第二十話 第三騎士討伐戦 その2 討伐担当交代せず
この洞窟は大雑把に言って三層になっている。
層の最後には階段があり、その層で最強の魔物が手前にいるという感じだ。
一層目のボス大鬼、二層目のボス武装大鬼まではあっさりB班が始末。
現在第三層目を依然としてB班先頭で攻略中というところだ。
「魔法を使う敵がいなくて幸いですね。この洞窟の状況では魔法以外の飛び道具は使えませんから」
「魔力あとどれ位残っている?」
「私はもうすぐ半分という感じかな。清花は?」
「同じくらいかな。あと六割」
生活班、魔力的にも非常にタフな模様。
このまま最後までいくのかな、そう思った時だ。
不意に前方の気配が大きくなる。
危ない。
「魔法防護壁・大強化片側適応!」
予呪文で込めていた魔法をB班前面に展開する。
「大楯!」
沙羅先輩も同時に盾魔法を展開した模様。
敵の魔法がより敵側に展開した沙羅先輩の盾魔法に弾かれて火花を散らした。
「黄泉醜女と黄泉雷神ですね。本来のここの大ボスです。防護魔法を展開してありますので、思い切り攻撃をお願いします」
花梨先輩の説明にBパーティの先頭二名がそれぞれ攻撃魔法を放つ。
「なら必殺、電子レンジもといγバースト!」
「瞬間冷凍術奥義、極光処刑!」
えげつなく高出力の魔法が敵二体に襲いかかった。
「まだ耐えているよ、すごーい」
「まだまだ! みじん切り流星拳!」
「これでどうだ! 空間包丁千枚殺!」
「単純明快な超強力レーザービーム!」
魔法によるタコ殴りだ。
何処かで似たような状況を見たなあと考え、すぐ思い出す。
牛鬼の時だ。
あの時より技の名前の厨二度は下がったが効果は上がっている模様。
敵ボス二体は二度目の攻撃を出す余裕も無く消失する。
「やったか、気配はどう?」
「残っていない。綺麗さっぱり蒸発した感じ」
「というかやり過ぎじゃ無い。何か向こうの岩が溶けかけているんだけれども」
私の魔法防護壁の向こう側がドロドロになっている。
「仕方無い、ちょっと冷やそうか。極光処刑!」
ドロドロに溶けかけていた岩が凍り付いた。
やり過ぎだ。
仕方無いので私が魔法で適温にもどしておく。
何せ洞窟の中という閉鎖空間だ。
下手な事をしたらこっちの命が危ない。
「さて、本当ならここでC班と交代なのですが……」
花梨先輩はそう言ってため息をついた。
B班の皆さんは気づいていない。
でも戦闘班で敵の気配を探る技能があるD班の皆さんは全員気づいている。
「終わっちゃった、よね」
ポニテの台詞にツインテが頷く。
「そうですね。第三騎士、既に影も形も無くなっています」
そう、今の激しすぎる攻撃が倒したのは敵ボス二体だけではなかった。
「ガンマ線は透過しやすいですからね。奥まで思いっきり届いたと思うよ」
「その後この奥を一気に絶対零度近くまで温度を下げ、一気に二千度近くまであげただろ」
「しかも空間断裂使ってガンガンに中の空間を切り裂いて」
「結果、第三騎士の前駆体もひとたまりもなかったね」
CパーティことD班の皆さんは暇だったので状況を細かく観察さえしていた。
ズタズタにされた第三騎士の前駆体が全ての力を失って消失していくのを。
「じゃあこれで討伐戦は終わりなの?」
「ここでの戦いに関しては終了だ」
沙羅先輩も何だかな、という表情だ。
まさかこんなに簡単に終わってしまうとは思ってもみなかったのだろう。
「では戻りましょうか」
花梨先輩の言葉に皆さん頷く。
「そうだね。思い切り魔法を使ったらお腹空いた」
「まあ調理魔法も進化したしね。これなら幾らでも早く料理できるし」
「でももう少しレベルが上がれば時間魔法も手に入ったかな。そうすれば必殺瞬間炊飯もできるかもと思ったんだけれど」
「レベル上げって意味あったっけ」
「無いかな、やっぱり」
「ゲームじゃないもんね」
絶好調のBパーティと反対に消化不良気味のCパーティことD班の皆さん。
「まあ第三騎士が倒されたんだから、めでたいと思わないとね」
「でもこんな感じに倒されたと思うと、前世の私達って何か可哀想じゃない?」
「取り敢えず結果だけを見ようよ。第三騎士は倒された、めでたしめでたし。それでいいと思うよ」
壁や極悪女、ポニテの台詞が微妙に虚しく洞窟内に響いた。