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21:兄妹げんかは犬も食わない。その1


目が覚めると、そこは天国だった!

……という訳ではなく、どちらかというと地獄に近かった。


というのも、簀巻きにされた私の前で繰り広げられていたのは無抵抗な人間を殴りまくっている暴力シーンだったから。


「貴族の犬が! 死ね! 死ね!」


殴られているのは私ではなく、鎖で吊るされたアルト。

うす暗い室内でも分かるくらい血まみれで、意識はないのかぐったりと目を瞑っている。


……どうしてこうなった?


えーと、たしか“私が”アルトに殺されそうになってたはずなんだけど……。

夢じゃなかったら、私生きてるよね……。

生きててよかったー!!


でも、この状況は何でしょうか……?

今、アルトをぼこっている人たちはどっから出てきた?

というか、ここどこよ、洞窟??

暗いし、じめじめしてて気持ち悪い!


「おう、嬢ちゃん。目覚めたか」

「ひゃいっ!?」


簀巻きにされたまま、目の前の光景を理解しようと転がって視野を広げていたのが悪かったらしい。

さっきまでアルトを殴っていた男の一人が、私の前にしゃがみ込んでいた。


「そんな怯えなくていい。おおかた、お前さんもコイツに裏切られたんだろ」


男はナイフで後ろを指した。

背後には、大人三人がかりで殴られるアルトの姿があった。

いや、本当にどういう状況……?


「裏切られたって、おじさんもアルトに何かされたの?」


凶器を前にしても疑問を抑えきれず、私は尋ねた。


「あぁ。コイツはこの町を裏切って自分だけ裕福な生活をしてんだ」

「そうだ!」

「出る時には、税を減らすって約束して出てったくせに、見てみろ。下がるどころか上がる一方だ」

「ったく、ただの平民のくせに何が王だ!」

「まさか、町に帰ってきてたとは思わなかったがな。ここで会ったがコイツの運の尽きってやつだ」


でも、それがまずかった。

男たちは更に怒り、アルトを殴り始めた。


というかアルトの様子おかしくない?

私の知っているアルトだったら拘束されていても、魔術ですぐに蹴散らせるはずなのに。

それに、ただの一般市民に捕まる人じゃないでしょ君。

え、まさかのまさかでこの人たちがラスボス級の強さを秘めているとか……?

魔術すら使えないみたいだし、それは無いよね……。

だけど、不思議なことに。


アルトはまるで眠らされているかのように、どんなに激しく殴られても目覚めることがなかった。

……もしかして、すでに死……んでないよね。

いや、死んでなくてもこの出血量はやばいでしょ……!

早く止血しないと。


「待って!! そんなことしたらアルトが死んじゃう」


慌てて止めると、男たちはようやく暴力をやめてきょとんとした表情で私を見た。


「何言ってんだ。だから、殺すって言ってんだろ」

「え……?」


殺す?

アルトを?


「お前もコイツの被害者なんだろう?」

「だったら、こいつが死んだらお前にも良いじゃないか」


男たちの言葉はもっともかもしれない。

愛情表現でお前を殺す(要約)とか言う、意味の分からない超理論で私を殺そうとしてくるアルトは、思い返すと腹が立つし出来ることなら関わりたくない。

一緒にご飯を食べた時は、アルトちょっと良い人だな。意外とお兄ちゃんっぽいところあるんだな。なんて考えていたけど、今となれば全然違ったし!!

良いところは顔と声くらいだし!!


アルトは私にとって危険な人物、以上!!


排除できるのなら、排除した方が私の生活は安泰だ!

そして今が絶好のチャンス。


何がどうなってただの大人4おじさんに捕らえられているのか分からないけど、意識だってないから反撃の心配もない。

簡単にやれる。


「……私は、アルトのことは苦手だよ」


だけど、だけど……。

感情が沸々と湧いてくる。


「簡単に殺していいわけないでしょーーー!!」


大声で叫ぶと、怒りが止まらない。


「おじさんは税があがったことに怒っているんでしょ? だったら、暴力で訴えても意味ないでしょ!」

「意味はある。コイツが退位して、王が他の“吉星”の人物に代われば俺たちはそれでいいんだ」

「そうだ! コイツは妹を捨てて貴族の養子になったようなヤツなんだぞ」

「自分だけ幸せになるなんて最低な野郎だ!」

「……アルトは自分だけ幸せになろうとしてない」

「何か文句があるってか?」

「あるわ!!」


私はさらに声を張り上げた。


「確かにアルトは、変わってるし最低かもしれない。でもおじさんたちも、アルトだけに責任を押し付けて逆恨みするなんて最低よ! それってただ境遇が羨ましいだけじゃない」


言ってみて、アルトに嫉妬していたゲームのヘンリエッタを思い出して胸が痛い。

けど構うものか。

たとえ私がヘンリエッタの第二人格であろうと他人であろうと、今の私は私なんだから。


「アルトはアルトなりに民のことを考えていたわ! 忘れてなんかいない!」


言い終わって、キッと睨みつける。

だけど、まだ言い足りない。

主にアルトに対して。


「アルトもアルトで、人の生死を簡単に扱うなーーー!!!!!」


意識のないアルトに大声で語り掛けると、私の声がうす暗い洞窟の中に反響していく。


「うるせえ……!」

「ああ、頭が割れそうだ」


その声で、男たちが気絶する……。

ことはなく。


私は逆上した男たちにアルトと同様、吊るされてしまった。

しかもアルトくんも隣に。


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