016 第一回店舗改善ミーティング
「アツシさん、すごく言いづらいんですけど」
エリスによる特訓と店の仕事を少しずつ覚え、ようやく異世界生活にも一定のリズムを見出した頃、ほのかが言いづらそうに切り出した。
「ん?」
「このペットショップ、うまくいってますか?」
ほのかなりに精一杯気を使った言い回しで、店の現状を指摘されてしまう。
「それは……」
言葉に詰まっていると、なぜか諦めた顔でため息をつかれた。
「アツシさん」
「はい……」
まっすぐこちらを見つめるほのかに何故かタジタジになる。
「一度ミーティングをしましょう」
「えーっと……」
「このままだとまずいですよね?」
「えー……」
「アツシさん?」
「はい……」
ほのかの勢いに押され、我が店初のミーティングの開催ということになった。
◇
「まず確認ですが、最後に来たお客さんは?」
「一週間前に餌をまとめて買いに来た人が……」
「それ、このお店の一週間分の維持費になりますか?」
「いやいやほら、主力商品は大型の魔獣たちで」
「じゃあそれが最後に売れたのは?」
「えーと……アルベルト伯爵から頼まれて地竜を2匹納品したのが……3か月前?」
嘘だ。ほのかから放たれるオーラに怯えて少しサバを読んだが、実際には半年以上前だ。
我ながらしょうもない嘘をついたものだが、今のほのかのプレッシャーの前で正直に言うのが何故か躊躇われた。
「ちなみに地竜2匹でどのくらいの価値になるんですか?」
「一応この店を半年以上やっていくのに必要な金額にはなる」
「それならそこそこうまくいっていると言えるんですかね?」
実際には違う。そもそも半年以上やっていくために必要なギリギリの金額。半年以上前に売れているのだからそのストックはない。ましてや相手は貴族。付き合いのための出費も、うちのような小さな店からすれば痛手だ。割引きもしたしその他の色々を踏まえると、半年以上も店を維持させるだけの純利はない。
「ハク、この話、本当?」
ハクは首をすくめて残念そうに首を振った。おいこの野郎。5年もの付き合いの俺よりほのかを取りやがった!
「残念ですが、お店がうまくいっていないのは確かなようですね」
ハクとほのかがシンクロする。頭を下げ、やれやれと首を横に振った。
何だこの敗北感……。
「私が気付いたお店の改善点を挙げていきたいんですけど、いいですか?」
「お願いします……」
記念すべき第一回店舗ミーティング。
ほのかはやる気だ。一応店長である俺が、下手に口をはさめない程度には……。
「昨日もそうですが、ここって営業時間中にお客さん、来ないんですか?」
「まあほら、辺鄙なところだし、こんなところにわざわざ足を運ぶ人って少ないからさ」
ギルド自治区の中でも森にほど近い位置にある。
理由は2つ。ここが安かったから。それから、森から生活エリアへの入り口を、うちの魔獣たちがある程度守ることを期待され、ギルドに依頼されたためだ。もちろん対価も受け取っている。
「私が見ている限り、少し先に行っただけである程度活気のある町並みだったんですが、そちらからお客さんが来たりはしないんですか?」
「わざわざこっちに出てくるのは冒険者たちだけだからな。向こうで生活している人たちからすれば、変わった店があると聞いてる、程度だと思う」
「まずその宣伝力を改善しましょう」
「はい……」
◇
今後の店をもっといろいろな人に知ってもらう方向で、作戦を立てることになった。
店の状況はすでに伝えているが、さらに細かくこれまでの話を含めた現状を伝えていく。
「じゃあ、今までお店を使ってくれていたのは冒険者として活動しながら知り合ってた、いわゆる身内だけだったと……」
「さすがに貴族なんかは直接の知り合いじゃないぞ?」
「どっちにしてもペットショップとしてお客さんを捕まえられていないのは変わりありません」
鋭い指摘にぐうの音もでない。
「そもそも店と言っているのに、いつやっているかもわかりませんし、外から見てここが店だとはわからないですよ」
「え、そうか? こんなに生き物に囲まれてるのに」
「それは中に入って初めてわかることです! このお店を外から見た人が初めて抱く感想を考えてください!」
考える。
店の入り口は、スペースがないから引き戸の半分は荷物やケージが積まれていて塞がっている。両脇にも所狭しとものが溢れ、中の様子は一見しただけでは薄暗くてよくわからない。
周りには頼りになる魔獣たちが自由気ままに生活している。
確かに、初めて足を運んだ人が客になる状況ではない。
「ああ……」
「理解しましたか?」
元の世界でも爬虫類なんかを中心に取り扱うショップは、一見さんお断りかのような雰囲気を醸し出す店が多かった。入ってみるとそうでもないことは多いが、自分の中のショップのイメージがその方向で固まってしまっていたのは確かだ。ペットショップなんてそういうものだろうと思うようになっていたが、確かに最初は入りにくかったことを今更思いだした。
「まずこの入口のごちゃごちゃをどうにかする! それから、ハクたちをある程度、柵とかの中で生活させてあげてください」
「柵なんてあってないようなもんだぞ?」
「それでもです。精神的な距離感として、一応ここから先は安全だと思わせないと」
「でもほら、知っての通り危険はないし」
「普通の人からすれば脅威だって、私でも十分理解してます! しっかりやってください」
「はい……」
まあ、薄々思ってはいたことだ。
こいつらが店の周りにうじゃうじゃいるのは、ショップとしてどうなのかなあと。
一方で楽観視もしていた。特に力も魔力も強いわけじゃない俺が店長をやっていて、楽しそうにこいつらと触れ合ってるんだから、大丈夫と思ってもらえるのではないかと。
「甘いです」
そんな想いは、ほのかの一言に一蹴された。
「だってさ、柵とか作るのも結構大変なんだぞ?」
「頼んだりしないんですか?」
「そんな金に余裕がないのは、さっきばれたよな」
「え? いや、別に人間に頼む必要はないじゃないですか」
「え?」
「え?」
食い違う二人。ほのかは何を言っているんだろう?
「魔獣に、そういうのが得意な子はいないんですか?」
「ああ! その発想はなかった!」
なんてこった……。魔獣に日常生活のアシストをさせるなんて、考えたこともなかった。
「これ、もしかしてすごい考えじゃないか? その方向でなら客も捕まえられるかもしれない!」
「むしろどうしてそんな都合のいい子がいたのに、今までそれに気づかなかったのかが不思議です……」
ほのかに呆れられる。最近わかったがほのかはさらっと毒を吐くことがある。
まあいい。気を取り直そう。
柵を作るのに必要な作業は……木を用意して持ってくる、木を切る、それらを組み合わせて設置する。とりあえずこれで何とかなるだろう。何もすべてを一匹にやらせる必要はない。それぞれを得意そうなやつに任せれば……。
「本当に今まで考えたことがなかったんですね……」
真剣に考え始めた俺を、ほのかが苦笑しながら眺めていた。
俺はそんなこと気にならないくらいわくわくしていた。ほのかの指摘は耳が痛い問題が多かったが、解決策が出てきたなら話は別である。さっそく何種類かの魔獣をピックアップしながら具体的な作戦会議へとうつっていった。




