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プロローグ2

「変なリタちゃん」


娘がわたわたとしている中でも、のんびりとティーカップに口をつけるお母様はとりあえず置いといて、状況を整理しよう。


私は、ヘンリエッタ・アーシェ11歳。

占いと魔術が進歩したこの国、フォーリア王国筆頭アーシェ公爵の第一子。

公爵というこの国一番の爵位をもらう父は退位しているが元国王、その元王妃である母は王宮の最高学術師の娘。その上、現国王はヘンリエッタの義兄。

というハイパーサラブレッドな一族のご令嬢、それがヘンリエッタ(わたし)なのである。

このゲーム中で最強とも呼べる権力を振りかざしヒロインを苛め抜き、しかも攻略キャラは大体ヘンリエッタと関りがあるなんていうとんでも設定を持つ彼女は、ゲームの全ルートを合わせると攻略キャラよりエンカウント率が高いと思う。実際、『パンドラ・プリンセス』ユーザーの中ではヘンリエッタのチート設定が問題となっており現在進行形で画面外からは滅茶苦茶嫌われている。私自身、彼女のチャームポイント(自称)であるストロベリーブロンドの髪が画面に映るたびに、何度腹立たしさを覚えたことか。

ただ、そのヘンリエッタにはある弱点がある。

それこそが最強で“最凶”と呼ばれる由縁なのだけど。

まあ、これは今置いておくことにして……


私は普通にゲームをしていた只の日本国民なのに、どうしてこうなったよ!

平凡を絵に描いたような私が、変わったことをするわけないし。

と、考えてふと思い出した。

そういえば、あの日は『パンドラ・プリンセス』オタの朋ちゃんから

【ヒロインの名前をヘンリエッタ・アーシェに変更したら新キャラを攻略できるらしい】

って都市伝説を聞いたんだった。

だから、私はヒロインの名前であるシルフィア・コーナーという名前をヘンリエッタに変えて……

そうしたら、画面がブラックアウトして……今に至るわけで。


もしかして。

もしかしなくても……。

原因はそれってこと?


「リタちゃん、ほら元気出して?」


いつの間にか、私のそばにやってきていたマーガレット・アーシェ…もといお母様が微笑みながら手を伸ばしてくる。


「あーん」


そのまま、指先でつまんだクッキーを私の口に押し付ける。

戸惑いながら、クッキーを口の中に入れ咀嚼する。


「お、おいしい……めちゃくちゃおいしい!! 何このお菓子!」


「でしょう?」


サクサクと口の中で、解けて広がっていく甘みに思わず頬を緩ませると、お母様が目尻を下げて笑った。


「何を悩んでるか知らないけど、美味しいもの食べたら元気でるよ」


ふわり、と笑うお母様に癒されつつ微笑み返す。


「ありがとう、お母様。とっても元気が出たわ」


「そう、なら良かった」


お菓子を飲み込む時間すら惜しくて、わんこそばのごとくお母様が差し出すクッキーを口いっぱい頬張りながらそっと目の前の人を盗み見ると、お母様は天女の笑みで私を見ていた。

その顔はとても慈愛に満ちた表情で、ヘンリエッタ(わたし)が愛されていることがひしひしと伝わってくる。


そういえば、ヘンリエッタ(わたし)の父はゲームでも出てくるから知っていたけど、ヘンリエッタ(わたし)の母は初めて見たなぁ。

もっと意地悪な母親像を想像してたから、これは拍子抜けというか……会って10分も経たないけれど分かる、心の清らかさ。

本当にあのヘンリエッタの母ですか?

と聞きたくなる。

お母様、もし私が現実に戻れたらお母様のファンクラブ作るよ!!

と心の中で誓っていると、クッキーを運ぶのをいつの間にかやめたお母様はもう一度私に手を伸ばしてきた。


「さ、メイドに見つかる前にお茶会はおしまいにしよっか。それに地面にしゃがみ込んでいるところメイドに見られたらはしたないって怒られちゃうもの」


「はい」


悪戯っぽい笑みを浮かべる私とよく似たストロベリーブロンドの優しい母の温もりを感じながら、立ち上がる。


なんか。

ヘンリエッタがストロベリーブロンドに固執する理由が分かった気がするなあ。

私が今抱いている感情をヘンリエッタも感じていたから、彼女はこの髪が好きだったのだろう。

でも、それと同時にどうしてヘンリエッタは将来あんな凶行を行う少女になってしまったのだろうと疑問にも思うわけで。


それは、彼女が“凶星きょうせいの子”であるからなのか。

問いかけても、最初に聞こえた誰かの声は頭の中に響いてこなかった。

代わりに、私はヘンリエッタが死なないルートをこの優しいお母様のために目指そうと胸に誓った。

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