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12:欲深い悪役令嬢のハッピーエンド

私の精神衛生上よろしくないマシューから逃げ出して、テラスに出る。

風通しと日当たり良好なテラスは私のお気に入りの一つ。

真っ赤になった頬を冷やすように、風に当たっているとウーゴがいた。

詳しく言えば、テラスに、ではなくテラスの屋根に寝っ転がっていた。


相変わらずなウーゴの姿に、ちょっとほっとする。

今日のマシューが非日常的すぎてね。

っていうかさっきのイベントが発生しちゃったのは、私が原因ではあるけど半分くらいはウーゴのせいだと思う。

ちょっとくらいウーゴに抗議してやろうか、と目を閉じて眠っているウーゴを見上げる。


ウーゴの言い方については仕方ないけど、せめてマシューに触られているときは黙って去らずに止めてほしかったな。


そう考えていた私の念が伝わったのか、ウーゴは起き上がって胸を押さえた。

……そこまで恨んでも呪ってないはずなんだけど。


「上、登っていい?」


私に気付いたウーゴに話しかけて、屋根に登ると寝転ぶ。

この世界に来てからずっと屋根で寝るのに憧れていたけど。

これはウーゴが隣にいないと見れない景色だなあ。

一人だと好奇心より恐怖心が勝ちそう。


横に座ったウーゴを見ると、私が文句を言わなくてもさきほどのことを気にしていたらしく申し訳ない顔をして謝ってくる。


「俺の、せい? よけい、なこと、いった。から、おこっちゃった」


「大丈夫よ」


マシューがこのことを根に持つタイプとも思えないし、学園では君たち仲の良い学友だったから相性はいいと思うからね。

それより。


「どうして助けてくれなかったの!!」


「え?」


一番言いたかったことをウーゴにぶつけると、意外そうな顔をした。


「今後マシューに私が、その、……ああいうことされてても空気読まなくていいからね」


「わか、った。おじょう、さま、がいやなら」


そう言うと、ウーゴが頷いたので私は適当に話を変える。

これ以上この話をしてもウーゴは謝るか落ち込んでしまうからね。


「そういえば、ウーゴはどうして魔術が使えるの?」


「んーと、……ひとつ、だけ。じい、ちゃんが、おしえて、くれた」


「そうなんだ」


じいちゃん。

ゲームで治癒魔術を使うこともなかったので魔術自体を嫌っているのかと思っていたけれど、違うらしい。

ウーゴの表情が、それを物語っている。


「俺は、ばか、ぢからだから、きずつけ、ちゃうことたくさん。……その、とき、ごめんなさい、いえる、おまじない」


「この前、私にしてくれたね」


「そ、う。ゆうき、でる」


ゲームの中じゃない、目の前にいるウーゴは記憶よりも幼くて、表情がある。

ちゃんと生きている。当たり前だけど、そう感じてウーゴの体温を思い出した。

ひんやりとしたささくれた手。

私が微笑むと、ぎこちなく笑ってくれるウーゴ。


子供らしくとはいえないが、それでもニヤリと口の端を上げるウーゴを見ていると、じんわりと胸が熱くなるのを感じた。

ヘンリエッタと同じ11歳だもんね。笑いたいときくらいあるよ。


ウーゴが眉間に皺を寄せて自分の過去を話さなくても、そういうキャラだから。ウーゴは笑わないキャラだからルートに入ったギャップが良い、なんて軽く考えていた昔の私が恥ずかしい。


「……笑ってたらいいのに」


「……え?」


「みんなとたくさん笑って、怒って、悲しいときは泣けるウーゴになれたら……」


ゲームの。

近い未来の。

ウーゴよりずっといい。


少なくとも私は、今のウーゴを見てしまったらゲーム内で遠くを見つめるウーゴには戻れない。


……

「結婚するまで適切な距離を保とう」と言っていたゲームのマシューが恋しい気持ちはあるけど。

選択を間違えた(?)のは私なんだもんね……。


考え事をしながら、まだ柔らかい表情をしているウーゴをちらりと見る。


「……ん?」


私の視線に気付いたウーゴが小さく首を傾げた。


「ウーゴはさ……」

今、幸せ?


問いかけようとして、やめた。

私が聞くのはずるい気がしたから。


……だって。

シルフィアと出会っていれば、ウーゴもマシューも全員、確実に救われている。

そういう未来を私は知っている。

ウーゴが現実逃避をするように眠って、嫌な記憶を消すことも感情を殺すこともない。


分かっている。


自己満足のために、幸せかと聞いても意味なんかない。

そんなことを聞くくらいなら、今からコーナー家に押しかけてでも“私”と“私の両親”以外が幸せな未来を作ればいい話。


それを、私は自分の都合でそれを選択しなかった。

軽率な自分の行動に今更気付いても遅い。


だけど、今こうやって私と笑いあっているウーゴの中に、辛かった幼少期の思い出が少なくなっていることを願う。

ウーゴは、友達……というか、ひとつ屋根の下で暮らす、私にとって家族みたいなものだしね。

一般家庭よりかは範囲が広いけど。


学園を卒業して、私の家族と言える人たち。

私とお母様とお父様と、ベルとルイ。

それにウーゴ。

みんなで笑いあえる未来のために。


まだまだ出来ることはあるはずだ。

本当は、全員が幸せになれたらいいんだけど、きっと私では難しいから。

せめてお母様と、それに家族といえる人たちは幸せにしたい。


「へん、な、おじょう、さま」

と、さっき私がウーゴに言った言葉のお返しをされながら、ひっそりと私は決意を新たにした。

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