15:パーティーのそのあと
それからも、ご令嬢たちの「マシューを独占しないで!」という突き刺さるような視線を受けながらマシューと会話をしていた。
途中で痺れを切らしたハンナさんによってマシューとダンスを踊らされそうになったけど、気分が悪いことにしてもらってパーティーを早く抜け、いつものテラスで夜風に当たる。
「疲れたぁ……」
かすかに聞こえてくるパーティーの喧騒に、先ほどの気疲れが戻ってきそう。
出来るだけ視線を遠くにしてぼんやりと手すりに手を置く。
本当に疲れた……。
でも、それだけじゃない。
「楽しかったな」
ポロっと零れた本音に自分でも驚く。
パーティーなんて、堅苦しいものだ。と思っていたけれど、こういったパーティーなら楽しいかも。
本来の自分の誕生日ではないけど、マシューに祝ってもらえたし可愛いブレスレットも貰ってしまった。
銀色のチェーンの真ん中には、翡翠色の石がはめ込まれ神秘的な紋様がデザインされた綺麗なブレスレット。
さっそく私のお気に入りになったそれを見ると、シャラリと音を立てて月明かりを反射した。
マシューのことだからきっとこれには何か付与効果があるんだろうが尋ねてみても、
「どんな効果だと思う?」と、逆に質問してきて結局教えてくれなかった。
だから、ハンナさんやお母様に聞いてみたのに「本人から聞きなさい」ってはぐらかされるし。
私がまだ鑑定術を習得していないからってみんなして意地悪だ……!!
他にもお父様やお母様、ベルとルイ、それにウーゴやハンナさんにもお祝いしてもらった。
今度、皆の誕生日にお返しをしないと!
おしゃれ好きなベルには洋服かアクセサリーでしょ。
ルイには大量のお菓子。それからウーゴには……。
と、考えながらパーティー会場から持ってきたグラスに口をつける。
「おじょう、さま」
声を掛けてきたのはウーゴだった。
今日は姿を見かけないなと思っていたが、ちゃんとパーティー会場にはいたらしい。
フォーマルな服に身を包んだウーゴは、彼を知らない人から見たら貴族の息子に間違えそうなくらいしっかりとしている。
たどたどしい話し方と今現在テラスをよじ登って来る姿を見なかったことにしたら。
「ウーゴ、その恰好……タキシードっていうのかな。似合ってる、すっごくかっこいい!」
「あり、がとう」
ちょっとテンションの上がった私の言葉にウーゴは無表情のまま、「お嬢様が褒めてくれるならこの服好き(意訳)」と続けて話してくれた。
「あの、これ……」
それから、口をもごもごさせながらウーゴは私にお花を渡してくれた。
「え? これ、私に?」
「う、ん。いら、ないとおもう、けど」
「そんなことない!」
ウーゴ渡してきたのは、お花のブーケだった。
いつも庭に咲いている花の。
ウーゴが作ったお花。
いらないわけがない、と私はウーゴからブーケをもらって微笑むとウーゴの眉がちょっぴり下がった。
「あり、がと。俺、にあう、って、おもってた」
「似合う?」
「おじょう、さま、はなみたいな、ひとだから」
真っすぐとした瞳で言われると、ウーゴにとっては純粋な友好の証だと分かっていてもドキリとする。
「ありがとう。ウーゴは優しいね」
返した言葉にウーゴは何も答えない。
それは、ウーゴなりのいつもの会話終了のお知らせ。
だけど、今日の沈黙は違う気がしてウーゴを見る。
「……」
ウーゴの頬が赤く見えるのはライトのせいなのか。
と、思っているとウーゴの背中にまだ花が隠れていることに気付いた。
私がもらったブーケは不器用なウーゴなりに頑張ったくしゃくしゃな包装紙なのに対して、売り物のような包装紙に包まれたそれは、ウーゴっぽくなくて思わず聞いてしまう。
「ウーゴ、その花は?」
「え。こ、れは……た、だ、のざっそう」
「いや、絶対嘘!」
尋ねると、しどろもどろになったウーゴが私の突っ込みでウーンと唸って黙り込む。
え……そんなに聞いちゃダメだったのかな……?
ウーゴの様子に、もしかしてパーティーに来ていたご令嬢から貰ったものなのかも……!
だったら、無神経なことをしちゃった!!
と、頭の中で妄想をしているぐるぐるさせているとウーゴが私に花束を押し付けてきた。
「え?」
「これ、さっき、へん、なヤツから、おじょう、さまに」
「私に……?」
不本意ながら、と言った感じのウーゴから花束を受け取ると赤い薔薇で出来た花束からカードがひらっと舞った。
慌ててそれを拾うと、差出人の名前はないバースデーカードだった。
なんだ、このゴテゴテの乙女ゲーム演出をしてくる謎の人物は……。
「ウーゴ、その変なヤツって誰?」
「しら、ないヤツ。……いっしょに、いるとヤなきぶん」
「そ、そうなんだ……」
「でも。俺、おとな、だから。わたす、のは、わた、した」
「え、ちょっと」
……行ってしまった。
薔薇の花束も、ウーゴのブーケと同じくらい魅力的なんだけど……。
変な人から貰ったって言われると、気味の良いものじゃないよなあ。
まあ、虫が仕込んであるとか危険物が混ざってるとかそういうわけじゃなさそうだし、ベルに綺麗に飾ってもらおう。
なんて考えながら、夜の空気と共に花の香りを胸にためた。




