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17:兄妹の話

どうやら、ここまでの会話でアルトの機嫌は損なわれていないらしい。

何故わかるのかって?

それは、間違えた選択肢を選んだら「へぇ、貴女はそんなこと言うんですね」とゴミを見るような目で言ってくる彼だからです!

豆腐メンタルな私は悪意なく地雷選択肢を選んでしまったら、アルトの嫌味&論破攻撃に耐えきれずに電源ボタンに手を伸ばしたな……。

アルトは、嫌な選択肢を選ばれてもやんわりと窘めてくるマシューくんの爪の垢を煎じて飲んだ方が良いと思うよ。……飲まなくてもいいから見習ってほしいな。

もしも、目の前で初期好感度のアルトの拒絶を見てしまったらショック死する自信しかないので。


というか、今のところ選択肢合っているはずなので、現実世界にも好感度実装はよ。


「そうだ。俺は今から食事をするんですが、良かったら一緒にいかがですか?」

「え、えと……ハンナさんに聞かないと……」

「従者に連絡するよう俺が言っておきますからご心配なく」

「で、でも私がお義兄様と食事など……」

「……駄目ですか? やはり、ヘンリエッタ様は平民の俺なんかと共に食事など出来ませんよね」

「いえ、そういうわけではなくっ!」

「では、決まりです。行きましょう」


アルトは言うが早く私を引きずるように連れていく。

待って待って、こういう好感度アップイベントはいらないです。

ウーゴ、ルイ助けてください。


ウーゴとルイに視線を送るが、面倒ごとには巻き込まれたくないらしく目を逸らされてしまった。

いつものことながら悲しい。


食堂に向かいながら、「なぜあの二人が一緒に歩いているんだ!?」というメイドたちの好奇の視線に耐え切れず私は口を開く。


「あの、お義兄様はなぜ私を食事に誘ってくれたの?」

「言ったでしょう、今の貴女に興味があるんです」


その言い方含みがありすぎて怖いね。


「……しかし、心境の変化があったとはいえヘンリエッタ様にお義兄様と呼ばれるのは慣れませんね。いつも通りアルト、と呼んでください」

「わ、分かったわ。アルト」

「やっぱりその方が落ち着きます」


うーん、なんだか……相変わらず何を考えているか分からない。

この前のアルトだったら、呼び方を間違え続けていたら冷静に指摘して、「何故、どうして」って詰め寄ってきそうなのに。

招待状の一件で話した時から、変にあっさりしているというか。

まるで、もう疑いの材料は探していない素振り。


「アルト様、お食事はいつものでよろしいでしょうか?」

「ああ。……ヘンリエッタ様も俺と同じでもいいですか?」

「えっ、は、はい」


天気よりも変わりやすいアルトの変化に戸惑いながらも勧められるがまま席に座る。


「……」

「……」


き、気まずい……!

食事が準備できるまで、十分以上はかかるだろうけど、何を話したらいいものか。

今のアルトから目に見えた敵意は感じないとはいえ、私から下手な話をしたらまた墓穴を掘っちゃいそうだ。


「ああ、そうだ」


何を話せばいいのか悩んでいると、アルトが思い出したように私を見た。


「せっかくですから、周囲にアピールでもしましょうか」

「どういう意味?」


と、アルトに聞くのは無駄だった。


「なっ!! ……はぁっ!?」


なぜなら目の前には私の髪をすくい、口付ける超絶美形の姿があったからだ。


「あ、アルトくん!!? 何を!?」

「だから、アピールですよ」


突然のことに慌てふためきながらアルトを見ると、アルトはけろりとした顔で私の耳元に顔をよせた。


「俺の退位を進言する馬鹿な貴族への牽制に使わせていただきました。貴女と仲が悪いというだけでアーシェ公爵の後続に相応しくないとこれ以上五月蠅く言われたくもありませんし」

「そんなことを言う人がいるの?」

「お父上は、ヘンリエッタ様にご執心ですからね。娘のことでつつけば俺を排除できると考える輩も少なくありません」


そう言いながら後ろに視線を送ったアルトに合わせて食堂を見回すと、苦々しい顔でこちらを見る何人かの貴族と目が合った。

まさかとは思うけど、この人たちがアルトの言うくだらないことで退位を迫る人間なのかな。


「それにしても、ちょっとした賭けだったんですけどね」

「賭け……?」


びっくりしたままの私にアルトは至近距離で微笑みかけると、身を引いた。


「ヘンリエッタ様に平手打ちをされなくて良かったです」

「ああ、なるほど」


アルトに自慢の髪を触られて激高するヘンリエッタを想像して、同じようにその姿を想像したであろうアルトと苦笑交じりに見つめあって……。


「って、そうじゃない!」


慌てて私は首を振った。

なんか、良い話風にまとまりそうだったけど、良くない!


「アピールするにも距離が近すぎるわ!」

「そうですか?」

「そうです! 私たちは恋人でなくただの兄妹よ」


マシューといい、ここの人間の顔の良さで、心臓が止まる私の身になってほしい。

不機嫌に口を尖らせると、アルトは困ったように首を傾げた。


「妹に接するつもりでしたんですけどね。あの子と同じように」

「あの子?」


あの子っていうのは誰だろう。

シルフィア……なわけないし、他にアルトと親しい妹的存在っていたかな。

アルトの言う、“あの子”という子が誰か分からずに聞き返す。


「俺には妹がいるんです」

「い、妹!?」

「リリーって言うんですけどね。歳はヘンリエッタ様と変わらないので、つい同じように接してしまいました」

「リリーちゃん……」


私と同い年のアルトの妹。

頭をフル稼働させて“リリーちゃん”について思い出そうとするけど、話に聞いたような聞いていないような。


「しかも、ヘンリエッタ様はリリーに似てるから」

「私に……?」

「はい。きっと気が合うと思いますよ」


リリーちゃん。

肉親のアルトに私と似ていると言われるレベルってことは、とんでもない性悪なんじゃないか。

あんまり、会いたくないぞ。

と、思ったものの妹について話すアルトの表情が穏やかなので黙っていることにした。


「だから、ヘンリエッタ様にはいつか俺が育った町に来て欲しいんです。来てくれますか?」

「ええ、機会があればぜひ」

「本当ですか? リリーも喜びます」


私の返答に表情を緩ませるアルト。

その横顔は、妹思いのただの青年のように見える。

ヘンリエッタのことを将来殺してしまうほど嫌っているからって一方的に怯えていたけど、普段のアルトは気まぐれなところが玉に瑕だけど根本的には優しい人だったっけ。

私の知らぬリリーちゃんに見せてきたであろう柔らかい表情をしたアルトを横目に、私はゲームでのアルトを思い出した。


アルトルートで、アルトが王宮を燃やして新たな国を作ろうとしたのはただの復讐じゃない。貧困にあえぐ民のためだ。

改革のためとはいえ大罪を犯したアルトは、自分が人を愛する資格はないと終盤までヒロインを拒絶する。


そんな彼が、善人かどうか。


そう聞かれれば難しいけど、アルトが快楽で人を殺すような本物の悪人じゃないことはよく知っている。

そして、今も。

こうやって隣で妹や税について嘆いたアルトは恐ろしいとは思わない。

とはいえ、私はどうあがいたってヘンリエッタであることに変わりないので、

もれなく死ぬほど憎まれているでしょうがね!


「……さて、ヘンリエッタ様にはもう少しだけ俺に付き合っていただきましょうか」


アルトはリリーちゃんについて考えることをやめたようで、私にいたずらっぽく笑いかけた。


「それってまたアピール?」

「はい。ヘンリエッタ様が嫌がるようなことはしませんからお願いします」


それからは嫌に優しいアルトと、「王様とリタちゃんの仲良しな光景が見られるなんて!」と、ある意味アルトの作戦通りおびき寄せられたお母様。それにお母様に無理矢理連れてこられたハンナさんたちと食事をした。

なんか、まんまとアルトの手のひらで転がされている感じがする。


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