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16:魔術に値段は付けられない

私は青白い魔法陣を目の前に深呼吸をした。

ここまでは大丈夫。

魔法式は間違っていない。

あとは……。


「強化魔術に基づき、ヘンリエッタ・アーシェが自然に働きかける…ソーサーよ、ランシェント(固まれ)!」


言い切ると共に魔法陣が光と共に消えていく。

それを冷静に見つめたハンナさんは、私が術をかけたソーサーに触れた。

ソーサーは、ハンナさんが持ち上げようとしてもピクリとも机から動かない。


「やった、成功!!」

「……ええ。少々魔法陣発動と詠唱が遅くはありますが、初めはこんなものでしょう。よくできました」


パーティーから数か月後。

ハンナさんのヘンリエッタ淑女計画は絶賛進行中です。

治癒・光・付与・解毒・封印・封印解除と習得して、本日は強化魔術の特訓。

強化魔術は今、机とソーサーをくっつけたように物同士や物質を強固にする魔術。

ちなみに強化魔術は攻撃系魔術と組み合わせたら、攻撃が強化できるという結構重要な魔術なことも私はゲームで予習済みだ。


「それでは術の発動も確認出来ましたし、実際にヘンリエッタが強化魔術を使用できそうな場面を考えてきなさい。成功したら私に見せること、それが今日の宿題です」

「はーい」


ハンナさんが私に出す宿題もいつものことで、私は何に強化魔術をかけようか考えながら部屋を出る。

魔術は、一に理論。二に、反復練習。三に実践。がモットーなハンナさん曰く、「魔術は習得してからも何に使えるかを考えることが重要」とのことで、私はこの前の実践練習を思い出していた。

この前の封印・封印解除はセットなこともあったから、私のパンドラ・プリンセスの知識をまとめたメモに魔術をかけて鍵付きの日記帳にしたけど……強化魔術を応用できそうな場面。

うーん……。

私は、攻撃系魔術もってないしなぁ。


今のところ磁石に強化魔術をかけて周囲をドン引きさせる量の砂鉄を集めるくらいの案しか思い浮かばない。

……それはそれで楽しそう、見てみたい。


そんなことを考えながら私がちょうどいい砂場を探していると、


「ウーゴ、これを植えたらいいのかー?」

「そう。うえおわったら、水やり」


外ではウーゴとルイが庭の手入れをしていた。


「ハァ……お前、こんなシャベルでよく土いじりできるな」

「そう、かな?」

「先端、錆びすぎて全然掘れないよ。そろそろ変えないとウーゴも作業がはかどらな……くないな、馬鹿力で掘れてるな」


なにやら、大変そうだ……。主にルイが。

土を一度掘り起こしてはゼェゼェと息を吐くルイが可哀そうで、「新しいシャベルを持ってこようか?」

と声を掛けようとして、私の頭の中である考えが閃く。


これって、魔術チャンスでは……!?


「ねえねえ、ルイ。もし、このシャベルが固くなったら嬉しい?」

「わっ、お嬢様いつからそこに? ……そりゃ、嬉しいですけど……」

「うんうん、嬉しいよねー。でも、世の中そんな美味い話はないと思っているでしょう? ところが、あるんです! 使うのはたった一つ。この私、ヘンリエッタの魔力。簡単でしょ?」

「えぇ……お嬢様いきなり何……?」


ルイには完全に引かれてしまっているけど、この話の導入お分かりだろうか。

そうです。

私の今日の気分はテレビショッピングです。


「ちょっとだけ、このシャベル借りてもいい?」

「あぁ、はい。どうぞ……お嬢様、これ重いから気を付けて」


私のテンションに付いていけないながらも、ルイは話には乗ってくれるようでシャベルを手渡してくる。


「それではいきます」


手で押さえているシャベルに全神経を集中して、魔法式を形成していく。

脳内で魔法式と魔力が噛み合っていくたびに指先から青白い光が現れ、宙に魔法陣を描いていく。


「強化魔術に基づき、ヘンリエッタ・アーシェが自然に働きかけるシャベルよ、ランシェント(固まれ)


言い終わると同時に、光が散り散りになっていく。

見た目は錆びたままだけど、魔法陣も詠唱も成功したはず。


「お嬢様、今のは……」

「見てて」


呆気にとられるルイに、私はシャベルを持ち上げ地面に落とす。

シャベルは、小気味いい音を立てて地面に刺さった。


「あら、不思議! 先ほどまで、錆びきっていたシャベルがすっかり新品、元通り。見てください、この硬い土もこんなに楽々……お、おもっ!」


ドヤ顔で振り回そうとして、腕が悲鳴を上げる。

ルイの忠告通り重い……想像より重い。

よくこれをウーゴはひょいひょい振り回してたな……尊敬するよ、筋肉分けて欲しい。


「おじょう、さま、むり、しないで」


見かねたウーゴが私を心配してくれる。

でもこれは、


1私の腕を心配している

2私の頭を心配している


どっちなんでしょうか……。

前者だと思いたい。


「ほら、これでちょっとは作業がしやすくなるんじゃないかな?」

「……お嬢様、ありがとうございます!」


私の言動に終始引き気味だったルイだけど、シャベルを直していたと分かると目を輝かせる。


「すごい! お嬢様が言う通り楽々です!」

「喜んでもらえて良かった」

「もう、すっごく嬉しいです!」


ルイは嬉しそうに何度も何度も土を掘り返しては、見て見て! と小さな子供のように私に視線を向ける。

いやぁ。些細なことでここまで喜んでもらえるなんて、良いことはするべきだね。


「ウーゴ、お前もお嬢様に強化してもらえよ」

「え、俺は……」

「遠慮しないで、ウーゴもシャベル貸して」

「いい、の……?」

「当たり前よ」


そう言って、ウーゴのシャベルを受け取ろうとしたとき、


「素晴らしい」


背後から声が掛かると共にわざとらしい拍手が鳴った。


「あっ!」


その声の主をルイとウーゴは先に見つめ、息を飲みながら一歩後ろに下がって膝をつく。


「さすがヘンリエッタ様。素晴らしい奉仕精神ですね」

「お、お義兄様……」


振り返ると、アルトがこちらに向かって微笑んでいた。

しかし、あくまでも表情だけで赤く光る眼の奥は笑ってない。


「今のは強化魔術の練習ですか?」

「え、ええ……。ハンナさんからの宿題で」

「それで、使用人のために魔力を……」


アルトは私に感心する素振りを見せながら、ウーゴとルイに目を向けた。

その冷たい視線に、ルイは小さく震えるのが見える。


「あ、あのお義兄様――」

「ははっ、そんな畏まらなくてもいい。俺が今この国の王だとしても、元は平民だ。お前たちと変わらない。……いや、ヘンリエッタ様のご友人であるお前たちの方が身分は高いかもしれないな」

「そんなこと、ありません」

「どうだか」


自分から話題を振っておいてルイの返答には興味がないらしくアルトは肯定とも否定ともとれる相槌を一つ打って、また私に話しかけてくる。


「それにしても、ヘンリエッタ様の寛大なお心を金と権力で腐りきった貴族連中に見せてやりたいものです。今日の会議でも、二言目には『それなら平民の税を上げればいい』……そればっかり。笑っちゃいますよ」

「アハハ……それは策を考えないも同然ですわね」


怒りをにじませながら私に話しかけてくるアルトに私が恐る恐る返答すると、「ヘンリエッタ様は良くわかっていらっしゃる」と、打って変わって満足そうに頷く。


「連中は分かっていないのです。……民にとって税がどんなに苦しいものなのか」

「……お義兄様は優しいですね」

「ヘンリエッタ様にそう言われる日が来るとは思いませんでした」


ポロリと出た言葉に、アルトは笑った。

その笑みはいつもの得体のしれない笑みではなく、画面越しに慣れ親しんだ良くも悪くも傍若無人な彼らしい笑みだった。


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