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9:魔術は一日にしてならず

来客のない静かな午後の部屋に窓ガラスを叩く雨音が響く。


「はぁ……」


マシューが遊びに来るのも好感度的な意味で困るから良いんだけど、ずっと部屋にこもって本や勉強ばかりするのも憂鬱だなあ。

分厚い教科書とノートを放り出して伸びをすると、厳しい顔をしたハンナさんが私を見る。


「ヘンリエッタ、手が止まっております」


「……はい」


ハンナさん、というのはこの前マシューとの面白い人談義に出てきた家庭教師で、あれから私の家庭教師も引き受けてくれることになったのだ。

11歳にして王宮学術師以上の知識と実力をもつマシューには教えることもあまりないらしく、最近は週に3、4回は私の部屋に来ては勉強や作法を教えてくれる。

ハンナさんはマシューが面白いと言うのも納得できるほど知性と教養のある方で、王宮で働く若手No1の学術師の呼び声も高い。まさに有能な人だ。

そんな見た目も性格も出来る女なクールな彼女は、お母様の従妹にあたる方だそう。似てない……!


ハンナさんに何度目か数えることもやめた注意を受け、私はもう一度分厚い教科書と向かい合う。

ええと、さっきこの行は20回筆写したから、次は下の計算式を20回筆写して。

それが終わったら、ハンナさんと暗記チェック。

……腕痛いなあ。


「はぁ……」


思わず漏れたため息にハンナさんの鋭い視線が突き刺さる。

ぶっちゃけると、この視線はちょっぴり苦手だったりする。


ちなみに、こういう時に休憩を提案してくれるベルとルイはぐずつく天気のせいか、廊下のあちこちで花瓶を割ってしまい絶賛叱られ中だ。


かれこれ2~3時間ぶっ続けで行われる授業に手もだけど精神的にも疲れてきたが、ハンナさんは黙々と私に与える宿題づくりをしている。

家庭教師はあくまで副業で、本業は王宮勤めなのに私と勉強する時間を作ってくれているハンナさんが真剣なので文句は言えないよね。

しっかりついていかなきゃ……!


ちなみに、今やっている勉強は魔術です。

言いたいことは分かる、思ってた勉強法と違うよね。

私も魔術の授業が楽しみだった分めちゃくちゃがっかりして、こんな地味な授業はおかしい!

学園ではバンバン魔法陣を出現させて授業をしてた! ってハンナさんに抗議したんだけど魔術は感覚でなく理論で魔力を使用するので、基礎となる詠唱や魔法式を覚えなければ実践をしたところで意味がないらしい。

ということで、今覚えているのはこの前ウーゴが私に使ってくれた治癒魔術。


どうやらヘンリエッタは全く魔術の勉強をしてこなかったらしい。

魔術が出来ないウーゴですら習得している治癒魔術を扱えない私って大丈夫なの。

ちゃんと王国の優秀な学生のみが入学を許される魔術高等学校に進学できる? 

ゲームだったら20くらいある基礎魔術が習得済みの状態で始まってたよ、と絶望した私だったけどハンナさんの絶望はそれ以上だったみたいで、

「私が教えるからにはヘンリエッタを立派な公爵令嬢にして、4年後には学園に首席で入学させる!」

とお父様とお母様に宣言して、今のスパルタ特訓が始まった。

幸い、魔力は人並み以上なので暗記さえ頑張れば基礎魔術は習得出来るらしい。

頑張らないと。


学園には絶対入学しないといけないし、入った後学園の中で死ぬことがないように物理的に強くなりたい。

それにマシューに恋愛対象として好かれたくないだけで、むしろ推しには好かれたいのでマシューが魅力的だと思うハンナさんのような教養溢れる人にはなりたい。

かっこよく魔術を決めたい。

もっと、賢くなりたい。


考えは違えど私もハンナさんと同じ考えだ。大賛成。


でも、首席は無理だと思うよハンナさん。

だって、同学年にマシューがいるからね。


「やる気になりませんか?」


考え事をしていたらまた手が止まっていたらしく、顔を上げるとハンナさんが私を見つめていた。


「ごめんなさい」


「いえ。気持ちは分かりますわ」


怒られる、と思ったら意外にもハンナさんは私の言葉に無表情のままだが頷いた。


「ヘンリエッタもまだ子供です。遊びたい盛りなのに急に勉強しろと言われても難しいのは分かっているのです」


そう言いながらハンナさんは私の机にある教科書を自身に寄せて、治癒魔術の次に覚える予定の光魔術を見せてくれた。


「可愛い」


白いふよふよとした光は自分の意思を持つかのように私の周りを飛び回った後、部屋にあったランプの中に入っていく。

地味だけど、ちょっと可愛いから習得したいなあ。

私の表情が明るくなったからか、ハンナさんは次から次に私が覚えるべき魔術を見せてくれた。ハンナさんなりに休憩を作ってくれたのかな。

でも、基礎魔術というのは傷を治す・光を出す・アクセサリーに付与効果を与えるなど凄いこと間違いないけれど絵が地味なものばかりだ。

なので、派手そうな魔術をリクエストしてみる。


「ハンナさん、次は炎みたい!」


「いいですが、今のヘンリエッタには習得できませんよ」


「えっ、そうなんですか?」


「治癒など詠唱や魔法陣を使って自然に働きかける基礎魔術はともかく。ヘンリエッタが見たい魔術は精霊と契約を行うことが必要だからです」


「け、契約……?」


「そうです。学園の中で、選ばれた者だけが入れる祠でそれぞれの属性を司る精霊と契約しなければ使えませんよ」


ハンナさんの言葉に、言われてみれば攻撃魔術って特定のクエスト報酬だったことを思い出した。

あれって、魔法式を習得したから出来るようになったと思ってたけど違ったんだ。

たしかに、クエスト名【サラマンダーの祠】とかだったような。


「じゃあ、マシューの水系魔術も?」


「マシューがウンディーネの加護を受けているとは聞いたことがありませんけど」


「ごめんなさい、勘違いしていました」


そうだった、マシューが水系魔術を使えるようになったのも学園に入って3か月後の話だった。

だからマシューに水系魔術を見せてって頼んでも断られるのか……!


「ヘンリエッタはオリジナルの魔術も作りたいと言ってましたが、契約した精霊の能力と魔法式を応用すれば作ることは可能です。しかし契約、という言葉から分かるように本来魔術というものは危険です。……魔術が大きければ代償も大きくなる。本人の魔力が枯渇してしまうほど魔力が必要となる魔術、時には命を懸ける契約もあります」


淡々とハンナさんは続けると、そういいながらも小さな炎を出してくれた。

さっきから、詠唱も魔法陣も使わずにポンポンと出しているハンナさん、凄いな。

私は暗記が出来ていないっていうこともあるけど、治癒魔術の魔法陣を出すだけで1分はかかる。


そのあとも雑談を交えながら色々な魔術をハンナさんは見せてくれて、今日の勉強会は解散となった。

ついでに、アルトが言っていた“禁術”についてもそれとなく聞いてみたが首を傾げられるだけで終わってしまった。

やっぱりアルトの嘘だったのかな。






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