プロローグ1
確かに私は自室でゲームをしていた。
時刻は深夜1時。
落ち着くからと何年も酷使を続けているよれよれのパジャマを着て、これまた落ち着く大好きなお布団の中で。
最近推しに推している乙女ゲーム、『パンドラ・プリンセス』をしていた。
……はずだった。
目の前の光景が、夢ならば。
「そんなに、びっくりした顔してどうしたの? リタちゃん?」
チチチ、と鳥が鳴き薔薇が咲き誇るどこかのガーデンテラス。
そこにある白いチェアに腰掛けて優雅な動作でテーブルに置かれたお茶菓子を口に運んでいた西洋風の美女が、私を見つめて可愛らしくこてんと首を傾けている。
この光景が夢だったら!
……え?
私、いつこんな美女とお茶会するようになったの!?
考えれば考えるほど、自分でない自分がぞわぞわと迫りくるような気持ち悪さで上手く頭が回らない。
しかし、一つだけ分かることがある。
どうやら、この夢のような光景が現実らしい。
「……痛い」
現に頬を抓ってみると、ひりひりと痛みを知らせてくる。
いや、痛覚があるからという理由だけで、現実だと信じたわけでない。
ガンガンと鳴り続ける頭の中で“私”でない誰かが私にこう語り掛けるからだ。
『どうして驚いているの? この人は私のお母様でしょう?』
と。
成人済みの女に美少女ともいえるくらい若い母がいてたまるか!
と、冷静に思う。
……思うんだけど、今の私は私であって“私”ではないのだ。
私の予想が正しければ。
私は、椅子から飛び降りてすぐそばにあった水たまりの前で身を屈めた。
太陽をきらきらと反射させて揺らめく水面の中そこに映ったのは、美少女。
「……やっぱり」
このピンクがかった金髪……“ゲームの私”に言わせるとストロベリーブロンドの髪をなびかせる彼女。
それはもう私がよく存じ上げている人物そのものだった。
私の愛する『パンドラ・プリンセス』の最強にして最凶のライバルキャラ。
「ヘンリエッタ……」
ヘンリエッタ・アーシェが映っていた。