとこ、見せてやってくれ」

「えっ、どうすればいいんですか」

 

 そうだな……。

 

「頭叩いても襲ってこないとことか見せたらいいんじゃないか?」

「かわいそうですよ! 何てこと言うんですか!」

 

 ほのかがバアルを抱きしめるような仕草でかばう。

 十分だな。これで伝わるだろう。 

 

「これでなんとなくわかってもらえたと思ったけど、うちの新しい従業員だよ」

 

 カタカタカタ。

 

「変なやつだけどよろしく頼む」

「相変わらずとんでもねぇ店だな……」

 

 武器は取り出したもののしりもちをついたままバアルを眺めていたアランさんを起き上がらせる。

 たしかにこいつはとんでもないけど、他にうちの店なんかやらかしたことがあるだろうか……? まぁいいか。

 

「餌を売るくらいならたぶん対応できる」

「すげぇな。言葉が通じるのか?」

「ある程度……いやかなりわかってるだろうな」


 バアルはカタカタ楽しそうに肩を揺らしている。


「そうかい。ボーンソルジャー? いやもうこの雰囲気はそれより高位だな」

「やっぱりそうか。まあでも進化って言うにはちょっと違うよな」

「そうだなぁ……」

 

 魔物は進化する。

 本来進化と言えば、たとえばキリンの首が長くなったように、何代もかけてその姿かたちを変化させることを指す。ゲームのように一瞬で姿を変えるのは、芋虫がさなぎを経て蝶になる変化に近い。この場合本来変態と呼ぶべきだ。だが、この世界では一世代内に起こる変化も進化と呼ぶ。

 

 劇的な変化を示すものはまさに芋虫が蝶になったりというものもある。よく敵として遭遇するような魔物の場合、1ランク上位の存在になるとハイと名前がつく。ハイゴブリンやハイウルフなどがそうだ。一旦ハイゴブリンになれば、その子供もハイゴブリンになる。そういう意味では徐々に種族として成長している様子もあるのかもしれない。

 ウルフ系統はそのまま進化を重ねればグランドウルフにたどり着くものもいるし、他の形へたどり着く場合もある。ある程度の法則はあるのだろうが、詳しいことはわかっていない。

 

「にしたって、こいつをハイボーンソルジャーっていうのはなんか違ぇ気がするな」

「そうなんだよ。まあ本人がそれでいいって言ってるし、うちにいる間はボーンソルジャーだよ」

「そうかい。まぁそれならいい。店員っていうなら、ちょっと仕事を頼むか」

 

 常連相手に経験を積ませてもらうのはこちらとしてもありがたい。

 アランさんが試しにいくつかの商品をバアルに注文する。

 ピンセットや温度計、床材につかう木屑など、バアルは細かい指示を完璧に理解して仕事をこなした。

 

「すげぇな」

「俺としてもここまでしっかり対応してくれるとは思ってなかった……」

 

 あとは金の計算さえ覚えれば一人で店番もできそうだった。

 やらせればすでにそのくらいのことはやってのけそうな気すらする。


 ◇


 その後、一通り店を回ったところでアランさんと元の場所に戻ってきた。


「店長、あいつらもっかい出してくれるか?」

「あぁ、サモン!」

 

 さっきまでアランさんに勧めていた王ウズラをはじめとした小動物を店内に並べる。

 

「可愛いですねー!」

「そうだろう。お嬢ちゃんもなんか飼ってんのかい?」

「私は特に飼ってるわけじゃないんですが、ここの子たちのお世話をずっとしてるので……」

「そいつは大したもんだ! よく頑張ってるじゃねえか」

「えへへ」

 

 褒められてうれしそうにしているほのかは歳相応に可愛らしい。

 

「ほのかはエリスの弟子だ」

「おいおい、てことはこのお嬢ちゃんも何かしらすげぇスキルがあるのか……」


 エリスが人に教えるのは、エリスなりに気に入った要素がある時に限られる。

 俺の場合は変わり種のスキル以上に出会い方のおかげで教われた部分が大きいが、ほのかに関しては間違いなく素質を含めてほのか自身を気に入ったから教えてくれている。

 その点はアランさんもエリスの性格をよく知っているので驚いていた。


「魔法適性がものすごく高い。そのうち一緒にパーティー組んで狩りとかも楽しいかもしれない」

「そいつはいいな。エリスの代わりに魔法使いが入ってくれりゃぁ俺はありがてぇ」

 

 パワータイプで接近戦を得意とするアランさんと、エリスの使う虫たちの相性はかなり悪い。

 卵が先か鶏が先かはわからないが、二人の相性の悪さはそのまま仲の悪さに反映されている。とはいえ頼めば一緒にパーティーを組んで冒険者として活動することもあるし、なんだかんだ憎まれ口を叩き合いながらも付き合いを続けているところをみると、心の底からいがみ合っていると言うより、もう長年の癖みたいなものなんだろうな。

 

「一緒に冒険。楽しそうですね!」

「しっかり鍛えてもらえ」

「はい!」

 

 彼女の高いモチベーションがまた一つ上がったようだ。これはもう、すぐにでも魔法の扱いは差をつけられることになるな……。

 

「さてと、さっきのピーヤ、いや王ウズラだったか。そいつと、あとはこいつらをもらって行こう」

 

 王ウズラのほかに2匹、犬のようなウサギを指さす。

 

「あれ、結局ウサギでいいのかい?」


 かぶらないようにという指定だったはずだが。


「あぁ、なんだかんだ言っても娘が気に入ったのはこいつらだしな」

「なるほど」

 

 アランさんが選んだうさぎは、耳は比較的短く、しっぽもこの世界のウサギとしては短い。見た目でいえばモルモットに近いかもしれない。ただいちいち区別し始めると切りがないので、このあたりの動物はもうだいたいウサギと呼んでいる。一番メジャーな生き物の名前だったから。

 

「じゃぁ、ほのか。梱包の練習をしよう」

「えっ」

「そりゃいいな。おっさんに包まれるより嬢ちゃんに包まれた方がいいだろう」

「おい」

 

 元の世界では、小動物だとケーキの入るような紙箱に入れれられることが多かったが、この地域には使い捨てに出来るような紙袋や紙箱のようなものはない。代わりに木箱を用いることになる。

 

「難しいことはない。いくつか積み上がってる木箱から、ちょうどいいサイズを選んで入れてやる。中にはあらかじめクッションを入れてあるから、最後に魔法で施錠したら終わりだ」

「私、そんな器用に魔法使えないんですけど」

「最後は俺がやるよ。気をつけてほしいのはあんまり大きすぎる箱を用意しないこと。変にスペースがあるとぶつかって弱るからな」

「わかりました。やってみます!」

「とりあえず、木箱だけ持ってきてくれ。バアルに運ばせてもいいから」

「はい」

 

 店の中に戻るほのかを見送り、こちらも仕事に戻る。

 

「さて、いつも通り、俺の結んでいる契約をアランさんと結ばせる」

「こいつらはどこまで調教できてんだ?」

「いつも通り。トイレも覚えているし他の生き物への危害も加えないようにしている」

「それならよかった」

「王ウズラだけはちょっと変わるけど、トイレは完璧にするのは種族上難しい。その代わりインプリンティング済みだから、懐き方は他の動物とは比べ物にならない」

「インプリンティングか。ちょこちょこついてくるんだっけか?」

「そうだな。親だと思って懐いてくるよ」


 インプリンティング。刷り込み。

 卵から孵ったばかりの雛は、初めて見た相手を親と思いこみ、それがたとえ人間であってもトコトコついてくるようになる。

 王ウズラは生まれた時にしっかり人間を親として認識させている。こうなると懐き方は他の動物とは比較にならない。


「3匹まとめては無理だから、2回に分ける」

「任せるわ。いつもどおり、俺は何もしないでいいんだろ?」

「あぁ」

 

 目を閉じ、意識を動物とアランさんに向ける。契約の内容には、あらかじめ他の契約者にも同じことを誓うことを盛り込んである。

 滞りなくアランさんを“マスター”として認識させる契約を結んだ。今回は娘さんとのこともあるので、アランさんの家族までその範囲に含めるように交渉と調整も行う。

 

「いつもながら、不思議な感覚だな」

「俺としてはこれをやられる側ってのがわからないからなぁ」

「突然目の前の生き物が自分のものになったっていう意識が流れ込んでくるんだ。もしかしたら俺はこの感覚のために増やしてるんじゃねぇかと疑ったことすらある」

「なるほど。まぁ、不快じゃなければ良かったよ」

 

 2回目の契約が終わったところで、ちょうど良くほのかが戻ってくる。

 木箱ではなく、ピーヤの飼料を抱えて。

 

「あれ、木箱は?」

「そっちはバアルが持ってきてくれます。これも必要になるかなって」

 

 よく気が付く子だった。確かに忘れていたな……。

 

「アランさんの場合大体家に揃ってるからすっかり忘れてた……」

「俺も忘れるとこだった。ありがとな、嬢ちゃん。チップも弾もう」

「えぇ!? そんなそんな」

「受け取っておきな。日本じゃあまりないけど、こっちの世界はたまにある」

 

 この場合チップと言うよりおつかいのお駄賃のようになっているが、まぁいいだろう。

 

「ありがとうございます……」

 

 ほのかがこの世界で、初めて自分を認められて手にした報酬だ。

 

「バアルもきたな。入れてやってくれ」

「はい」

 

 丁寧に、1匹ずつに心を込めながら、ほのかがアランさんの選んだ子達を木箱へ入れていく。

 そっと蓋を閉じて、そこで俺に受け渡す。

 

 木箱の四辺それぞれに、魔法でロックをかける。簡単な魔法。セロハンテープで止めておくような、軽い衝撃で外れるものだが、四箇所してあれば問題はないし、家についてからすぐに処理できる。

 

「ありがとよ。また近いうちにくるが、あぁしばらくはエリスのやつがいるんだったか?」

「午前中はほのかに魔法の指導に来てくれる。その間は俺もいないかもしれん」

「なら午後に、様子を見て餌を買いにくる」

「わかった。急ぎなら午前に来てくれてもバアルもいるから」

「あのガイコツか、それはそれで面白いな」

 

 ほのかとバアルにとっては初めての接客。

 常連が相手で良かったが、2人ともこちらの思った以上にしっかりやってくれた。

 良く良く考えたらこの世界より元の世界の方が、そういう経験を積める機会は多いかもしれない。ほのかにはそういう経験はあったかもしれないな。


 なにはともあれ今日は売上もあがったし、ほのかとバアルにはお祝いと言う形で豪華な晩飯にするとしよう。

 バアルが何を食べるのかいまいちわからないけどな。

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