第十七話 久しぶりのフィルメディ その2 巡察騎士の本拠地
「ここからは私が案内する。勝手知ったる場所だしな」
佐和さんが先頭で歩き始める。
私は念の為最後尾だ。
近づくと砦の入口に見覚えのある女性が立っているのが見えた。
年齢は三十そこそこ位のやや小柄な女性騎士だ。
佐和さんがのこのこという感じで近づいていく。
「巡察騎士自ら見張り業務とはご苦労なことだな」
「貴殿は……グラード様ですか!」
『ついに念願かなって幼女になられたのですね』
音声と魔法音声でそんな台詞が返ってきた。
『幼女は愛でる対象でなるものじゃない。自分の裸を見ても面白くもなんともない』
「相変わらずで何よりです」
彼女はこちらに向き直って一礼する。
「カーラ様及びお付きの方々、フィルメディにようこそいらっしゃいました。私は巡察騎士のミオネと申します。これより皆様をヴァトーの元へ案内させて頂きます」
カーラ様というのは花梨先輩の事だろう。
王女という地位が関係者以外に伝わると面倒なのでこの偽名で通すらしい。
「出迎えありがとうございます」
『ミーちゃん、気楽にいこうよ。こっちの半分以上はミーちゃんもバトちんも知っているしさ』
この魔法音声はポニテだ。
ミーちゃん呼ばわりされた女騎士はポニテを、そして全体を見てため息をつく。
『豪華な英霊行列ですね、これは』
『まあそんな訳で、案内宜しく。まあここは勝手知ったる元本拠地だけどな』
『他人の目もありますので案内させて頂きます』
そんな訳で砦の中へ。
ここの砦はフィルメディ建国時のもので、今は砦としての機能は使っていない。
主に巡察騎士団と情報連絡部が事務所代わりにしている。
機密情報等を扱うのに町外れで訪れる人も少ないこの砦は何かと都合がいい。
中廊下を歩きながらポニテに尋ねる。
『杏奈先輩はミオネを知っているのか?』
『うちの元隊員だよ。あの戦いの十日前に巡察騎士補に昇任して異動したんだ』
なるほど。
『亡くなった舅姑に見張られている気分です』
ミオネからそんな魔法音声の軽口が返ってくる。
一世代上の上司連中の引率をしている訳だから仕方無いな。
私も舅扱いされそうな立場だし。
「今回は第三会議室を使います」
第三会議室は砦後方の別棟、普段はあまり使っていない筈の場所にある。
ここ十数年のうちに別棟を使うようになったのだろうか。
そんな事を思いつつ私達はミオネの後を歩いて行く。
ミオネは階段を登り直進し、左に曲がったところにある両開きの扉をノックした。
「ミオネです」
「入ってくれ」
中は四角くテーブルを並べたタイプの会議室だ。
細身で鋭角な印象がある綺麗な女性が立って待っている。
ヴァトー巡察騎士長本人だ。
もう二十年弱経つ筈だが私が知っている彼女とそれほど変わっていない。
「サラステクス第七王女カーラ姫、及び護衛騎士サーラ殿、並びに英霊の方々、本日はこのような古い砦にご足労頂き大変ありがとうございました。
私が巡察騎士のまとめ役をしておりますヴァトーでございます。宜しくお見知りおきお願い致します」
「巡察騎士長自らありがとうございます。私は王女と言えど今は流浪の身、ですので形式的なお気遣いは無用に願います」
「まあ儀礼的なものはこの辺でいいでしょう。姫は私の横に座っていただいて、あとは適当にどうぞ」
そんな訳で大体準備室に座っているのと同じ感じで全員席に着く。
ミオネが一度下がり、飲み物を持って戻って来た。
各席にそれぞれ蜂蜜酒を薄めたものを配り、最後に末席に着く。