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22:兄妹げんかは犬も食わない。その2


「あー、なんでこうなったのかな。訳分かんないよ……」


お前のせいで殺す気が失せたとか女子供を殴る趣味はないとかなんとかいいながら、おじさんたちは私を吊るすと去っていっちゃったし。

女の子を吊るす趣味はあるほうがよっぽど変態なことを自覚してよ、おじさん!

それにもしも、この洞窟がオークとかゴブリンの巣窟だったらどうするつもりだよ!!

美少女が毒牙にかかってしまうわ!


『パンドラ・プリンセス』にオークとゴブリンはいなかったと思うし、いないと思いたいけど……。


「はぁ……。逃げようにも、文字通り手も足もでないからなあ」


うるさいくらい鎖を鳴らしながら、一通りわるあがきをし終えた現在。

光魔術で周辺を照らして、横を見る。

大けがを負いながらも涼しい顔で目を閉じているアルト。

不謹慎だけど……ボロボロになりながら、吊るされているアルトは絵画的な美を感じてしまう。


せめてアルトが死なないために傷の手当てをしたいけど……。

治癒魔術は術者が触れたところが治るって仕組みなのが痛い。触れないと意味がないなんて。


「思わずキレちゃったけど、考え無しに喧嘩は売るものじゃないなぁ……」

「……本当ですよ」

「え!?」


自分じゃない声に、驚いて見ると特徴的な瞳と目が合った。


「……貴女は馬鹿だ」

「アルト起きてたの!? っていうか今馬鹿って言ったよね?」

「言いました」


空耳だと思いたかったのに、空耳じゃなかったらしい。

くそう、初手で罵倒とはなかなかやるな……!

しかし、ここで怯むヘンリエッタじゃない。

何しろ相手は丸腰。それに、魔術は今も使えないとみた。

殺される心配なし!


「アルトの方こそ馬鹿だよ! 私を一方的な意見で殺そうとしたでしょ!」

「覚えていましたか」


負けずと私がアルトを睨むと、アルトは少し嬉しそうに微笑んできた。

何その反応!! すっごく似合うから腹立つ!!


「その件については色々言いたいことはあるけど……まず、あのおじさんは誰?」

「町にいた頃の知人です。……昔は優しかったんですけどね」

「……優しい人は人に殺すなんて言わないわ。それは悪人よ」


アルト然りね!


「仰る通りですね」


目線で伝わったのか、アルトは悪びれもせずに笑った。

ノーダメージとは、やはり強敵……!


「……というか、なんで魔術を使わなかったの?」

「理由は二つあります」

「二つ……?」

「一つ目は、あいつらが俺を殺すことはできない。だから、彼らの怒りのはけ口になってみようかと思いました。……彼らの生活が苦しいことくらい分かりますし」

「二つ目は……?」

「今は言いたくないので教えません」


私たちがおじさんたちに捕まった経緯と二つ目の理由は謎だけど、まとめるとつまり。

別に魔術は使えるし、反撃はしようと思えばいつでも出来るってことで……。

アルトは自らサンドバッグ役を買って出た物好きってことですよね……?


「……見捨てればよかった」

「見捨てられると思いました」


淡々と私に言葉を返してくるアルトは、私が意識を失う前みたいに殺気に満ち溢れていない。

どうやら今は精神が落ち着いているらしい。

その上、嫌に機嫌が良い。

これだけ乙女ゲームでいうところの外れ選択肢を選びまくっているというのにね。

不気味すぎるので、油断しないでおこう……。

それにさっきの会話からしてアルトはあえて魔術も使わないだけで使えるみたいだし。


なんたって、私への殺意MAXだからね。

殺されかけた記憶、忘れていないからね。

というか今、私がなんで生き残ってるのかも分かんないし。


「すみません」

「……え?」

「ヘンリエッタ様は俺が殺してあげれない、と思います」

「……はぁ!?」

「あの時、何者かの邪魔が入っていなければ……」


悔し気にアルトが続ける。

そっちに謝ってるんですか……、そうですか。

いい加減、私を殺すのはもう諦めてほしいな……。

アルトくんが執念深いのはゲームでもよく存じていますけど……。


「というか、邪魔ってあのおじさんではなく……?」

「ヘンリエッタ様は、俺がただの町民に劣るとお思いですか?」


出たよ、アルトくんの隙を見せない煽り。


「……もういい。私だけで脱出してやる」

「はい。おひとりで頑張ってみてください」


一瞬でもアルトに期待した私が馬鹿だった。


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