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第十六話 合宿の終わり その1 花梨先輩と私の誤算

 牛鬼対策終了後のD班のテント内。

 D班全員と花梨先輩沙羅先輩、それに佐和さんまで一緒だ。

「思った以上にこの世界での魔法・魔力トレーニングが効いてしまったようです」

 花梨先輩はそう言ってため息をつく。

「元々皆さんこの世界にいるだけで、基礎魔力が知らないうちに伸びていきます。それに遙さんが効率的な魔力の引き出し方を教え込んだ結果、こんな状態になってしまいました」

「それって牛鬼が弱かったって事じゃなくて、私達(こっち)が強くなってしまったという事?」

 壁の台詞に花梨先輩は頷く。

「そうです。何なら確かめてみましょうか。移動魔法(トラベルミン)!」

 長距離移動魔法で何処かへと移動。

 場所はすぐにわかった。

 GWに訓練したあの熊野山中の洞窟前だ。


「皆さんここで奥の第三の騎士を確認してみて下さい」

 どれどれと思いつつ走査(サンテ)をかけてみる。

 以前ほど中鬼が脅威として感じられない。

 大鬼すら大したことのないように感じられる。

 そして最奥に眠る第三の騎士の前駆体は……あれ?

「この程度だったっけ、あの敵って」


 花梨先輩はもう一度ため息をついて、そして頷く。

「あの存在は前駆体なので成長出来ないんです。出来るのは魔力を溜めて本来の力で目覚める事だけ。

 でも貴方方は成長しました。結果がさっきの牛鬼戦です。牛鬼は本来かなり強力な魔物なのですが」


「試した方がわかるだろう」

 これは沙羅先輩だ。

「軽くこの洞窟の中へ入って戦ってみればいい。花梨が言った事がわかるはずだ」

「そうですね」

 花梨先輩が武器を取り出して各々へと渡す。

「今日はあまり時間が無いので、第一階層の奥までにしましょう」


 そんな訳でパーティを組んで歩き出す。

 入ってすぐ中鬼が集団でやってきた。

「こんな物なら詠唱もいらないな」

 壁が槍技だけで中鬼の集団を壊滅させた。


「遙さんは最後尾でお願いします。代わりに理澄さん、先頭をお願いします」

 そんな訳で先頭を理澄と変わって私は最後尾へ。

 理澄と壁を先頭にパーティは進んでいく。

「あれこんなところに中鬼が」

「ハイできあがり」

 壁と理澄がほぼ技だけでどんどん中鬼を倒していく。


「何かGWの時と全然違うな」

「それだけ皆さんの魔力が上がったんです」

 中鬼を殲滅させながら歩いていると一段大きめの反応が出てきた。

 いよいよ大鬼のお出ましだ。

「今度は英美里さん、やってみて下さい」


「わかった」

 英美里さんが前に出て槍を構える。

「魔槍裂波!」

 槍先に光魔法を乗せて連射する魔槍技だ。

 大鬼はこっちを向いただけで動きを止め、消失した。


「これでわかったと思います。たった三ヶ月の間に皆さん強くなったんです」

「でも昨年はここまで一気に魔力は上がらなかったよ」

 ポニテがもっともな疑問を口にする。


「ええ。その原因は大きくわけて三つあります」

 花梨先輩が頷いて解説を始めた。

「ひとつは遙さんのおかげです。この世界での魔法の起動の仕方とアトラ世界におけるそれは少し異なります。この世界は世界の魔力希薄な分、魔法を起動しにくい。その辺を熟知した遙さんの指導のおかげで主に今まで魔法をあまり出せなかった方の魔法が一気に伸びました。

 二つめは今年の研究会の会員構成です。魔力の大きい一年生が多数加わった事で魔力の相互作用が働き、今まで以上に魔力や魔法の伸びやすい空間が形成されました。

 三つめはこれらの相乗効果です。皆さんそれぞれの魔力が大きくなると、更にそれが相互作用をもたらし魔力や魔法伸びやすくなる。その結果今年度に入ってから全体の魔力が急上昇した訳です。

 特にこの合宿期間、皆さんが同じ場所で訓練を行った事で魔法や魔力が成長しやすくなっています。そこで遙さんに色々細かく指導していただいた結果、とんでもない事になってしまった訳です」


 私も思い当たる事があった。

「世界に存在する自然魔力と人が身につけている魔力は性質が少し違う。自然魔力は魔法を起動する抵抗になるが、人の魔力はむしろ魔法起動の助けになる。世界の魔力が希薄で人の魔力が過密なこの場が一段と魔法使いとしての力を引き出した訳か」


「でもそんなに簡単に魔力や魔法って伸びるものなのか?」

 壁はまだ微妙な顔をしている。

「その証拠が遙さんが行った寒冷魔法と雷魔法の講習です。普通はあの程度の時間であれだけ魔法が使えるようになるなんて事は考えられないでしょう。

 前世のアトラ世界では半年頑張っても知らない系統の魔法を身につけるのは困難です。でも遙さんの指導で皆さんそれを一時間程度で越えてます。これはこの世界の持つ魔法の特殊事情と集まった事による伸張作用がなければ考えられない事です」


「前世では私はいくら修行しても光魔法しか使えなかった。でも今の私は寒冷魔法も雷撃魔法も使える」

 英美里さんがそう言って頷き、私の方を見る。

「そんな訳で遙、申し訳無いが明日以降は火、風、水魔法も頼む」

 おい英美里さん! そう来たか!

「そうですね。皆さんの今後のためにもこの機会を最大限に活用しましょう」

 私以外の全員が頷いた。


 なんでそういう結論になるんだ!

 私はじっと手を見る。

 働けど働けど我が暮らし……

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